ブラックブル生息地帯までの旅路2
エレナさんがツジギリマンティスを倒して、昼を終えてから数時間。
日は傾き、夕焼けが眩しい時間帯となった。
ブラックブルが生息している平原まで、二つの町村を経由する予定だ。
最初の町には明日の昼過ぎ辺りに着けるとのこと。
なので今日はここら辺で野営しようと思ったのだが……
「「「ギャッギャー!」」」
野営の準備に入ろうとしたらゴブリンの群れに襲われました。
最初は五十匹くらいのそこそこの規模の群れだったのだが、騒ぎを聞き付けた他のゴブリンたちがゾンビゲームの如く襲って来ている。もう既に二、三百匹は倒してるんじゃなかろうか?
えっちなアニメの雑な導入みたいだな。数で押されて捕まる的な。
「とりゃー!」
「ディスチャージ!」
―――ドーーーンッ!
―――バチバチバチバチッ!
まぁ地面を破壊する威力の飛び蹴りを繰り出すエレナさんと、くらった瞬間に絶命しそうな電気を放つ鳴が、えっちなアニメみたいな状況に陥ることはまずないんですけどね。
てか二人をそんな目に遭わせたくないし。
「俺の出番はなさそうだけどね」
エレナさんから「ゴブリン程度、奴隷のボクに任せてよ!カガリくんはご飯作っといて」と言われたので、戦いを観戦しながらただいま鍋で具材を焼いています。そろそろミノタウロスとオークの肉を入れて良いかな。
ただエレナさんばかりに戦わせるのはやっぱり心情的に嫌なので、鳴にも行ってもらっている。
―――ドゴーン!バゴーン!スパパーン!
―――ビシャーーーン!
「「「ギャーーーーーー!?!?!?」」」
「あはははは!どんどん来るねー、メイちゃん!」
「そうですね。食事前の良い運動になります」
どれだけ押し寄せようとも、来た傍からエレナさんに身体を蹴り切られたり、鳴に黒焦げにされるゴブリンたち。
無双ゲームみたいで爽快感があるな。
……全体に火が通って来たら、数種類のスパイスを入れて軽く混ぜ合わせるように炒めてから、水を入れてと…。
スパイスから作るの初めてだから、合ってるか不安だな…。
「でも襲って来たアイツらの自業自得とはいえ、可哀想になってくるな。アソコまで蹂躙されてるのを見ると」
しかしゴブリンは使える素材もない、女性を攫うただの害悪な魔物でしかないし、惨たらしく絶命するべきだとは思うけど(ちょっと過激な思想)。
女の子が可哀想な目に遭うのは嫌だしね。
「ギャッギャー!?
「「「ギャギャー!」」」
ようやく終わりが見えて来た頃。残り数匹となったゴブリンたちが逃げ出した。
それを二人は追い掛けて仕留めるかと思ったが、そのようなことはせずにエレナさんがゆったりとしたペースで、ゴブリンをただ追い掛けて行った。
「あれ?今すぐに仕留めないのか?」
この場に残った鳴に、鍋にすりおろし林檎をぶち込みながら聞く。
「はい。倒したゴブリンの数は総勢五百を越えています。周辺にいた群れが押し寄せて来たにしては多すぎます。もしかするとコロニーがあるかもしれないと、エレナさんが逃げたゴブリンの後を追って行きました」
「コロニー?巣ってことか」
「はい。コロニーにはホブゴブリンはもちろん、剣や槍を使うゴブリンソルジャー。ゴブリンキングなどがいます。ソルジャーはDランク、キングはCランクです」
「オークみたいにマジシャンはいないのか?」
「いませんね。ゴブリンには魔法の才能はないので」
「ふーん」
その程度のゴブリンしかいないなら、見つかったら俺たちで即潰しに掛かっても大丈夫そうだな。
「と、そうだ。そろそろシルバーは出しても良いんじゃないか?」
「そうですね。シルバー、出て来なさい」
雷帝の下僕からシルバーが出て来る。
少々複雑な顔をしている。これは一緒に戦ったり、背中に乗せて走ることが出来なくて申し訳なく思っているそうだ。
「ほれ。好物の人参だぞー。ゆっくり食べろよ」
「ブルル…」
シルバーはまだ産まれて?間もない。
それなのに随分とプライドが高い馬だと思う。ダクネスに為す術なくやられたのが相当ショックみたいだったし。
でもダクネスに与えたあの一撃のおかげで、無事に闇の衣を攻略することが出来たんだ。
少しだけでもいいから、誇って良いと思う。
ボリボリと人参を食べるシルバーの頭を撫でて、「早く良くなって、鳴の助けになってくれ」と言うと、少しばかり元気が戻った気がした。
「シルバー。落ち込むなとは言いません。ですが、いつまでも引き摺ったままではいけません。ダクネスのような強者が現れた時、また貴方の力が必要になります。私たちと一緒に、一歩一歩強くなっていきましょう」
「ヒヒーン!」
まだ少し覇気がないが、元気良く返事するシルバー。
やっぱりこういうのは大好きな主人に慰めてもらうのが一番だな。
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「たっだいまー!偵察から戻ったよ〜」
「おかえりなさい。ちょうどご飯出来ましたよ」
「わーい!もうお腹ペコペコー。今日の晩ご飯はなにぃ?なんかめっちゃいい匂いするけど」
「これはハンバーグと同じくらい、子どもが好きであろう食べ物なんですけど」
鍋の蓋を開けて、中身を見せる。
するとエレナさんが「え゛?」と信じられない物を見るような目で、茶色い液体物を見る。
「えっと……これは?」
「カレーという食べ物です。パンと一緒に召し上がれ」
「……………こ、個性的な色合いだね…」
「まぁ初見だとそうなりますよね。でも匂いはめっちゃ良いでしょ?」
「そりゃあめっちゃ良いけど……うーん…。この……う〜ん…」
エレナさんの反応に思わず笑いが溢れる。
いやまぁ、言いたいことはわかる。わかるよ。でも味見した感じ、物足りなさはあったけどちゃんと美味かったから安心して欲しい。
「まぁ食ってみなって」
「うん。じゃあ……いただきます」
俺からカレーが入った器を受け取り、目を瞑りながらスプーンで掬って一口。するとすぐに……
「お、美味しいーーー!こんな美味しい物がこの世にあったなんて!?」
「はいいつもの飯落ち頂きましたー」
「頂かれちゃいましたー!はむっ……うーん!パンとの相性が最高ー!」
「そうなのですね。それを聞いて安心しました。では、私もいただきます」
「ん?なんか今聞き捨てならぬ言葉が聞こえたような…?」
「!? 美味しいです〜!これを食べる為に産まれて来たのかもしれません!」
実はエレナさんを毒味役にした鳴がハンバーグを食べた時みたいな反応をする。
二人とも大袈裟だな〜。
「それで、ゴブリンのコロニーとやらは見つかったんですか?」
「……うん。無事に見つかったよ。逃げたゴブリンがコロニーに着く前に仕留めたから、ボクたちの存在は知られてないはず。ただ……予想はしていたけど、厄介なことになったね」
そう言ってエレナさんは、険しい顔で言葉を続けた。
「姿は確認してないけど……コロニーから、女の人の声が聞こえて来た」
ぶっ潰せー!
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