32 闘武聖祭
闘武聖祭当日
通路の端に所狭しと屋台が並べられ道の中央では踊り子や朝っぱらから既に酒に酔った人達が踊っている
そんな活気に包まれた道を抜けて目的の場所に出向く
シャリデスト帝国が最大規模を誇る巨大な闘技場の入口近くにある掲示板に張り出されている大きな羊用紙
祭り初日から5日かけて行われる闘武聖祭の目玉である聖闘大会参加者のマッチング表だ
初日と2日目は10人による選抜戦
3日目は5人対戦による予選
4日目からは1対1の本線
最終日の5日目は準決勝からだそうだ
年にだけという事もあって人族領全土から挑戦者がやってくるみたいで初日で大幅に数を減らさないと4日に収まらないんだとか
今年の参加者はなんと総勢894名 全国に散らばる冒険者や傭兵 休暇中の騎士もいれば食事処の店主やサーカス団の役者だったりと個性的な人も参加しているらしい
1から10ブロックまで別れており更に1-1から1-5と区切られている
各ブロックから5名が勝ち残り全ブロック合わせて50人となったら残りの394に混ざり同じことを行う
ここで44人にまで絞られ3日目の5人対戦の予選に移行する
4日目には9人になりシード枠有りの1対1が開始される
5日目は4人になり準決勝から始まり3位決定戦と最後の決勝という流れだ
この大会の変わったところと言えば棄権ができないとのこと
どんなに強い相手と当たろうが運が悪かったの一言で片付けられるらしい
1-1から見ていくと1-2にユサハの名前があった だいぶ早い出番だ
6-4にマサルの名前がある 彼のことはよく知らないので要観察でしょう
肝心な私だが8-2にある 選抜戦は弱い者が多いので1試合が早めに終わるがそれでもだいぶ遅い出番だ
「おっすアリサ 出番はいつ頃だい?」
「バグルスですか ゆっくり昼食を取ってもまだ時間があるぐらいです」
「あちゃぁ...なら食べ歩きしてくるかな」
「調べ物はいいのですか?」
「今はいいの!そんなことより食べることの方が楽しいんだい!」
私の出番が遅いと聞くなり来た道を戻るバグルス
自由奔放なバグルスらしいと言えばらしいのだろうか
そんな事を考えたがまずは一通り試合を見て実力者を割り出さなくては
いくら現代とはいえ人間の潜在能力は侮れない所がある
いつの時代でも情報は何にも勝る武器なのだから
『勝者 ロドネス・グリュード!』
闘技場の一角に座して低い演算能力と無駄にある記憶能力をフル稼働させてずっと試合を見ていた
ユサハについては流石勇者の格を持つだけある
優勝候補として名前が挙がっていたせいか傭兵のような身なりをした巨漢達が一瞬で徒党を組んでユサハを取り囲んだのだが男とは思えない体のしなやかさと強化系統と風系統の魔法を駆使して一人一人確実に潰して行った
一瞬で相手の懐に入り込み鳩尾や首 挙句の果てには股間に少々中指を突き出した独特の握り拳や短剣の柄を叩き込んでいく様は正に暗殺者のそれだ
マサルは見た目とは裏腹に相手を待ち受けカウンターを主軸とした安定の戦いをしていた
1歩も動かずその巨体に合った大剣を上手く扱い相手の剣を弾くか剣の腹で弾き飛ばしてく様は剣士と言うより砦のような感じだった
私の場合は相手の後頭部を殴り飛ばしていただけなので特に面白みもない試合だったと思う
その他にも優勝候補と呼ばれる者達を見たがぶっちゃけるとマサルにすら届いていなかった
今日最後の試合である10-5の勝者のロドネスと呼ばれた人当たりの良さそう笑みを浮かべている青年の彼もマサル以下だった
なんてつまら...情けない
どうした人族 神代で唯の訓練なのに城の一角を粉砕していたあの暴れようを成していた力はどうしたの...?
「あれ?アリサさんいたんだ これから皆で晩御飯食べに行くんだけど一緒にどう?」
俯き気味だった顔を上げるとそこには最近よく見る6人組 勇者一行がいた
晩御飯と聞いて空を見上げると既に真っ暗だ 星がよく見える
「今日は遠慮しておきます 連れが待ち構えてると思いますので」
「そう?分かった それじゃまた明日」
「カッコよかったですよ!」
「じゃな アリサさん!」
「さよなら〜!」
私のことなんてこれっぽっちも疑っていないような純粋な笑顔
ユサハと暗殺の仕事に協力していたとは思えない気軽さだ
バグルスが押し付けてきた勇者の監視役 これなら私でも出来そうな気がしてきた
「おい あれ蹂躙の血濡れ姫じゃないか?」
「今日も瞬殺すんのかな」
「なんか見てて面白かったよな」
2日目は問題なく終了し今は3日目の午後
複数人の相手は面倒なので最初から半分の出力を出している
今の時代たった半分の出力でも人族にとっては捉えられない速度らしく誰一人抵抗なく加速した拳と蹴りで気絶していった
観客から見れば正しく聞いていたフレーズ通りですっかり''蹂躙の血濡れ姫''という異名が定着しつつある
こんな異名さっさと撤回したいのだがそうは問屋が許さないようで...
『決まったァ!タイムはなんと2秒!5人をたった2秒で地に沈めたアリサ選手 正しく蹂躙だァァァ!!』
「「「「ワァーーー!!!」」」」
と 面倒になって適当にやったらますます定着していくのだ
隊長なら「カッコイイじゃん!」と喜んでくれるだろうけどリーリエからは絶対笑われる
因みにバグルスは既に笑っていた 厚ぼったいローブを羽織りフードを深く被って観客席から笑っていた
後で覚えてろよと睨みを入れて関係者用通路を通り観客席に戻るとそこは女子多めで人集りが出来ており私を囲んでいる
「アリサ様握手して下さい!」
「私にも!」
「どうしたらそんなに強くなれるんだ?」
「アリサお姉様ぁ愛してるわぁ!」
「「「お姉様ぁぁぁ!!」」」
...明らかに女性にも男性にも見えない自称乙女が混じってるのはなんの冗談だろうか
それにこの集団の私を見る目が妙に輝いている気がする
確かに憧れの存在や好きな人といった自分にとって特別な立ち位置にいる存在を相手にしている人は皆目に輝きが宿っている事がある 喜んでいる証拠だ
にしてもその度合いが強すぎるように見えるのはさすがに気の所為ではないだろう
それしか考えてないというか何かに突き動かされているというか...
辺りを見渡せば観客席の隅で口を手で抑えて肩を震わせている厚ぼったいローブを着たバグルスがいた
ふとバグルスの能力が脳裏をよぎった
バグルスの能力は生物に対する優先権 それは戦闘だけでなく言動でもその効果が現れる
一つ指示すれば生きとし生けるもの全てはバグルスの手足となる それは神代でオドガルムが言っていた言葉だ
ならこの人達はバグルスに指示されて私を囲んでいるのだろう
この優先権の言葉を解除出来るのはバグルスと隊長以外存在しない
殺気を混ぜた視線でバグルスを睨めば笑い終えたバグルスが指をパチンと鳴らした
するとどうだろう
「あれ 私達何を...」
「どこだここ?」
「あらん?ワタシたっら何してたのかしら」
「試合が始まってるわ 見に行かなきゃ!」
と記憶が抜けたかのように私に目もくれず散っていく
だから近づいてきたバグルスにも容赦する必要は無いだろう
「バグルス 用意は出来てますね?」
「ふ...ふへへへ 蹂躙だって...!姫だって...!久々にだいぶ笑わせてもらったよ そして残念だったねアリサ ここじゃ僕を捕まえられないよ 【僕に気づくな】それじゃさらば!」
「は?...あッ!?」
天井のない闘技場の床を蹴り一瞬にして外に出たバグルス
しかし風圧や音が発生していたはずなのに誰みこっちを見ようとしない
僕に気づくなと言っていたため優勢権を発動したのは明らかだ
優先権は魔力に働きかける魔法ではなく魔素を操作する魔術でもない
示魂という生物の根源である魂に直接働きかける呪詛に近い能力だ
生物に対する優先権のため生物ではない私には通用しないが生物である人間はその魂に直接バグルスの指示が刻まれるので理性が介入する余地がなくその行為を実行しようとする
奴隷に用いられる隷属系統の魔法と違い使命感や存在意義として捉えることになるので行動に迷いや躊躇いはなくなる
理想の傀儡になるのである
それを発動した以上バグルスがどんな行動をしようとも言葉を刻まれた彼らは誰もが気付かず忠実に行動を起こす
例えそれがどんなに過激であろうと




