21 過去
「クソが...負けてたま...ぐ!」
「引けぇ!一旦体勢を立て直...っが!」
「ひぃ!ば...化け物!来るな...来ないでくれぁあああああああああああ」
血の雨が降り死体が地を埋め尽くす戦場 神の創造物が暴れるそこに魔人族は一切の抵抗も出来ず死体が塵のように地面に積もり血が当たり一面を隙間なく覆い隠している
カーナー大陸の中央に位置するその草原は今は血に濡れ死体に埋もれ綺麗だった姿は微塵もなくなってしまっていた
「敵第4陣崩壊を確認 各機報告」
『2番機 殲滅完了』
『3番機 敵情報収集中』
『4番機 敵勢反応完全消滅を確認』
『5番機 行軍中の敵陣確認 接敵まで5分』
戦場各地に散らばる5つの影 1つは死体の山に腰掛け 1つは屍に囲まれ 1つは敵を刻み 1つは僅かに息あるものすら両断し 1つは敵を見据え 人族を滅ぼすために歩んできた魔人族軍計第4陣総数560万はたった5つによって全滅 生き残りは1人もいない
「データ受信 敵性反応200万 本陣と断定 各機戦闘配置」
『2番機 了解』
『3番機 了解』
『4番機 了解』
『5番機 了解』
鈴のような 穏やかな 爽やかな 獅子のような 涼やかな 5つの無機質な声が聞こえたと同時に 遮る物がない死体の地の向う側から飛来してくる数々の魔法 直撃 高揚 歓喜そして驚愕 唖然 失意
「各機 戦術級兵装の使用を許可する」
そして反撃 鈴のようで無機質な声が響けば各機の左腕を丸ごと覆い隠し現出する5つの砲門
大型魔素圧縮砲 大型圧縮斬水砲 大型電磁加速射出機 80cm榴弾砲 集束太陽光照射砲
魔力を圧縮し放たれる有害 水を圧縮し現れる刃 電磁加速によって撃ち出される巨杭 爆裂魔法陣満載の大口径榴弾 集束した光による獄炎
爆発 切断 爆発 爆発 熱線 立て続けに起こる滅尽の嵐は進行中だった魔人族の尽くを滅ぼし 辛うじて息のある者が数百人 それももう息の根で全滅するのも時間の問題だ
しかしそれを待つことはない
「殲滅開始」
無慈悲 その言葉が最も現れる瞬間だ 生き残り強くなるであろう者を誕生させないために 自分が主と慕う者を邪魔する者を叩き潰すために 信念と執着の赴くままに敵を破壊するために''破壊''は動く
「おはよう我が家族 これから生まれるだろう者達の長女よ」
それが私の記憶の中に存在する初まりだ 眼の前に佇むのは私が敬愛し主として認識している準創造神 全知全能と謳われている創造神の子にして原初の再来と揶揄された神々の希望で救世主
主は変わり者とよく音響機構が音を拾う あらゆるモノを創造する権能を持ちながら全てをではなく一個一個創造し組み合わせるという斬新な発想を持ち 知識欲の求めるままに地上に現界したり異世界に顕現することがよくある よく人間と関わり合う それが主が変わり者たる所以
「久しぶり...って言っても覚えてないよね これからは君は俺の家族だ よろしくレヴィ」
それから主は思い耽る 考える時は頬に手を当て女性のような仕草をするのが癖のようだ 私の名前はミストボルディア・レヴィディオラ 私が以前存在していたような口振りだったが以前の記憶は存在しない 私の知らない私がいた とても不思議な事だ 周囲を眺めているとふと壁に立て掛けてある2つ物が目に入る
「槍...」
思わず発音してしまう それを聞いて何やら思いついたのか立て掛けてある槍を見て主が頷く
「槍...霧害質槍''スピリット''と重引力槍''グラビニア''かい?...うん そうだね...そうだよね...まだ感覚は残ってるん...だよね...」
「感覚?」
「いや何でもない 前々から作っておいたレヴィ専用の槍があるんだ と言ってもランスだけどね」
主が用意してくれた槍 私だけの槍 主とお揃いではないが主が作ってくれたのだ 体の歯車が疼くように振動する 生き物の感情でいう喜びなのだろう
「お待たせ これがレヴィの槍 ''ドレッドノート''だ カッコイイだろう?腕に装着させて使うんだ」
「これが...私の槍...」
1目見てそれはただの槍ではないと誰もが思うだろう 槍といえば先端に刃あり 後端に石突きがある物だ
主は重槍もといランスと言った ランスとは円錐形に柄がある刺突に完全特化した槍だ だがこれはただのランスではない 刃もなく石突きもなければ柄すらない 従来の重槍に比べればさらに刺突に特化させたが如く細く長い円錐で後ろに短く所々穴が空いている小さい円柱で塞いである 腕に装着させるタイプであるためなのか私の腕の細さより少し大きめの円柱が槍内のボールジョイントらしき物で連結していてよく動く まるでこれが本来の腕なのかのように 二の腕は分厚い装甲で覆われており肩の部分は何か連結するのかカバー兼シールドの鉄板の塊 しかも何かと連結する部分の穴が二の腕にも付いているではないか
「凄いだろ?レヴィの槍だからこれからも絶対使ってね 俺はこれからレヴィの防具を作るけどどうする?隣の部屋にいろいろあるけど...」
「それなら作成している所を見ていてもよろしいでしょうか?」
「いいよ 興味あるかい?」
「はい 主がすることに興味があります それに私の防具なのですから身体も必要でしょうし出来上がる様子を記憶しておきたいのです」
これから私の防具がどのようにして完成するのかがとても気になる 主が私のために作成してくださった防具この機が壊れるまで共にいる防具だろう 勿論主のことも気になるが今はこの世に産み出される私だけの防具がとても気になって仕方なかった 思えばこれが私と主の創造に魅せられた瞬間なのだろう いや既に魅せられているのか
一日中共に防具を制作していた 時に私から要望を出したり 主から案を出したり 私の身体を測定したり
本来神々の住まう場所は天界と呼ばれ 空より上の世界 月こそ天界 と謳われているのだが残念な事に天界は輪廻の輪を用いた転生を行う世界の事だ あと空の上は宇宙 月もただの月なので関係ない ここ神々が集うは神域 この星の中央に位置しているおり周りは獄界 俗に言う地獄に囲まれている といってもその正体はマントルなのだが
神域の中を主の後ろを密着しながら歩いていると向こうから歩いてくる男性が私を見て顔を逸らした その表情はまるで友人を失った者のように 扉から出てきた女性は微笑ましい物を見た表情なのだがどこか悲しみが宿っている 何故私を見て嫌な顔ではなく悲しい顔をするのか不思議に思っていると主はある扉の前で足を止め振り向く
「ここが俺の部屋だよ ささ入って入って」
「お邪魔します...」
異様に広く正直言って小汚い 汚れはないが試作品なのか趣味で作った物なのか小物から大物まで多種多様な物が散らばっている 床に小物が散らかっていないだけマシだと思う しかし疑問なのがベッドが二つあること 丁度部屋の中央に線引きしてあるように片方の部分は綺麗だった 人形があり 可愛らしい小物があったりで女の子らしい部分だ 推察するに女性と部屋を分けているのか
「ここがレヴィの部屋だよ そして俺の部屋でもある 左が俺のスペースで右がレヴィのね」
「シェアですか?」
「そうだよ...」
何か懐かしむような 慈しむような それでいて悲しむような表情 何か悲しんでいる人が多い気がする
「今日はもう遅いから明日からいろいろ教えてあげるよ それじゃお休み」
「お休みなさい」
せめて悲しさを和らげようと 優しく手を握って笑顔で言う すれば主はもう悲しまないとばかりに笑ってもう一度お休みと言い床に就く 私は機械だから休んで意味があるのかと思ったが...
「ふぁ〜あ...眠気があります...眠いのですから寝ても大丈夫です...よね...」
あえなくして床に就く
「逃げろ!ここは俺達が抑える お前達若手が世界の新たな指示者として引っ張っていかねばならないんだ!だから逃げてくれ 俺ら老いぼれに構わず行け!それにお前にはワルキューレに護衛されて逃げ切った...将来絶対必要になる男が...お前が愛しお前を愛してくれる奴がいるだろ!」
「いや!僕は破壊神の名を授かっているんだ!だから一緒に戦わせてお父様!皆で防げば逃げる隙は出来るはずだよ!だからお願い!」
これはいつの記憶だったか 確かそう 以前の記憶だ 僕が犯した最初の愚行 僕の我儘を押し通した記憶だ そして皆を絶望に叩き落とした時の記憶だ
「来るぞアレス!エンシェントフレイムの雨だ!」
「っぐ...クソ!【エクステンドウォーリアーベース】!」
「来たれ魔界門【ソロモンズゲート】!」
迫り来る青白い炎の雨を透けた黒色の要塞が防ぎ 召喚した魔界門から魔物が溢れ敵に襲いかかる
だが年とは言え先鋭の味方達を圧倒した敵 そんなのは意味を成さず切り捨てられ次々と味方が死んでいく
青白い炎で焦げる者 剣で心臓を貫かれる者 死体も残らぬほどに細切れにされた者
圧倒的不利 そして残すは小さな女の子とその父親だけ
「もうダメか...逃げるぞ...!」
「お...お父様!ここで逃げては皆に迷惑が!もっと時間を「戯け!」っう...」
「いいか...俺は戦神だ...お前は破壊神だ...だがな...お前には創造神の息子がいる 大事な人がお前を待っている 俺はな今までお前に戦うことしか教えてこなかった...それが俺の役割だと思ったからだ...だがそれは俺の自己満満足に過ぎん ただ一度も父親らしくしてやれたことが無い...だから頼む...最後は...せめて...父親としていさせてくれ...!」
「お父様...」
「例え俺は誰が死のうと関係無ねぇ!...だけど...大事な...俺の大事な娘だけは...ヴィーナの忘れ形見のお前だけは...絶対に死なせたくない!戦神ではなく父親として戦神としてなんて今はどうでもいい!今はただ...ただ1人の親としてお前を守るんだ!」
父親...戦神は戦うことを放棄した 本来彼はそれは許されないし許さない だがお父様は私を逃がすのに必死だった その顔は涙で 鼻水でぐしゃぐしゃで 本気で生きてほしいという父親の顔
「レヴィ!アレス!こっちだ速く!」
「お前なんでまだ!クソが絶対に...死なせてたまるか...!絶対に...絶対にぃ!っつ...ガキ!落としたら容赦しねぇぞ!愛してるんならぜってぇ掴め!っオラァ!!!」
「お父様!?」
彼は矢を受けていた 私がさっきまで顔を当てていた心臓のところに それを意味する所は当然
「っと...アレスも!...アレス...」
「へへ...これでも父親なんだよ...いいかガキ...絶対泣かせるんじゃねぇぞ...死なせたら容赦しねぇ...死んでも絶対に生き返らせろ...相思相愛なら絶対守りやがれ!っぐ...【ステラスオーバーロード】全開!...【モードチェンジ・ハザード】ウルァァァァァァァァァ!」
「お父様...ダメ...ダメだよお父様!...お父様ぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「アレス...それが君の道なんだね...っうぅ...絶対に...っぐ...約束守るから...っつ...誇り高き...我らが戦神に...っぐす...礼...!」
父親の背中 今までも背中で語る彼の背中は雄弁に物語っていた
「お前が生きているのが俺の幸せだ」と
そして矢に滴る血が表していた
「俺と同じ道を歩むな」と
彼は後悔しているのだろう 自身の感情すら殺し戦う兵器として産んでしまったことを
彼は失望しているのだろう 戦神はただの肩書きであって父親のとしての意地ではないと
彼は懺悔しているのだろう 戦神として娘を育て父親として育てなかった自分の怠惰を
「お父様...僕は...私は...お父様が戦神である事が...誰よりも誇りでした...どうか...ヴァルハラで...私を見守ってください...!...っぐす...」
「...アレス...俺は誰よりも貴方が頼りだった...先生であり義父であった貴方が...誰よりも...だから...後は...俺に...任せろ...!」
敬礼 武を象徴する彼に対しての最大の敬意 今は出来る最大の礼
そして僕ら若手と1部年配の神やワルキューレを乗せ 彼が愛用した鋼鉄の城''ベルセルク''が飛び立った
だが父が散った戦場を見ている時 不意に体が軽く感じた 力が入らないのではない 重量が減る感覚 まるで中から何かが抜けていくみたいに 中から...何かが...
「...どうしたんだ...?っつ...どうしたんだ!返事しろ!...なん...い...こ...えてく...れ!...ィ!」
ノイズが走る
「...懐かしいって言えばいいのかな...悲しいって言えばいいのかな...切ないって言えばいいのかな...なんと言おうと帰ってこないお父様...なんと言おうと返ってこない幸せ...なんと言おうと今は側にいない主...頼もしい仲間が...戦友が...妹達と弟達が居てくれるはずなのに...僕は兵器として生まれ変わったはずなのに...心はいつも締め付けてくる...辛いよ...主...アルス...!」




