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三郷の集い

 平原を三人の先輩冒険者と一緒に歩いている親子。はい、篝と鳴です。

 ギルドのEランク冒険者から教えてもらった、Dランクパーティの『三郷の集い』。彼らが俺たちの試験に協力してくれることになった。

 さっきは喧嘩してたけど、なんだかんだ三年間も一緒にやっていけてるらしいし、頼りにはなると思う。まだちょっと不安だけど…。

 ただ……それとは別に、非常に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。結局何も買わずに、こうして試験に付き合ってもらっちゃったし。


 なにより……


「本当に良かったんですか?今日はクエストをやる予定なかったんですよね」

「だから気にすんなって!困ってる後輩を放っておけるかよ。なぁ!二人とも」


 彼らはやはり今日は休養日だったらしい。そりゃあ、あんな風に喧嘩してる余裕もあるわな。

 ああいう喧嘩、というより意見のぶつかり合いは初めてではないらしい。

 パーティ運用資金と彼らのお金を別々に分けている故によく起こる衝突なんだとか。


 確かにあの喧嘩を聞いてる感じ、別に仲が悪いって訳じゃないのだろう。


「ジンの言う通りよ。私たちもFランク冒険者の時は、こうやってよく先輩に助けられたもの」

「そのおかげと言うべきか、せいと言うべきか……どうもお人好し癖が付いてしまいましたね」


 今はこうして仲が良さそうだ。三年も一緒にいて、仲が良くないって方が無理だろうけど。


 大楯を背負っている赤髪の男性が、三郷の集いのリーダーのジンさん。

 魔導士の格好をした緑髪の女性が、見た目通りの魔法アタッカーのユリアさん

 僧侶の格好をした青髪の男性が、ヒーラー兼サポート役のエィジールさん。


 三人とも出自が異なるので、三郷の集いだそうだ。


「……ありがとうございます。おかげで試験をクリア出来そうです」

「おう!俺たちがいればオーク程度、楽勝だから安心しろカガリ!」


 自己紹介はとっくに済ませているので、普通に名前で呼ばれる。


「はい!頼りにしてます!」

「ああ頼れ頼れ!なーはっはっは!」


 正直、鳴さえいれば楽勝だとは思うけど。ここはよいしょをしておくことにした。

 それに頼りになるのは……たぶん、本当だと思うし。


「ジン。あまり調子に乗ってはいけませんよ?恐らく彼らは最近噂になっている親子です。逆に私たちが足を引っ張らないようにした方が良いですよ?」


 だがそこへ、エィジールさんが釘を刺すように言う。

 噂…?


「おん?噂の親子……なんだそりゃ?ユリアは何か知ってるか?」

「……そういえば、一週間くらい前にルドルフさんに特別推薦されたヤバい女の子がいるとかなんとか、他の冒険者が話しているの聞いた気が…」


 噂の親子……実際には聞いたことないが、やっぱり何かと噂されるよな…。


「あ!それってもしかしてメイちゃんのことか!?」

「? 一週間ほど前のことでしたら、はい。恐らく私のことですね」


「へぇ~。見た目は10歳くらいだから疑問に思わなかったけど、そうか~。特別推薦だったのか……ところでエィジール。噂ってどんな内容なん?」


 それは俺も気になる。逆に俺と鳴がどんな風に噂されてるのか聞きたいくらいだ。

 ちなみに後で鳴に教えてもらったことだが、少ないけど10歳でEランク冒険者になってる人はいるらしい。だからさっきも鳴が不思議がられなかったんだな。

 まぁ複数人でパーティを組んでる場合が多いらしいけど。


「恐らく誇張されてると思うのですが、今から一週間ほど前にツインホーンベアーをたった二人で撃破して、背負って運んで来たとか」

「「え?」」

「そのまま冒険者登録した翌日、シープメンを大量に狩って持ち帰ったとか」

「「えっ?」」

「そこから勢い付いた親子はとにかく片っ端からクエストを達成していったそうですが、早くランクアップして名を上げようと躍起になっているのか、鬼の形相で討伐対象を狩る姿が何度か目撃されているとか」

「「えっ!?」」

「実際、街に戻って来た二人はいつも大量の魔物の返り血を浴びて、それはそれは恐ろしい姿だったとか……」


「ちょっと待って何それ!?前半部分はともかく、後半に関してはほとんど身に覚えが無いんですけどっ!」

「返り血は確かにありましたが、少なくとも大量に浴びた覚えはないですね。精々衣服に付く程度だったかと」


 全く誰だ!そんなデタラメな噂を流した奴は!?俺と鳴は鬼神か何かか?

 ……あ。まさかその噂があったから、三郷の集いを紹介してくれたEランク冒険者の二人は怯えた表情をしていたのか!


「確かにランクを早く上げたくて躍起になっていた部分もありますが、それは偏に鳴の食費の為ですし…」

「食費?鳴ちゃんって結構食べるの?」

「はい。人の10倍は食べます」


「そんなに食うのか!?」

「しかもその時は持ち合わせがあまりなかったので腹一杯にすることは出来ず……本人としてはもっと食えるそうです」

「マジでか!?そりゃあ早く金を稼げるようになりたいわな…」


「お恥ずかしい限りです…。私も食欲は抑えるようにしてるのですが、やはり目の前の美味しそうな料理に我慢が出来ず…。結局、猫の冠の料理を毎食銀貨20枚以上も食べてしまいます。いつもすみません、パパ」

「気にすんなって。俺としてはお前を腹一杯食わせてやれない方が悔しいんだからよ」


 いや本当。嘘でも親と名乗ってるからには、ちゃんと鳴が毎食腹一杯になるくらい稼ぎたい。


「うへぇ~。思ったよりも苦しい生活してるんだな。まぁFランク冒険者で食いっぱぐれてないだけマシか。……ところでよ。前半部分はともかくって言ってたが、まさか本当にツインホーンベアーを…?」


 ジンさんが同情の視線をくれながら、ツインホーンベアーの件を聞いてくる。

 それに対して、鳴が答えた。


「はい。ですが一つ訂正するのであれば、私とパパの二人で倒した訳ではありません」

「そ、そうよね!いくら特別推薦されるからって、Cランクのツインホーンベアーを二人だけでなんて……」

「正確には、私だけで倒しました」


 鳴がそう言うと、どこか安堵した顔をしていたユリアさんが固まった。引き攣った笑みを浮かべている…。


「お一人でツインホーンベアーを倒したのですか?どうやって…」

「ルドルフさんから聞いたのですが、どうやら私は“神に愛された子”というものみたいでして。先天性で雷魔法が使えるのです」


 神に愛された子。そういえば結局聞くのを忘れていたな。


「なんと!それはおめでたいことですね。神に愛されることなど、滅多にないですよ」


「マジかよ。てっきり御伽噺だと思ってたぜ。神に愛された子は普通の人より強いって聞くけど、ツインホーンベアーを単独撃破すんだな…」

「エィジールがさっき言ったみたいに、逆に足を引っ張ることになりそうね…」


 三人とも神に愛された子について知ってるみたいだ。

 今の話とこれまでの情報からして大体どういうものかはわかったけど、一応聞いておこう。


「あの。ルドルフさんもそう言ってましたけど、神に愛された子ってなんなんですか?」

「知らないの?子どもの頃に聞かされたことない?」

「はい。あまりそういうのを聞く機会はなかったので…」


「では、簡単に説明しましょう」


 エィジールさんが「おほん」と咳払い一つして、神に愛された子について説明してくれる。


「我々人は、生涯に一度だけ神様からスキルを授かります。これは知っていますね?」


 一応頷いておく。が、残念ながら初耳だ。なんとなくそうなんじゃないかって気はしてたけど。

 女神様は一つまでしかスキルは選べないって言っていたから、この世界はそういうルールみたいな物なんだろうなって。


「カガリさんも知っての通り、スキルを授かるタイミングは人によって異なり、ほとんどは10歳~15歳の内に授かります。ですが、稀に産まれた時にスキルを授かる者もいるのです」

「それが神に愛された子、ですか?」


 エィジールさんが頷き、続ける。


「はい。その時授かったスキルを『先天性スキル』と言って、通常のスキルより強力な物ばかりなんです。まさに神に愛された子と呼ぶべき存在。メイさんは特に愛されてるのではないでしょうか?雷魔法は通常、属性を複合させないと発動出来ないはずの上級魔法ですから」

「へぇ~」


 そういえばルドルフさんが複合なんたらって言っていた気がする。

 もっとよく聞いてみたいけど、俺には関係ない話だし。また今度でいいだろう。


 というか鳴は人じゃなくて精霊だから、今の話は当てはまらないだろうし。


「いいな~。私も早く複合属性魔法が使えるようになりたぁい」

「火力一辺倒で繊細な魔力操作が出来ないユリアには難しいだろう。なっははは」

「なんですって!?そういうアンタこそ、守備関係だけじゃなくて少しは攻撃系の派生スキルを習得したら?」

「俺のスキルはタンクだぞ?攻撃系はシールドバッシュしかねぇっつうの」

「はは~ん?アンタさては、攻撃に出て反撃されるのが怖いんでしょ~?」

「なんだと!?」

「なによ!?」

「「ぐぎぎぎぎぃ…!」」


「パパ。ジンさんとユリアさんがまた喧嘩してます」

「あはは…。まぁ気にするな。喧嘩するほど仲が良いって言うだろ?」


「「仲良くなんかない!?ふんっ!」」


 やっぱ仲良いじゃん。

 エィジールさんがニコニコしながら眺めてるだけなのは、きっとこれでなんだかんだ上手く行っていたからなんだろう。

 正直、これでなんで解散もせずにずっと一緒にやれてるのか知りたい。


 だけどそれを聞けるほど付き合いは長くないし、その内聞く機会があれば聞くことにしよう。


――――――――――――――――――――――――


 平原を二時間ほど歩き、その先にある森の手前で休憩することになった。ルミナリアに程近い森より暗い雰囲気があって、あまり長居したくない印象だ。

 同じ森でも結構雰囲気って変わるもんなんだな…。


 ここに来るまでに、何度かゴブリンの襲撃を受けたが、全部危なげなく倒すことが出来た。

 三郷の集いの戦い方を見た感じ、ジンさんがタンクの派生スキル『挑発』で敵を引き付けて、魔法使いのユリアさんが一気に殲滅するというのが基本スタンスのようだ。

 派生スキルっていうのは、授かったスキルの恩恵によって習得出来る特殊な技みたいなものだ。

 『挑発』というのは敵のヘイトを自身に集めて、味方を守る為の派生スキルのようだ。


 ユリアさんは鳴の雷ほどじゃないが、風魔法の『ウィンドカッター』でゴブリンの身体を余裕で一刀両断する威力があった。

 他にも土魔法の『グランドウォール』で四方に土の壁で閉じ込めて圧死させたり、水魔法の『ウォーターバレット』で心臓を貫いたりと、『火力こそパワーよ!』なんて頭が悪そうなことを言うだけあって威力重視の魔法が多い。


 エィジールさんは『僧侶』というスキルを授かっていて、『バリア』というサポート系の魔法でジンさんの防御力を上げていた。

 やるのはそれくらいで、直接戦ったりはしないみたいだ。彼はとにかく後方支援に徹するのだろう。

 一応、攻撃魔法も持っているらしい。だが魔力の消費が激しいのであまり使う機会はないそうだ。


 三人を見てる感じ、物理アタッカーがいないからユリアさんの魔力が切れたら決め手に欠けてしまう印象だ。

 しかし魔力を回復するポーションを常備しているおかげで、今は特に問題ないそうだ。いずれは物理専門のパーティメンバーを増やすつもりではいるらしい。

 そうなったら『四ツ郷の集い』になるなって三人は笑っていたから、別にこのメンツに拘ってる訳ではなさそうだ。


 俺と鳴の戦いも見てもらったが、結果的に言うと三人からは賞賛の声しか上がらなかった。

 最初は俺の馬鹿力と鳴の雷の威力を見て固まっていたが…。


「にしても、カガリも神に愛された子だったなんてな~。魔王軍との戦争の影響で、バーゲンセールでもやってんのか?」

「しかも鳴ちゃんはダブルなんでしょ?いいな~。私も『剣術』スキルがあったら、魔法剣士になれたんだけど…」


 ユリアさんが言った『ダブル』とは、スキルを二つ持っている者を指す言葉だ。

 こちらは『神様に認められた者』とも呼ばれているらしい。

 最初は他の人と同じように一つしかスキルを持っていないのだが、後にもう一つスキルを授かることがあるらしい。

 実例が少ない為、明確な条件はわかっていないそうだが、いずれも世界に轟く大活躍をしているらしい。


 きっと神様がその人の活躍を認めてくれたから、もう一つスキルを授けたんだろう。という説が濃厚で、『神様に認められた者』と呼ばれているらしい。

 ただ鳴の場合、産まれた時から『雷魔法』と『パッシブ身体強化』を持ってるってことになってるから、世間へ公になったらその説が間違い扱いされそうだな。

 実際は神様に生み出された精霊だから、認められるもなにもないんだけど。


「ふむ…。可能性はなくはない、か…」

「ん?どうしたんだ、エィジール?」

「ジンが言ったことについて考えていたんですよ。辺境の地であるここまで、戦争の悪い噂が届いているんです。それを見かねた神が、私たち人類に救いの手を差し伸べたという可能性は否定できません」

「……エィジールって、僧侶のせいか信仰深いよな…。気持ちはわかるけど、会ったこともない神様によくそんな期待出来るな?」

「大昔に神が私たち人類の前に降臨したという記録が残っているのです。有り得ない話ではないでしょう?」

「わーったわった。そんな熱く語んなって…」


 神様、ねぇ…。

 俺が会った女神様は、少なくとも人類の為にそこまでするとは思えない。

 むしろ魔族に押されてる現状は人類側の自業自得という認識なのだから、わざわざ有利になるようなことはしないと思う。

 他の国の最高神がどうなのかは知らんけど。


 ……………そういえば、ここら辺はなんて名前の国なんだっけ?聞いたことない気がする。

 あかん。俺ってば自分で思ってるより心に余裕がないのかも。自分がいる国の名前すら把握してないなんて…。


「……まぁ。今はいいか。そんなこと気にしなくて」

「パパ?どうかしましたか」

「なんでもないよ。早くEランクになって、お前に腹一杯ご飯を食わしてやりてぇなって思っただけ」


「本当に鳴ちゃんを大事にしてるのね」

「当たり前です。ただ一人の家族ですし」

「そっか…。じゃあ!さっさとオークをぶっ倒して、Eランクに上がっちゃいましょ!貴方たちならオーク三匹なんて楽勝よ」


 そして休憩もそこそこに、いよいよオークが住む森の中へと入っていった。


 ……この時の俺は、自分の力を過信していたと思う。恐らく、それは鳴もだ。

 女神様は俺に、一人で生きていくだけの力をくれた。それはあまりにも強力な精霊とバフだ。過信してしまっても仕方ないのかもしれない。


 だけど、俺は思い出すことになる。

 一人でも生きていける力。それが通じるのは、あくまでも不測の事態が起こらなかった場合のみ、という女神様の忠告を。

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