VS海堂王威3
「しゃあないな……体への負担がデカいから温存しといたんやけど、切り時やろな」
パリッ、と。
萬屋さんの身体に電気が流れたような気がした。しかしそれはすぐに収まる。
僕はB級昇格試験の前、萬屋さんと話したことを思い出す。
『どんな〈術〉なんですか?』
『〈神令〉……体内電気信号の強化と操作や」
海堂の合図とともに《尖蓋龍》が放たれる。萬屋さんは真っ直ぐに突っ込んでいった。《尖蓋龍》の頭剣が萬屋さんに迫る。
その鋭い切っ先が萬屋さんの頬に触れる寸前、萬屋さんはほんのわずかな動きだけで剣をかわし、胴体を破壊した。流れるように二匹目も破壊する。先ほどよりも素早く精密で、無駄のない動きだ。
直後に地面を蹴り、再び海堂へと突貫する。
「……《尖蓋龍》はもう意味がなさそうだな……〈術〉か?」
海堂の両腕を紅の鱗のような殺気が覆った。そして紅龍の額から跳び降りて構える。
「《龍鱗》……来いよ」
萬屋さんは速度を上げる。その超高速度のまま、海堂の目の前で跳躍して頭の上を飛び越える。
「ッーーなにッ?」
海堂も即座に振り返り、着地するであろう地点に視線を向ける。しかし視界の中に萬屋さんはいなかったようで、驚愕の声を上げた。
「《天踏》……更に《断界・縛》」
海堂の真上。ごく小さな《断界》に逆さまに着地していた萬屋さんが真下の海堂へ腕を伸ばす。殺気術の銘を宣言するとともに出現した一枚の《断界》が、海堂の両腕と胴体を拘束した。
「なんだコレはッ、……上かッ!」
萬屋さんは《天踏》で宙を蹴り真下に跳躍する。そして気配で気がつき、僅かに顔を上げた海堂の額へと《神貫手》を振り下ろした。
しかし、《神貫手》が額に届く寸前に、紅い鱗がその突貫を阻む。
「ふ、残念だったな……《龍鱗》は三枚あるッ!」
「それがなんや」
萬屋さんは《天踏》で宙を蹴り、地面に素早く着地する。海堂は〈剛〉の出力をさらに上げ、《断界・縛》を砕こうとする。が、海堂が額に青筋を浮かべるほどに殺気を込めても、砕くことが出来ない。
「その《断界・縛》は《断界》の強度で相手を拘束する殺気術や。防御は堅くても基本は遠距離タイプのあんたの〈剛〉じゃ、そう簡単に壊せへんで……。おまけや」
《断界・縛・三重》。萬屋さんがそう呟くとアスタリスクを描くようにさらに二枚の《断界》が出現し、海堂を拘束する。
「これでしまいや。あんたがどれだけ防ごうと、殺気術同士の衝突は、防御側の方が殺気の消費が激しい。いつかは殺気が切れるやろ」
「くっ……紅龍ッ!」
べこん、と紅龍の尻尾がさらに胴体に吸収される。《紅鳴砲》が放たれるが、萬屋さんに難なくかわされる。
が、同時に紅龍は海堂へ高速で近づき、その全身を飲み込んだ。
「……他人の殺気に満たされた空間では《断界・縛》の効果が薄まる……抜けられるのも時間の問題やな」
萬屋さんは身体を包む〈剛〉の出力を極限まで上げる。さらに〈縮〉で〈剛〉を圧縮し、全身の殺気の密度を限界まで高めた。
「《断界・縛》は解かれていない。あいつは元いた場所から動けないはず。狙うことは可能や……。やけど《龍鱗》で防がれる可能性がある。それよりも……」
萬屋さんは紅龍の巨大な体躯、その尻尾の方へ目をやった。
「召喚系、遠距離系の殺気遣いを相手にする時のセオリーは本体を叩くこと。やけどこの状態になったら話がちゃう。砲台にして盾、砦であり、更に《硬蓋龍》の殺気タンクにもなっているらしいこの紅龍を破壊することが……最良の攻略法やろな。海堂を飲み込んで動けないうちに……解体する」




