篝と鳴
ルミナリアへ帰る道中で、5匹のグレーウルフと対峙してる男。どうも篝です。
ちなみに鳴と三郷の集いの三人には下がってもらっている。
なぜ下がってもらっているのか。それはオークキングの奥さんである、シュリさんのハンマーの扱いに慣れる為だ。
オークキングの話では使い手を選ぶ伝説の武器みたいなハンマーで、常人ではまず持てないくらい重い。
だけどどういう訳か、俺はこのハンマーに選ばれたらしい。俺が持つとペン回し出来るくらい軽く感じる。
だが適当に振り回す訳にはいかない。オークキングの時は周りに誰もいなかったから、あんな無茶苦茶な戦い方が出来た。
しかし普段は鳴がいて、そして今回みたいに臨時でパーティーを組む場合もあるからな。
毎回環境破壊するような戦い方だって良くないし、ちゃんとこのハンマーの扱いには慣れておかないと。
……それに一番の理由は、一度戦っただけの見ず知らずの俺に、持って行けないからって大切なハンマーを預けてもらったんだ。
ぞんざいに扱うことは許されないだろう。というか俺が許せん!
「バァフッ!」
1匹の号令で、一斉に襲い掛かって来る。
動きをよく見て、まず4匹の攻撃を紙一重で躱していき、最後のリーダーらしきグレーウルフの攻撃には、ハンマーを振り下ろしてカウンターを決める!
地面をバウンドするほどの威力で叩き付けられたグレーウルフは、そのまま絶命する。
……あっ。頭が原型を留めてないくらい潰れてる。半分程度の力で殴ったのに…。
「あーあー。牙まで見るも無惨な姿に……これじゃ売れなさそうだな…」
「バウバウッ!?」
残りのグレーウルフを見ると、2:2で二手に分かれて逃げ出した。流石に両方を追い掛けるのは無理だな。
俺は逃げた片方を追い掛けながら、鳴に指示を出す。
「鳴!片方頼めるか?」
「はい。わかりました」
するとすぐに光速で掛けていき、2匹のグレーウルフの首をへし折った。
うーん、やっぱり鳴は強いな。一瞬で仕留めるなんて…。
「俺も負けてられない…。次こそは、ちゃんと守れるようにならないとなっ!」
こっちの2匹にも追い付き、さっきよりも軽めに空中へハンマーで殴り飛ばした。
ぐしゃっと嫌な音を発てて地面に落ちたが……牙は無事だろうか?
「すっげぇな~…。こうして落ち着いて見てみると、二人の規格外っぷりがよくわかるよ…。速いし、力強いし」
「はい。かなり危ない状況だったようですが、オークキングをたった二人で倒すほどですからね。実力的にはほぼAランクと見て良いでしょう」
「確かにね~。カガリくんの動きも、オークキング戦を経てかなり良くなったわよね?」
「だな。Eランクどころか、Dランクまで飛び級させても良いんじゃないか?」
ジンさんたちからの評価は概ね良好か。
自分じゃよくわからないが、オークキングとの戦いで、俺はかなり成長出来たらしい。
「これなら少しは、鳴の力になれるかな…」
「はい。なれます」
「うおっ!」
いつの間にか鳴が近くにいた。皮袋をこちらに差し出している。
「パパ。グレーウルフの耳を」
「お、おう。今切るから、ちょっと待っててくれ」
グレーウルフは恒常クエスト対象ではないし、金は貰えても大した額は貰えない。グレーウルフで5匹であれば、銅貨10枚程度だったかな?完全に労力に見合ってない額だ。
だけどこうやって魔物を討伐して、街道を行きかう人たちの助けになることで、ギルドからの評価は上がる。
そうなると自然、俺と鳴のランクは早く上がるようになる。まぁ、やってる人はかなり少ないようだけど…。
限定クエストで張り出されてたら受けて良いんだろうけど、それは他の冒険者たちに迷惑が掛かるし、なしだなし。
「ほい、耳」
「はい。大事に持っています」
「そんじゃ解体しちゃうなー!」
「はい!すみません、ありがとうございます」
「いいって。気にすんな」
ジンさんたちがグレーウルフの解体を手伝ってくれる。
俺と鳴も、鳴が解体の知識を持っているおかげで出来ることは出来る。
俺はまだまだ解体が荒いから、もっと回数を熟して上手くなっていかないとな…。
今回のグレーウルフみたいに、俺たちを襲ってくる魔物はそれなりにいた。
俺たちが討伐した魔物の耳は俺たちが、ジンさんたちが討伐した魔物の耳はジンさんたちが持ち、毛皮や牙などの使える素材はマジックバッグに入れてもらっている。
ただ、オークたちの肉や素材がいっぱい入ってるから、割と容量が限界に近いっぽい。
「保ちますかね?マジックバッグの容量」
「もう少しでルミナリアも見えてくるし、大丈夫だろ。心配すんなって」
どうやら杞憂だったようだ。
行きよりも魔物の襲撃を受けてるせいで進みが遅かったから、ルミナリアはまだ先だと思っていた。
それからは10匹のゴブリンの襲撃が一回あったくらいで、俺たちは無事にルミナリアに帰還することが出来た。
――――――――――――――――――――――――
「オークキングを討伐したーっ!?」
オークキングから貰った左耳を見せながら、オークキングとその配下を討伐した主を伝えると、受付嬢は台パンしながら立ち上がった。
驚かれるだろうなーとは思ったけど、まさかここまでの反応をするとは思わなかった。
「ああ。俺たちもこの目で見たぜ。つっても、カガリがトドメを刺すところに居合わせただけなんだがな。俺たち三人は分断させられて、配下のオークジェネラルとマジシャン、それと大量のオークと戦ってたからさ。詳細はこのあと報告書に纏めて提出するよ」
ジンさんが細かい部分とオークキングの親子の話を伏せながら説明してくれる。
先輩冒険者って、こういう時も凄い頼りになるんだなー…。
周りを見てみると、他の冒険者から畏怖の視線が飛ばされていた。
「おい。俺の聞き間違いか?オークキングを討伐って……」
「いや言った。確かに言った。しかも三郷の集いの奴らと離れ離れになってたんだろ?」
「マジかよ…。強い強いとは言われてたけど、いくらなんでも強過ぎんだろ…」
「ありえない…。つまりFランクの二人だけ、しかも片方は特別推薦された10歳にもなってない子どもでしょ?神に愛された子らしいけど、いくらなんでも規格外すぎない…」
「……ねぇ。あの親子、僕たちのパーティに誘わない?」
「嫌よ!稼ぎは増えるでしょうけど、その分危険な依頼に付き合わされることになるのよ?リスクが大きすぎ…」
「でもFランク……いや、昇級試験だったみたいだからEランクに昇格するけど、Dランクの依頼までしか行けないし……」
「即上がって私たちが付いて行けなくなるオチしか見えないわよ!」
うわ~。めっちゃ騒がれてる~…。
三郷の集いと上手くやれたし、他の冒険者ともこれからはもっと積極的に接していこうと思ってたんだがなぁ…。
これは避けられそうな雰囲気だ。
「どうしましょ~…。試験も無事クリアしましたので、Eランクに昇格は出来ますが……出来、ますが~…」
受付嬢が何やら悩んでいる様子だ。
これはあれだ。俺と鳴をEランクで済ませて良い人材ではないと、頭を抱えている感じだ。
「もしかして、Eランクには相応しくないとか、そういう感じですか?」
「はい、そうですね…。いい意味で」
やっぱりね。自画自賛して調子に乗る訳ではないが、ジンさん曰くBランク冒険者が三人以上いないと勝てないような相手らしいからな、オークキングって…。
そんなのを倒したともなれば、Eランクというのはいい意味で分不相応なのだろう。
となると……
「とりあえず、こちらがEランクの冒険者カードです。ですが……もしかしたら、ギルド長が飛び級させると判断するかもしれません。ですので明日また、ギルドへお越しください」
「はい。了解です」
悩ましい表情のまま冒険者カードを渡される。
俺もネット小説の異世界人っぽくなって来たな…。鳴はともかくとして、俺に関しては一人前って呼ばれるDランクまで行ければ良いと思ってたけど……それじゃあやっぱりダメだよな。
オークキングみたいな化け物とまともに戦えるように、もっと強くならないと。その為には強い魔物と戦って成長していくのが一番。
上げられるならどんどんランクを上げて行かないと。
その後、ジンさんたちと一緒に今回のクエストの報告書を作成して、それをギルドに提出した。
今回みたいに、クエスト外で大きな事態に陥った場合は、こういう報告書を書くことになっているらしい。例え解決しても。
オークキングの誕生は、人間に大きな被害を齎す可能性が高い大事件らしいが……あのオークキング、人間を餌にするタイプのオークは全員殺していたらしいから、その心配は無さそうだけどな…。
人間を奥さんにしていただけあって、同胞殺しに躊躇なかったんだろうな。
あとは肉と素材の買取だが、既に解体は終了していても、量が量なので解体所の方でロザリオさんに見せることに。
彼はオークの肉と素材を見ると「多過ぎだ…」と思わずといった感じで苦笑いした。
オークマジシャンは普通のオークがローブを被ったくらいで、体長の差はない。ちなみに俺たち人とあまり変わらない大きさだ。
だけどオークジェネラルに関しては、軽く3メートルはあった。その分の肉ともなれば、多過ぎと言われても仕方がない。
「この量に質……相当良い餌を食って生活してたな?このオーク共は。鳴の嬢ちゃんの分を差し引いたとしても……金貨150枚。いや、200枚だな」
「「「金貨200枚ー!?」」」
ロザリオさんが提示した額に、驚きで目を見開く三郷の集い。
三人ほどじゃないが、俺も結構驚いた。しばらくはクエストを休んでもいいくらいの稼ぎだ。
「うへぇー。白金貨二枚分じゃないですか。やばいですね」
「これでオークキングの肉と素材もあれば、さらに白金貨一枚分追加してたな」
金貨に分けたのは、白金貨では大きすぎて使いづらいからだろう。金貨くらいの方が会計がスムーズに運ぶ。
わざわざ100円の買い物に1万円札なんて使いたくないし、店側も使われたくないだろうしな。その感覚で合ってると思う。
「オークキングはその~……鳴が雷で真っ黒こげにしてしまった上に、俺もオークキングの住処にあったこのハンマーで、頭を思い切り潰してしまって…。使える部分が無かったんです。すみません…」
「まぁオークキング相手では、さすがに手加減も出来ないか。次からは持ってきてくれよ。特にオークキングの毛皮は、防具として重宝されてるんだ」
「はーい」
生返事を一つして、お金を受け取る。
三郷の集いにはお世話になったし、オークキングのことも黙ってもらってしまっている。
だから多く金を渡そうと思ったんだけど……
「嫌よ!貴方たちが多く受け取りなさい!オークキングをたった二人で相手させちゃったんだし、二人の服もボロボロじゃない…。それで直すなり、新調するなりしなさい!」
「あと、防具も買え!今までは金が無くて仕方なかったかもしれないが、この金で良い防具を揃えろ!自分の身が一番大切なんだからな」
「いやそれだったら先に鳴ちゃんの武器でしょ?」
「だからその脳筋思考をやめろ!」
「なによ!?」
「なんだよ!?」
「「あぁん!?」」
「あっはははははは」
というやり取りがあり、俺たちは金貨130枚も受け取ってしまった。
オークの肉と素材以外にも買い取ってもらった物もあるから、クエスト報酬も相俟ってこれでだいたい6:4の割合だ。
いいのかな…?本当にこんなに貰って…。
「おい。オーク肉を三十キロに分けたぞ」
「あ。はーい」
三郷の集いの喧嘩を他所に切り分けてもらっていたオーク肉を受け取る。これを差し引いても、オークだけで合計金貨200枚ってやっぱ相当良い稼ぎだよな。
「良かったな鳴!念願のオーク肉だぞ」
「……はい。そうですね。食べるのが楽しみです」
「鳴?」
いつもなら目をキラキラさせて飛び跳ねそうなくらい喜ぶ鳴だが、今回はなんだか、リアクションが凄く薄かった。
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解体所を出たところで、時刻は昼を過ぎたくらいだった。
三郷の集いの皆さんに、一緒に遅めの昼食でもどうかと誘ってみたが、今回手に入れた金で買えなかった装備をさっそく買いに行くとのことで、一旦そこで別れた。
夕食時になったら、猫の冠の食堂に集合して、改めて祝勝会を開くことにして。
という訳で、俺と鳴は一足先に猫の冠へと戻った。
風呂で身体の汚れを落とし、服も着替えて、ベッドの上で横になる。
新しく買った鳴の私服も可愛い。フリルの付いた水色のワンピースだ。
俺?黒の半袖長ズボン。男の私服、というより部屋着はこれで十分だ。
……鳴にも、もう少し楽な部屋着を買ってやるべきだろうか?本人は気にしてなさそうだけど。
「いやー。今回のクエストは大変だったなぁ」
「……はい。そうですね」
「鳴がいなかったら、俺は死んでたよ…。本当にお前がいてくれて良かった」
「っ! ……はい。お褒めに預り、光栄です…」
「……………」
「……………」
隣のベッドに腰掛ける鳴に話し掛けるが、どこか素っ気ない返事だ。
……やっぱり、変だ…。今朝からずっと、鳴は心ここに非ずってほどじゃないかもだけど、なんというか……元気がない。
思えば昨晩も、オーク肉を見たら目を輝かせそうなものだったのに、ただ淡々と解体を熟していただけだったな。
オークキングの仲間の肉だし、少し気が引けてるのかもしれないけど……でも、やっぱり変だ。
だからといって、下手に構うのもどうかと思うしなぁ…。
「マスター」
しばらくそっとしておくべきか悩んでいると、鳴から話しかけてくる。
「なんだ?鳴」
「……その、えっと…」
視線を外して、もじもじとした様子を見せて言い淀む鳴。彼女にとって余程言いずらいことなのだろう。
俺は鳴が何か言うまで、ただじっと見つめて待っていた。
何度か目が合い、その度にやや怯えた表情になって目を逸らしたりしながら、ようやくと鳴は口を開く。
「……………どうして……お叱りに、ならないのですか…?」
「―――は?」
思わず間抜けな声が出てしまった。
んんっ?どういうことだ?叱る?俺が鳴を?なんで。
「お、怒って……ないのですか…?その……私、マスターにあんな酷いことを言ったのに…」
「酷いこと?」
「……“私より、弱い癖に”って…。その他にも、マスターに酷い言葉を浴びせたのに……マスターは、怒ってないのですか?」
「あ」
そういえば、鳴がオークキングにやられた時に―――
『下級精霊の私よりも弱い癖に、いつまでも子どもみたいな意地を張らないでくださいっ!』
そんなことを言われたな。
でもあれは……
「いや、あれは事実だしな…。鳴にそう思われてても、仕方ないだろ?……そういえば、まだ謝ってすらなかったな。ごめんっ。つまらない意地張って、想像以上に鳴の負担になっていたみたいで…」
「ッ!? ち、違うんです!謝らないでくださいっ!あれは……私が悪いんです…。最初からちゃんと、マスターと一緒に戦っていれば、もっと安全に勝てたはずだったんです。なのに私は、マスターの力をずっと下に見て、勝手に突っ走ってあんな醜態を晒して、あまつさえマスターをあんな危険な目に……だから、謝るのは私の方なんですっ!マスターの精霊なのに、マスターを守らないといけないって気持ちでいっぱいで、マスターのことをちゃんと理解しようともせずに……だから……だから…」
鳴は身体を震わせながら、必死な様子で言葉を紡ぐ。
そして限界に達したかのように―――鳴の瞳から、涙が零れた。
「鳴…」
「……………ごめんなさい…」
俯き、手を固く握る鳴。
……きっと。ずっと謝りたかったんだろう。
涙を流すくらい、鳴にとってあの言葉は後悔が残るものだったんだろう。
「ごめんなさい……ごめんなさい…」
「……………」
「酷いこと言って、ごめんなさい…。マスターの気持ちを蔑ろにして、ごめんなさい…。私は……マスターの精霊、失格です…」
「……鳴。もういいよ。お前もずっと、辛かったんだろうし…」
俺の言葉に対して、鳴は首を横に振る。
「私の辛さなんて、何の価値もありません…。マスターのことを傷付けておいて、それを辛いだなんて言う資格は……」
「鳴」
俺は鳴の前に膝を付き、彼女の手を握って、真っ直ぐ目を見つめる。
「これ以上、うちの鳴を追い込んで傷付けるようなら……例え鳴自身であっても、俺は本当に怒るぞ」
「っ!」
鳴は俺の言葉を聞いて、目を大きく見開く。
「どうして……」
「……………」
「どうして、叱ってくれないのですか…?マスターのこと、傷付けたのに…」
「事実を言われて怒ることを、なんて言うか知ってるか?“逆ギレ”って言うんだ」
「どうして私のことを、嫌いにならないのですか…?こんな、マスターの気持ちを蔑ろにした精霊を…」
「むしろ好きになったよ。形はどうあれ、やっと鳴が、食以外のことで自分の意思を伝えてくれたんだから」
「っ!? ……………そんなの……おかしいですよ…」
「鳴」
俺は鳴を自分の胸に抱き寄せて、優しく頭を撫でる。
「自分の子を嫌いになる親なんて、普通いねぇよ」
「……そんなの、私の正体を隠すための噓です…」
「噓じゃねぇよ。最初に言ったろ?俺と鳴は、家族だって。家族なら、嫌いになる方がおかしいんだ」
「……私、嫌な精霊ですよ?」
「そうか?俺は嫌じゃないけどな」
「……マスターのこと、裏で小馬鹿にしていたようなものなんですよ?」
「そんな風に扱われても仕方なかったしなぁ。でも、今は違うだろ?」
グレーウルフを倒した時。
鳴の力になれるかなって思わず吐露した時に、鳴はなれますって言ってくれたんだ。
「鳴の力になれるって言ってくれたのは、鳴が俺のことを認めてくれたからなんだろう?」
「……………」
「だったら、これからまた一緒に頑張って行けばいいだけの話じゃないか。俺はそう思うんだけど……鳴はどうだ?精霊としてじゃない、鳴自身として」
「……………」
鳴はしばらく、沈黙した。そして……
「……………ひっぐ…」
鳴から、そんな涙声が漏れた。
「……行き、だいです…」
「……………」
「マスターと一緒に、家族とじて……頑張って、行ぎたいでず…」
「ああ」
「私には、まだわかりませんが、それでも……マスターの家族だと、胸を張れるように、なりたいですっ!」
「ああ。俺も、鳴に家族って言ってもらえるように、精一杯頑張るよ。……一緒に、強くなって行こうな?」
「はいっ!強くなります!マスターの精霊としても……家族としても」
俺と鳴は、改めて決意した。
お互いを支え合える、本当の家族のようになろうと。
―――今回の昇格試験で、俺と鳴の間にあった溝が一つ無くなった。
得られた物は多かったが……俺にとって、これが一番の収穫だった。
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―――空を飛ぶ謎の人物―――
「うーん。困ったな…」
困った。ひじょーーーーーにっ。困ったことになった…。いや、俺としては強者がいるのは一向に構わんのだが、俺“たち”としては非常に困った事態になった。
まさかこんな辺境の地に“勇者”がいるとは思わなかったな。てっきりデルミス王国に全員いるもんだと思ってたぜ。
なんで一人だけこんな所にいるんだ?追放でもされたか。
……いやいや、勇者の武器を持たせたまま追放はねぇだろう。
―――んっ?でも待てよ。あの“ハンマー”は確か、あの女が持っていた…。
てことはあの男は、デルミス王国から逃げ出した女のガキか?似てねぇ~…。
ここに来る途中で見たオークの変異種の方が、まだあの女に似てるわ。黒髪黒目だったし。
まぁそれはどうでも良いことか。重要なのは、ルミナリアに攻め入りづらくなったということ。
あの勇者の男がいる限り、ルミナリアを落とすのは骨が折れるな。強さ的にはあの女には遠く及ばないが、傍にいる男の妹だかガキみたいなのが、これまた厄介そうだ。
正直言って、ルドルフより面倒だ。
かぁー!人間どもを挟み撃ちにする計画が台無しになりそうだぜ…。
「……仕方ない。プランCだな。回りくどくて面倒だが、まずあの二人を先に殺さねぇと、うちが大打撃を受ける」
俺は下の森に降り立ち、一人の女に声を掛ける。
「おい。プランCだ。銀髪の兄妹だか、親子みたいなのを連れ出して来てくれ。男の方はデカい銀色のハンマーを持ってるから、すぐに見つかるだろう。方法は任せる」
女は綺麗な翡翠色の髪を揺らしながら振り返り、萌え袖で口元を隠しながら答える。
「オッケー!任しといて~。ボクに掛かればぁ、お茶の子さいさいなんだから!レッツゴー、きゃほーい!」
そう言って、騒がしいエルフの女―――エレナがルミナリアへ向かって走って行く。
アイツにやる気があるのはいいのだが、俺は回りくどいという理由の他に、もう一つこの作戦に意欲的じゃない理由がある。
それが……
「あいたー!躓いたー!?」
「……ドジめ…」
俺はあの女がドジを踏まないか……不安な気持ちでいっぱいなんだ。
上手く行くんだろうなぁ?この作戦…。
ここまでが第一章的なものです。
第一章は篝と鳴が本当の家族を目指すようになること、そして家族の在り方をテーマにしたつもりです。
特にオークと人間が家族というのは最も無縁そうだったので、一つの家族の在り方としては適任だったと個人的には思います。
もっとオークキングとシュリの関係を深掘りしたかったですが、それは後ほどに。
次回からは第二章的なものです。
第二章からは、本格的に鳴と一緒に戦うようになります。
あと深い意味は無いのですが、最近の流行りに乗っかってみようと思います。
以上です。
面白かったら下へスクロールして、いいねと高評価をお願いします。
あと欲張りで申し訳ないのですが、ここまでの第一章的なものの感想も頂けたら嬉しいです。
 




