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立会い人


「おめでとうございます!」


「ありがとう、ハートさんのおかげです」


涙を浮かべたモモンちゃんは今日は白くて裾が長いドレス姿だ。


「まあ、なんだ。いろいろとありがとうな」


着なれないかっちりとした黒っぽいスーツで照れてるユールさんと握手をする。


「納まるべきところに納まって良かったな」


白狼先輩がユールさんとモモンちゃんの肩を抱いて祝福している。


私もなんだかうれしくて涙が出そうだ。




 私たちは、ユールさんの突然の結婚宣言で、ワタワタと山の上にある神殿にやって来た。


「しかし、先輩が領主さまのご子息とは」


「あのなあ、息子と言っても五男だ。領主どころか、役人の仕事もまわっちゃこねえよ」


それでも領主一族の威光を借りて、神殿に入ることが出来た。


神殿は領主が管理していて、普通は予約が必要らしい。




 たった四人の式だ。


今朝、いつもの剣術の鍛錬をしていた私は、いきなり駆けて来たモモンちゃんに付き添い人をお願いされた。


それならと、ユールさんが白狼の先輩に何かお願いしていた。


「おい、今日なら神殿、予約入ってないってよ」


戻って来た先輩はそう言い出した上に、どこからかドレスまで調達して来た。そして、急いで私たち男性陣はスーツ姿となった。



 ユールさんは私から指輪の首飾りを教わった後、まずは自分達で使ってみようとモモンちゃんに相談したそうだ。


そして、どうせなら式をやってしまおう、となったらしい。


「その勢いで結婚かあ」


「勢いは大事だぞ」


ユールさんが白狼先輩に実感のこもった話をしていた。


なにせ、数年間も機会を伺っていたようなので。


「私たちが実際にこの指輪の首飾りで幸せになればいいだけです」


泣き笑いの笑顔でモモンちゃんが言うと若旦那も頷いている。




「ご両親とかは参列なさらないのですか?」


私が不思議そうな顔をしていると、三人が苦笑を浮かべた。


「またハートの世間知らずが始まったか」


やれやれという仕草をして、白狼先輩が説明してくれる。


 白狼先輩の話では、まずは誰でも銀の指輪を持って神殿に行けば婚姻の儀式が出来るそうだ。


神職の人がいなくても、二人だけで出来るらしい。


実はドレスも必要ない。


正装にこだわったのは、単に先輩がモモンちゃんのドレス姿が見たかっただけのようだ。だってサイズがあまりにもピッタリだったし。


「正式に役所に届けるのは二、三年先だ。それまではお試し期間ってとこだな」


その間に別れなければ正式に認められ、家族や知り合いを呼んで改めて盛大に宴会をやるのだという。


なるほど、入籍前に同棲ってことか。それもあり、だなあ。



 


 婚姻の儀式には一応ちゃんとした作法があり、神様の前で誓いの口付けをすると祝福が降りて来るそうだ。


「その時によって神様の祝福は違うらしいけどな」


神殿を出て、下町に戻りながら先輩の話を聞いている。


「今回は商売繁盛の祝福でしたよ」


新郎新婦がうれしそうに話してくれた。


神様の姿を見ることは出来なかったけど、祝福はちゃんと当人たちの頭の中に届いたらしい。


「祝福?、神様っているんですか?」


三人がまた「はあ?」という顔になった。




「当たり前だろ。なんのために神殿があるんだよ」


神様がいる場所だからだそうだ。


「んー、だって見たことないですから」


そう言うと、


「あれ?、祭りで見たことなかったか?」


とユールさんに言われた。そういえば、大通りを神輿が練り歩くのは見た。


「あれにちゃんと乗っていらっしゃいますよ」


モモンちゃんが教えてくれた。


「あ、そうなんだ。へー」


 


 一年に一度、神が神輿に乗って町へ降りて来る。


そして、町の様子を見回り、今年生まれた子供たちに祝福を授けてくれるのだそうだ。


「そういえば、ハートさんはまだ祝福をもらっていないんでしたね」


この町では誰でも一生に一度は神様から祝福を受けることが出来る。


多くは赤ちゃんが生まれたら、次のお祭りで、町に降りて来た神様にお目通りをお願いして祝福してもらうのだとか。


「ハートさんも何か望みがあるのなら、それをお願い出来ますよ」


まだ一度も祝福をもらっていないのだから、とりあえず駄目元で言ってみてもいいらしい。


そんなんでいいのか、神様。


「か、考えとく」


私は少しドキドキしていた。




 本当に何でもいいなら、私の記憶を取り戻せないかな。


この身体の違和感の正体が知りたい。


本当の自分を知りたい。




 私たちは夕方からの仕事のために、早めに店に戻った。

 

若旦那とモモンちゃんは指輪を首から下げ、大いに宣伝するよと微笑んだ。ふたりの後姿を見送り、私はこれで良かったんだと思う。


何故か白狼先輩が私の肩をポンポンと叩いて、店に入って行った。


この先輩もやさしい人だな。


でもやっぱり、きっと、そうなんだろうな。先輩のモモンちゃんへの気持ちは、知らんぷりしてあげようと思った。




 次の祭りは、私がこの町に来て三回目になる。


もう三年かあ。未だに違和感の拭えない身体だけど、この町にはだいぶ馴染んで来たと思う。


困った人もいたけど、やさしい獣人さんが多い。


女の子の友達も出来た。きれいなドレス、うらやましかったなあ。


「あれ?、私ってば結婚するとしたらどっちになるのかな」


部屋で着替えながら考える。どう考えても今のこの身体にドレスは無理だし。


ああ、でもかわいい女の子が隣にいるのは楽しいかもだ。


目を閉じて想像していると、……何かが浮かんで来た。




 私の手に、白い女性らしい手が重なる。


紐結びを考えていた時に見た、あの手だと思った。


顔を見ようと手の元を追っていくが、腕が身体に向かう途中から先が闇の中だ。


 もしかしてこれは、私の手なのかしら。


自分で自分の手を追いかける。私はいつか本当の自分に出会えるのだろうか。


パンパン、とお店のホールでオーナーが手を叩く。


従業員集合の合図だ。


ハッとして目を開き、いつの間にか流れていた頬の涙を拭い、私は立ち上がる。


戦うと決めたのだ。その日まで絶対にがんばる。


「いらっしゃいませ、お嬢さん。本日も大変お美しい」


この店に恥じない従業員となって。



        〜完〜


お付き合いいただき、ありがとうございます。


紐の結び方は留め具を使わない結び方や、長さを調節出来る結び方を参考にしています。

がんばったんですが、分かりにくいかも。まだまだ私に文章力がないのだと思います。

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