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ひとしきり落ち込み反省をしたアンナリーゼは、ある決意をした。
「アンナリーゼ様?どちらへ」
これまでレンブラントから招待を受けない限り、彼に自ら会いに行く事は1度たりともなかった。
だが今は緊急事態だ。行儀は悪いが致し方がない。
アンナリーゼは、馬車の準備を待てず徒歩で城へと向かった。その姿に慌てた馭者とフロラが後ろからついて来た。
歩いて門を潜るのは初めてだ。門兵は徒歩で現れたアンナリーゼに驚愕していたが、そんな事は今はどうでもいい。いつものアンナリーゼなら、はしたなくて恥ずかしいと身を縮こめるかも知れない。
だが、今は気にしてなどいられない。
「どいて頂けますか」
このやり取りを、暫く続けている。目の前にはルネが戸惑いながらも、扉の前を塞ぎアンナリーゼを入れない様にしていた。
「申し訳ございません。レンブラント様は、その、今取り込み中でして……」
取込み中……お楽しみ中……⁉︎
以前偶然読んだ本の内容に、そんな言い回しの言葉が出て来たのを覚えている……。
遅かった……彼は既に他の女性と……あんな事やこんな事を……。
「アンナリーゼ様⁉︎」
情けない、だが涙が溢れてしまって止まらない。私はもうレンブラントには必要ない……結婚しても、お飾りの妻にしかなれない……レンブラント様の愛は、もう他の女性へと移ってしまった……。
ボロボロと涙を流すアンナリーゼに、ルネは慌てふためく。そんな時、部屋の扉が開いた。
「アンナ、リーゼ…………?」
「レンブラント、さまぁ……うぅ」
3日振りにレンブラントの姿を見てアンナリーゼは、安心して気が抜けてしまい更に涙が溢れた。
「どうしたの?」
彼の優しい声が聞こえる。だがいつもより艶っぽい声色に思えた。それに顔も上気していて赤い。やはり、彼は今まさに……。
「も、申し訳、ございませっ……お楽しみ中、だったのに、うぅ……お邪魔、して、しまっ」
「お楽しみ中?」
レンブラントは訝しげな表情を浮かべる。だがやはり顔は赤い。
「はい……ルネが、そう言って……レンブラント、さまは、今、女性と……うぅ」
瞬間レンブラントの鋭い視線がルネに刺さった。ルネは必死に首を横に振り、言っていないと主張する。
「兎に角、ここでは周りの目もあるから……部屋の中に……入っ、て」
バタンッと音を立てて、その場にレンブラントは崩れ落ちた。
「レンブラント様‼︎」
「レンブラント様⁉︎」
アンナリーゼとルネの声が重なる。ルネはレンブラントに駆け寄り抱き上げた。