幸せに、なれない?
優香さんの料理が家に届き、僕はテレビを観ながら食べていた。すると、いきなり目の前が真っ白になった。
僕は真っ白で何もないところで倒れていた。そんな僕の前には一度見たことのある人だ。自分のことを神様という謎の男だ。
「君は自分のことを何もわかってないらしいね」
神様と名乗る男はそう言った。
「どういうことですか?」
そう僕が質問すると男は
「君は幸せになったら消滅してしまう」
と言った。
訳がわからない。なぜ幸せになっただけで僕は消滅してしまうのだろうか。バカバカしい。
そう思っていると男は
「この世はバランスというものがある。俺は神様と名乗っているが神様ではない。俺は神夜和馬、お前の父だ」
と言った。
僕の父だと和馬が言った瞬間僕はこう言った。
「嘘だ!お前が僕の父?冗談にもいい加減にしろ!」
僕は男にブチキレた。ここまで僕を幸せになれないとほざいといて最後は僕の父と名乗るなんて。そして何も考えることなく、キレていた僕は
「だいたいあんたが父なら僕を捨てたことになる、そんな人の話なんて信用できるか!」
と男に罵声を浴びせた。
男は言い返すこともできなかったのか、そのまま黙ったままこの場を去った。
「月影、月影、月影」
目を覚ましたら光が叫んでいた。
「月影、大丈夫?気を失ってたんだよ」
僕が、気を失っていた?
「何かあったの?」
言えない、言いたくない、言ったら迷惑をかけてしまう。だから僕は今までの出来事を話さず、机に頭を打ったことにした。光はバカだから納得してくれた。こんなことで人は気を失うことなんてないのにな。
「それよりも早くごはんを食べたほうがいいよ」
「そうするよ」
僕は箸を持って再び優香さんの料理を食べ始めた。
「ごちそうさまでした」
そう言って僕は洗った食器を優香さんに渡した。
「気を失っていたらしいけど大丈夫?」
どうやら気を失っていたことは優香さんも知っているらしい。変に心配されるのは困るから大丈夫と答えた。すると優香さんは
「私たちにできることがあったら言ってくれていいからね」
と言った。
その日の夜、僕は冷静に考えてみた。神夜和馬の言っていた幸せになったら消滅してしまう。その理由はなぜなのか?僕はそれが気になる。なぜ僕は幸せになるだけで消滅してしまうのだろう?
思い返してみれば気になることはたくさんある。不幸なことしか起きないこと、幸せを感じることがなかったこと。その2つのことがあったからまだ消滅せずに生きているのだろう。昔、福島家から追い出したのももしかするとこのためかもしれない。
もう一度和馬と話したい、このことについて詳しく教えてほしい。
「さっきはごめん、言い過ぎた」
僕は和馬に謝った。和馬は
「いいよ、あれは僕が悪いんだから」
と言って許してくれた。
「いきなりだけどなぜ僕は幸せになるだけで消滅してしまうんだ?」
そう僕が質問し、その秘密を話してくれた。
「お前は神への生け贄なんだ」
僕はそれを聞いて、無表情になった。それはまるで、顔に血が流れていないかのように白く、笑顔というものを知らない生き物のような無表情だった。
和馬は続きを話し始めた。
「君は残念ながら生まれた日の夜に、今の君のようなことが僕たちにも起きた。神様は僕と君の母に君が生け贄だと伝えた。当時は信じたくなかった。君の母も僕も泣いていた。なぜ君なのか?そうずっと思っていた。だけど君を捨てなければ僕たちが死んでしまう。誰も死なない方法は君を捨てることしかなかった。だから僕は君を捨てた」
そうして僕と和馬の会話は終わった。ただ、消滅してしまう理由は知ることはなかった。