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超優秀で

 Aランク冒険者。

 食事中に鳴から簡単に聞いた話だが、実力、信頼、実績が高い者だけが得られる階級とのこと。

 特に実力面がレベチ。たった一人でBランクの魔物を倒せるほどの実力を有してるらしい。

 その話を聞いた時は、まだEランク昇級試験を受ける前だったから、どのくらい凄いかはわからなかった。


 でも今ならなんとなく想像出来る。

 あのオークキングを単独撃破出来る程の実力の持ち主。それはもはや、化け物と呼べるレベルなんだろうと。


 でもそれが……


「こんなただただ頭おかしそうな人が、Aランク?」

「ちょっと!初対面でそれは酷くないっ!?さっきは可愛いって率直に褒めてくれたのに…」


 俺は直球な感想を言い放った。

 だってさっきから頭のネジがいくつか取れてるんじゃねぇかってくらい、ずっと変な人なんだもん…。

 こんな濃い人初めて見た…。


「これでもボク、二つ名を持ってるんだからね?『絶対回避』または『パーフェクトドッジ』とか。人によっては『無敵』って呼んでくれることもあるんだからっ!」

「絶対回避?パーフェクトドッジ?……随分ありますね…」

「それくらい活躍してるってことだよ!さぁ、褒めてくれて良いんだよ~?後輩くん」

「褒めろって言われても、どれほどの実力なのか全くわからないですし…」


 ドッジって確か、躱すって意味だったな。

 その二つ名からして……攻撃を回避するのが得意ってことか?

 となると、素早い動きで敵を翻弄する戦闘スタイルなのかもしれない。


 ……いや、でもそれで『絶対回避』なんて二つ名が付くか?もっと素早さに準じた二つ名が付きそうだよな?

 『スピードスター』とか。ダサいけど。


「う~ん。それもそうか…。でも!人のこと頭おかしいって言うのはどうかと思うなぁ!」

「すみませんでした」

「お、おう…。そんな素直に謝られるとは思わなかったよ…」


 じゃあどうして欲しかったんだこの人は…。

 しかしほんの少し話しただけで、エレナさんがどういう人かはなんとなく掴めた。

 たぶん一緒にいると疲れるって言われるタイプの人だろ。


「それで、さっき言い合いになってたのって…」

「うん。受付嬢ちゃんが言った通り、ボクにダンジョン調査の依頼をしてたのよ。でもさ~…。ボクってばソロ冒険者だからさぁ。Aランクだから何度もダンジョンには行ったことあるけど、だからこそなるべく潜りたくないんだよね~。ほら?ボクってば賑やかな方が好きだから」

「まぁ、それは見てればわかります」

「でしょ~?特に今回見つかったっていう洞窟系のダンジョンは、薄暗いせいでめっちゃ気分が落ち込まさるんだよ~…」

「それは……確かにそんな場所で一人は寂しいし、心細いですよね…」


 俺は親が親だったから、小さい頃はずっと暗い部屋で一人ぼっちだったからな…。なんとなくエレナさんの言うことはわかる。

 一人でそんなダンジョンに潜れとか言われたら、昔のことを思い出しちゃうから、俺だって断りたくなると思う。


―――だけどこの人は、なんか……


「わかる!?この気持ち!」


 共感したら急にバッと距離を詰めて来たエレナさん。

 近っ。口元を隠してる彼女の手がぶつかりそうになった。


 揺れた萌え袖は頬にぶつかって来たが。モフっとした。


「は、はい。まぁ……俺も暗い場所で、一人で生活してたことがあるので」

「そっかそっか~。そうだよねぇ。一人で暗い場所にいる時のあの心細い感じ、嫌だよね~…。君が初めてだよ!ボクにちゃんと共感してくれたの!他の冒険者はパーティ組んでるからそこまでみたいだし、同じソロ冒険者たちも『俺はもう慣れた』とか『別に仕事だから気にしたことないわ』とか、全く共感してくれなかったんだよ!?酷くね?」

「そ、そうですね…」


 声真似イケボ…。


「だからボクは嫌だって言ってるんだけど…。受付嬢ちゃんがしつこくってさ~…」

「それは仕方ないかと…。頼れる人がエレナさんだけだったら、俺も泣く泣く頼むしかないと思います」

「む~。それはそうだけどさ~…」


 エレナさんの言うこともわかるが、だからと言って北の森に現れたっていうダンジョンを放っておく訳にはいかないだろう。

 暗所恐怖症で、暗がりだと一歩も動けなくなるっていうならわかるが……


「エレナさんは別に、暗い場所に行けない訳ではないんですよね?」

「うん。そうだよ。じゃないとAランク冒険者にはなれないからね」

「……じゃあやっぱり、街の人たちの為にも受けてもらうことは出来ませんか?俺と鳴が行けるなら行っても良いんですが、さっきの話を聞くに、ダンジョン未経験の俺たちを行かせるのは不安が残るみたいですし…」

「むむむ~…。でもな~…」


 俺からもエレナさんに頼んでみる。言い合ってた時の話からして、辛勝だがオークキングを倒した実績のある俺たちでも、実力的には大丈夫っぽい感じだ。

 でもダンジョンの危険性からして、そんな俺たちでも未経験だと攻略が難しいと思うのが、ダンジョンというものなんだろう。だから受付嬢はエレナさんにしつこく頼んでいたんだ。


 エレナさんは渋い顔で俺と鳴を交互に見て来る。


「……でも、丁度いいか…」


 そしてそんなことを呟いて、俺の肩に片っぽだけ萌え袖を引っ掛けながら、ある提案をして来た。

 もう片方の手は……やはり口元を隠している。


「じゃあ!君たちが一緒だったらいいよ!」

「へ?俺たちが、一緒に…?」

「うん!実はボクがこの街に来たのって、Aランク冒険者にも引けを取らない、新人冒険者の親子がいるって噂を聞きつけたからなんだ!それが気になってね」

「え?俺たちの噂って、もう他の街にまで届いてるんですか?」

「そうだよ~?なんでもツインホーンベアーを消し炭にしたとか、シープメンの群れを一つ壊滅させてしまったとか……」

「結構拡張されてる!?」


 ツインホーンベアーの毛皮はダメになってしまったけど、別に消し炭にしてはいない。

 シープメンだって狩る量は抑えて納品している。壊滅なんてさせていない。


「あら?そうなんだ。じゃあルミナリアの冒険者から聞いた、オークキングを倒したって話も拡張された感じ?」

「いえ、それは本当です」


「ほほ~。だったら良いじゃん!ね?受付嬢ちゃん。一緒に行くんだったら良いよね?ボクは寂しくない、この人たちはボクという経験豊富な先輩冒険者が付いている」

「それはそうですが…。彼らはまだEランク冒険者ですし、Aランク冒険者のエレナさんと一緒にBランククエストを行うのは……」

「じゃあボク行かない!」

「そんな~…」


 あっぺん向いて一人で行くことを拒否するエレナさん。これは俺たちが了承しないと梃子でも動かなそうだ…。


「……鳴?俺は受けても良いと思うんだけど…」

「はい。良いですよ。ダンジョンを放っておいて街に被害が出ては、猫の冠のご飯が食べられなくなるかもしれないので」

「あっはははは。確かに鳴にとっては、それが一番の死活問題だな」


 まだルミナリアに住んで短いが、この街の人にはお世話になっている。

 鳴を特別推薦してくれたルドルフさん。査定、買取をしくれるロザリオさん。鳴に超可愛い服を用意してくれる洋服屋さん。

 何よりも、いつも鳴に美味い飯を作ってくれる猫の冠の女将さん。この人には一番世話になっている。毎日大量の料理を作らせてしまってるからな…。


 鳴も賛成してくれたことだし、俺は参加する意を伝えた。


「よっしゃ!じゃあ決まり!ボクはちょ~っと準備して来るから、北門の前に集合ね。君たちの分のポーションも買っておくから」

「え?それは流石に……」

「じゃあ後でねー!」


 そう言って、ビューン!とギルドから出て行ってしまったエレナさん。

 ……鳴ほど速くはない、か…。まぁ本気で走ってないだけかもしれないけど。


「申し訳ございません。カガリさん…」

「いいですよ別に。ダンジョンってのも気になってましたし。それで、飛び級の件はどうなりました?」

「それがギルド長は、他のギルド長たちと相談して決めると仰ってまして…。もうしばらく待って頂くことになりそうです」

「わかりました。でも今回のクエストを無事に終えた場合は……」

「そうですね…。この事はギルド長にお知らせしますので、飛び級は無かったとしても、恐らくすぐにDランク昇級試験を受けられるようになると思います」

「そうですか。それだと俺も嬉しいです。鳴に早く腹一杯食わせられるようになりたいですし」


 猫の冠の料理は一皿一皿が安い上に、かなりボリューミーだ。

 それを鳴は金貨3枚分も食ってなお腹一杯にならないんだから、早くランクを上げていっぱい稼がないと…。

 鳴に腹一杯食える幸せというのを早く味合わせてあげたい。


 なので俺と鳴もギルドから出て、さっそく準備に取り掛かることにした。


「ポーションはエレナさんが用意してくれるって言ってたし、とりあえず防具だけ揃えるか」

「そうですね。……そういえばパパ」

「どうした?鳴」

「その……パパは料理は出来るのでしょうか?」

「ん?まぁたぶん、人に振る舞える程度には…」


 誰かと結婚した時に、主夫になっても良いようにと家事や料理には力を入れていた。

 急にそんなことを聞いて来てどうしたんだ?


「その……マジックバッグは、安い物でも五十キロまでなら入ります」

「ん?……うん。なるほど」


 何を言おうとしてるのかよくわからないが、とりあえず話を最後まで聞くことにする。


「もちろん包丁やフライパンも持ち運ぶことも出来ます。Eランク昇級試験の時は干し肉でしたが、旅の道中で暖かいご飯を作って食べる冒険者もいます」

「ふむふむ?」


 オークの解体を終えた後の飯は、三郷の集いが用意してくれた干し肉だけだった。

 そういえばあの時、鳴はどことなく物足りなさそうにしていた気が…。


「だから、その……大変我儘で、申し訳ないのですが…。ダンジョンの大きさ次第では、何日か籠る可能性もありまして…」

「……ああ!なるほど。そういうことか」

「……………ごめんなさい…。我儘を言ってしまって…」

「いやいやいやいや!気にするな!?ぶっちゃけ俺もあったかい飯は食いたい」


 鳴はこう言いたかったのだ。

 クエストが長引いて野宿する時も、美味い飯が食いたいと。

 それは一見我儘なようだが、食事というのは凄く重要だと思う。干し肉だけでは、必要な栄養を十分摂れないからな。


 ちゃんとした飯を食べるというのは、その時の人の能力や士気に大きく関わる重要なことだ。

 学校の昼休みでよく面倒だからと十秒でチャージしたり、カロリーをメイツして食事を終わらせる奴がいるが、あれでは勉強もスポーツも十二分に実力を発揮出来なくなってしまう。

 三大欲求の食欲を舐めちゃあいけないのよね、マジで…。俺はそれを高校受験で実体験してるんだから。


 義母さんの飯、マジ感謝…。おかげで受験勉強が捗った。


「鳴。お前は何も謝るようなことを言っていない。だから謝るな」

「そうなのですか?」

「ああ!だから防具を揃えた後、マジックバッグと調理器具、それと長持ちする食材を買うぞ!」

「は、はい。……ありがとうございます…。我儘を聞いて頂いて…」

「いいや。それは我儘とは言わない。食欲を満たすことは、クエストを成功させるに当たって重要なことだからな。むしろ感謝するよ。言われなかったら失念したままだった…」

「そうなんですね。わかりました」


 という訳で、俺と鳴は準備に取り掛かった。

 ダンジョンでもうちの子に美味い飯を食わしてやらなければ!


――――――――――――――――――――――――


―――エレナ―――


「という訳なので、まずはあの親子から信頼を勝ち取りたいと思います」

「ちっ。面倒な時に、面倒なクエストを受けて来やがって…。すっと連れ出して来いよ」

「そうは言ってもさ。あの二人の実力は予め知っておいた方が良いでしょ?じゃないとすんなり殺せないよ」

「……………」

「ん?なにその疑うような顔…。今までずっとバレずにやって来たんだから、今更ヘマなんてしないよ」


 ボクの自信満々な言葉に対して、彼はため息を吐く。

 プッツン来ました!


「何さ何さ!ボクの何が不満だって言うのさ!」

「いや、お前の言うことは一理あるし、ドジは踏んでもなんだかんだ上手くやるから、そこはまぁ……不安だが疑っちゃいない」

「噓でも疑っていないって言い切ってよ…」

「ただ……お前は絆されやすいからな…。油断して“口の中”を見られないか心配だ」

「ダクネス…」


 口の中のことを指摘して来た彼に、ボクは目を見開き、殺気を飛ばした。


「ボクのこの口の話……するなって言ったよね?―――死にたいか?」

「……………悪かった。もうその話はしない。俺もまだ、死にたくないからな」

「そう…。ならいいや♪それじゃあボクは、可愛い後輩たちと一緒にダンジョン攻略行って来まーす!」


 ボクはもう一度ルミナリアへ向けて走り出す……が、木の根に足を引っ掛けて転んでしまった。


「あいたー!また躓いたー!?」

「……全く。そのドジを発揮しないでくれよ、頼むから…」

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