メンヘラエレナさん?
「す、すすすすす、好きー!?」
「はぁ…。やはり彼女の主人はキミか。カガリくん」
「あはは…。はい。エレナさんの主人です」
「下僕でーす♪」
「変なこと喋んな!?」
本当にとんでもない爆弾を落としてくれやがったなこの人!
いきなり俺を好きとか言っちゃってくれて…。
「だ、だからって!わざわざ奴隷になる必要がどこにあるっつうんだ!?」
「うーんとね。Aランク冒険者は低ランクの冒険者と一緒に、基本クエストは受けられないでしょ?でも奴隷になれば冒険者資格は剥奪されるし、彼らと一緒にクエスト受けれるようになれるでしょ。戦闘奴隷として」
そう。エレナさんは奴隷になったことにより、つい先ほど冒険者カードをギルドに返納したのだ。
奴隷が冒険者資格を持っていても、指名依頼とか一部のクエストを受ける時の手続きが面倒になるらしいからな。
いちいちその人の主人に許可を貰ったりしなきゃいけないし、奴隷は貴重品とかそういう所有物扱いだから、もし借りて死なせてしまおうものなら多額の賠償金が発生するとか。
まぁエレナさんが死ぬところとか想像出来ないけど。
返納時もギルド内は大変な騒ぎになったが、今はもっとカオスで騒がしいぞ…。
「い、言っときますけど、俺は遠慮しましたからね?そんなに一緒にいたいなら勝手に着いてきて、俺たちの後ろでクエストを見守るなりすれば良いのでは?って。女の子の気持ちを無碍には出来ないっていうか、ここまでメンヘラだと断ろうにも断れないというか…」
「めんへら…?」
「愛が重い人って意味です」
とりあえずエレナさんの爆弾を訂正することなんて叶わないと思い、アドリブで適当なことを言ってみる。
実際メンヘラの素質ありそうだし。この人…。
「愛が重い女でーす♪」
「受け入れるなよ…」
「な、なるほど…。その様子だとキミも苦労してるんだな」
「ええ。縁あって北の森で見つかったダンジョンを一緒に攻略したんですが、そこで料理を振る舞ったら『お婿さんになって』と急にプロポーズされまして…」
「それだけじゃないよ!どこかの同期たちとは違って、彼はボクの面倒臭い性格や気持ちを受け入れてくれるし、ドジしても怒るどころかフォローして優しく接してくれるんだよ。こんなの好きにならない方がおかしいって」
「そ、そうですか…」
ルドルフさんがエレナさんの熱弁にタジタジだ。この感じだとエレナさんと話すのも初めてだろうし、ただでさえ強烈な性格をしているのに、こんな惚気を聞けばそうもなるだろう。
しかしこれだけではまだ理由は甘いと思ったのか、「それにね」と苦笑しながらエレナさんは続けた。
「もう一つ理由があるんだけど……疲れちゃったんだ。Aランクの仕事」
「疲れた?」
「うん」
彼女の様子から、これまた只事ではないと察してか、ポツポツと話すエレナさんの言葉に皆が耳を傾ける。
「だってさ。毎日毎日、ボクにしか出来ないって大変なクエストばっか回してくるんだよ?他にもちょうど暇してるAランク冒険者はいてもさ。ワイバーンの群れの討伐とか、フェンリルの怒りを沈めてくれとか、迷宮都市のダンジョン50階層の素材を取って来てくれとか……そんなのばっかりだったんだよ?」
シュリさんから嘘の判定が来ない。ということはこれって事実…!?
やっば!エレナさん超ブラックな働き方させられてんじゃん!?しかもスパイ活動もしてたんだろ?よく病まなかったな…。
エレナさんの話を聞いて、侍の人が同意した。確かユウガって呼ばれてた気がする。
「それは……確かに疲れますな。忍耐強い俺でも、流石に毎日そのようなクエストが舞い込めば、一ヶ月で倒れてしまいそうです」
「でしょー?それで慰安旅行みたいな感じで辺境の街に来たら、こっちはこっちで新たなダンジョンを探索&攻略して欲しいってクエストを頼まれたんだよ?嫌になって逃げたくなっちゃうのもわかるでしょ…」
ムスッとした表情で俺の肩に頭を置いてくるエレナさん。
ルドルフさん、ランディさん、ユウガさんたち三人も、そんな様子を見て唖然とした表情になって、何も言えなくなる。
ついにはこの場にいる冒険者全員が同情し、ギルド職員を責めるような視線を送る始末。
「ひっ!すみませんすみません!知らなかったとはいえ、そんなに追い込まれていたエレナさんに未探索のダンジョンを攻略をお願いしてしまい、本当にすみませんっ!」
馴染みの受付嬢さんが怯えつつも、真っ先に頭を下げて謝罪する。
そんな彼女の元に、一人の幼女が紙を持って近付いていく。鳴である。
「このブラックブルをお願い致します」
「えっ?」
「……ある程度理解して頂けたかと思いますが、エレナさんはパパの奴隷になることで癒しの期間を設けたのです。しばらくすれば解放されて、冒険者として復帰すると思うので、それまでに彼女が働きやすい環境にしておいてください。それがギルドに出来る誠意かと思います」
「は、はいっ!すぐにギルド長に報告して、本部にエレナさんに対する扱いなどを見直すよう提言させますっ!」
そう言って馴染みの受付嬢さんは、すぐにブラックブルのクエストを受理してくれる。
「ではそろそろ行きましょう。パパ、エレナさん。お肉が待っています」
「お、おう…。マイペースなお前がこんなに頼もしく感じたのは初かもな…」
「それは褒めて頂いてるのでしょうか?」
「褒めてる褒めてる。すみませんルドルフさん。俺たちはそろそろ」
「ああ。その、エレナさん。申し訳ありませんでした」
「俺も!アンタの気持ちを知りもせず、あんなこと言って……すんませんした!」
「ギルドの皆の分も含め、俺もすみませんでした…」
ルドルフさんたちの謝罪を受け取り、エレナさんは「そこまで気にしてないからいいよー」と言って、俺の腕を引っ張ってギルドから出た。
「うーん!ようやく解放されたね〜」
「良いんですか?エレナさん。疲れてるなら宿で留守番してても良いですよ」
「大丈夫大丈夫!カガリくんたちと一緒に冒険するの好きだし、さっき言ったことは気にしなくていいよ〜」
本人がそう言うなら俺も気にしないけど……それとは別に気にすることがあるんだよな…。
南門に向かいつつ、俺はエレナさんに聞いた。
「そういや最初の俺を好きって言った奴は……」
「ああアレ?もちろんただの方便だよ♪好きなことには好きだけど、そういう意味で言ったんじゃないし」
「あ。なーる」
だからシュリさんの判定に引っかからなかったのか。紛らわしい…。
「……たぶん。そうだと思うなぁ…」
「ちょっと?当事者なんだから自信なさげに呟かないでくれます?」
ダンジョンでの嘘のつもりだったプロポーズが嘘判定くらわなかった話のせいで自信がないエレナさん。
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