01 ゴブリンを労働力として活用する社会
短編作品「逆にゴブリンがこっちの世界に転移してきたら」を分割したバージョンです。
内容は変わりありませんが、少し読みやすくなると思います。
(短編バージョン)https://ncode.syosetu.com/n6469ji/
ある日、私が出社すると、そこには「ゴブリン」と呼ばれる、子供くらいの体躯の人型の生物が、掃除機を持って清掃作業を行っていた。
いつもオフィスを清掃してくれているおばちゃんの姿は見えず、代わりにタブレットを持った清掃会社の社員と思しき若い男性が、巧みに三匹のゴブリンに指示を出し、効率的に作業を終わらしていく。
「課長、清掃会社を変えたんですか?」
私は思わず課長に尋ねてみた。課長は「上からの方針で」と、経費節約の為にゴブリンを導入した格安清掃会社に切り替えたと言う。
課長とそんな話をしている内に、オフィスはどんどん綺麗になる。以前のおばちゃんより遥かに効率が良いようだ。
私は「大したものだ」と、タブレットを持った清掃会社の、おそらくゴブリンの監督者であろう若者を一瞥する。
それに気付いたのか、若者は軽く笑顔で会釈をすると、再びタブレットに向かい操作を始める。
タブレットはゴブリンの首や手首、足首などに付けられた発信機と連動しており、そこから微弱な電気を出して、彼らを操っているようだ。
「清掃の仕事も随分変わったようですね。命令するだけの仕事なら、なりたがる人も多くなるのでは?」
私が失礼なことを若者に問いかけるも、彼は怒りもせずあっけからんとした態度で、タブレットを動かしながら答えてくれる。
「とんでもない、効率が良くなったぶん、仕事量が増えてしまいました。このビルも以前は数人で手分けしていたけど、今は一人で一日に何棟も廻らないと、いけないんです」
そう言って彼がタブレットをタンッと叩くと、後ろでゴブリンが「ギャッ!」と悲鳴を上げる。
「ああ、すみません。こいつが、あなたの朝食を狙ってたみたいで・・・」
見ると、私がコンビニで買ったサンドイッチが、ゴブリンがその小さい手の中に収まっている。
「ほら、戻して!」
若者がバチバチと電気を流しているようで、ゴブリンはついに観念して、盗ったサンドイッチを元の場所に戻す。
「すみませんね、清掃中は貴重品の管理は自己責任でお願いしてるって、そういう規約になっていまして・・・」
若者が頭を掻いて詫びると、そこに課長が割り入って会話に入ってくる。
「こちらこそ、周知が足りてなくて、すみません。ヤマダさん、グループラインで周知しただろう?」
課長の言葉に、ああそう言えば、と通知が来ていた事を思い出す。
私はどうもSNSによる業務連絡というものが苦手で、ついつい見逃してしまいがちになる。
私はゴブリンに握り潰されたサンドイッチを噛りながら、スマートフォンを操作する。
清掃会社変更のお知らせ
弊社の契約していた清掃会社は、来月よりゴブリン清掃会社に変更となります。
ゴブリンの特性上、盗難防止の為に朝の8時から8時半の間の貴重品は、自身の管理にて行うようお願いします。尚、もし清掃後に紛失が発覚した場合は・・・
私はスマートフォンをポケットに仕舞うと、パソコンを立ち上げる。溜まっていた業務を整理しながら、「この仕事もいずれゴブリンに取って代わられるのかねぇ」と、誰にともなく呟くのだった。
※登場する人物はすべて架空の人物であり、特定の人間を揶揄するものではありません。




