スキル1
すいません。また思った以上に長くなってしまい分割させてもらいます。
「可愛い名前です私は気に入りました」
シアは僕の手を握り命名センスについてフォローしてくれる。
今は平常心を保っていられるがこれが長時間になると流石にキツイ。
と言うか如何してこの子はくっついて来たがるんだ。
「ありがとう。それでガンツ、スキルについて教えてくれ」
このままでは分が悪いので、彼女の手を優しく解き話題を変える。
「俺の変わりにあいつに説明してもらえ」
あいつとはどうやらシウの事らしい。
どうしよう。これは予想外だった。
「そんな怯えたような顔をするなよ」
「そんな顔していないつもりだけど」
「私そんなに怖いですか」
「い、いや。全然・・全然怖くないよ」
苦笑しているガンツに少し涙目のシウ。
そして、涙目のシウにたじたじな僕。
正直に言うとすごくシウの事がものすごく怖い。
『小動物だと思って油断していたら、いつのまにか主導権握られていた』という感覚だろうか。
現に面と向かって強気に出れず、かといって放置するわけにも行かず、如何するべきかと言葉を探している所だ。
女性の涙ってズルイと思う。
仕方ないから注意だけしておこう。
「ただ、少し身体的接触が多いから気をつけてほしいかな。僕はそう言うのがあまり得意じゃないから」
「は、はい。気をつけます」
「それで、説明してくれるんだよね」
「はい。任せてください」
2歩分ほどシウから距離を取り尋ねる。
「あの、如何して下がるんですか」
「いや、近すぎたからな少し距離をとっただけだよ」
「へたれ」
ドロシーは黙れ。
「それじゃあ、説明しますね。スキルは大きく分けて『戦闘スキル』『生産スキル』『魔法スキル』『支援スキル』の四系統になります」
ほら来た。シウが一歩こちらへ向かってくるので僕は一歩後退した。
それにしても早過ぎないか。さっき注意したばっかりだぞ。
「それぞれのスキルの特徴は見ながらのほうが早いですね。お願いします」
「了解」
シウが言うとドロシーがウィンドウを僕の前に出現させる。
その光景に驚愕した。
ドロシーが悪ふざけ無しで作業をしただと・・・。
「なんか失礼なこと考えてない」
「いや。考えてない」
「それなら良いけど。シウの邪魔なんてしないでよ」
いや散々邪魔してきたのドロシーじゃないか。
文句の一つや二つ言いたいところだが、ここは我慢しよう。
それで、話がスムーズに進むならそれに越したことは無い。
言い返したいのを堪えつつ、ウィンドウへと視線を向ける。
ウィンドウは『戦闘』『生産』『魔法』『支援』の四つのタブに分かれていて、今は戦闘のタブが開かれている。
そして、そこには結構な量のスキルの名称が書かれている。
「結構な量有るんだな」
「そうですね。結構ありますね」
独り言に対してシウは律儀に返してくれた。
しかも、横からウィンドウを覗き込む態勢で。
と言うかいつの間にその位置に移動したんだ。
「近いって」
「ちゃんと見てください」
離れようとする僕をこちらに引き寄せ、右手を僕の腰に回してしっかりホールドする。
だから、こう言うのをやめてほしいんだって言ってるの。
脱出したいためにもがくが、何故だかうまく外れない。
鼓動が早くなり、顔から火が出そうなほど熱い。
「な、なぁ――」
「ちゃんと見ててください。いまから説明しますから」
僕の言葉は遮られてしまった。
ドロシーとガンツの方を見るがどちらとも我関せずといった態度をとっている。
誰か助けて。
「いいですか。戦闘スキルは『刀術』『柔術』と言った武術関連ですね。生産スキルと魔法スキルはその名の通り生産関連と魔法関連です。最後に支援スキルは、『パワーアップ』『パワーダウン』と言った一時的に能力を上昇、低下させるスキル関連です」
画面を操作品がら説明してくれるのはいいがあまり頭には入らない。
本当に勘弁して。
「レイさんにはこの中から初期スキルとして十五個スキルを選んでもらいます」
「わかった。解ったから。そろそろ離してほしい」
「ちゃんと離してますよ」
何だ今の変な文章。それに、何故か彼女は首をかしげている。
あぁ。そう言うことか。
『離してほしい』を『話してほしい』勘違いしてるんだな。
だから『ちゃんと話してますよ』って言ったんだな。
「そうじゃなくて開放してくれ」
「えっ。ご、ご、ごめんなさい」
ようやく理解してくれたようで、慌てて離れてくれた。
「すいません。レイさんがこう言うのが苦手というのは解っているのですが・・・」
「まぁ少しずつ直していこう」
しょんぼりしているシウを励ましたが、内心では何とも言えない感情に襲われている。
行き場の無いこの思いはどうすればいい。
正直、彼女とうまく付き合っていけるのだろうか。不安でしょうがない。
「わかりました。私を縛ってください」
脈略も無く出たシウの言葉に空気が凍りつく。
だからこの子は。さすがにここまで来るとイライラしてくる。
「いや。そういう趣味はないから」
「え。ちが、ちがいます。ちがうんです。そういう意味で言ったんじゃないです」
意地悪な返答をすると、顔を赤くして手を振り全力で否定してくるシウ。
動きが何故か小動物っぽく、可笑しくて僕のイライラは何故か鎮まった。
ここで許してしまうから、いつまでたっても一向に改善しないんだ。
解ってはいるんだが、どうしてもそれが行動に起こせない。
「え、えっと、無意識にくっついてしまうので、くっつけないようにしてくださいと言う意味なのです」
「いやそこまでしないから、少し落ち着こうな」
「大丈夫です。全然、全く、ノープログラムです」
「ノープロブレムな」
全然大丈夫そうじゃないなこれ。
フルスロットルで空回りしている感じだろうな。
ガンツもドロシーも僕と似たような事を思っているのか苦笑いを浮かべている。
「とりあえず深呼吸して」
「ヒッヒッフー」
「それはラマーズ法。なんでお約束のボケかますかな」
「赤ちゃんは男の子と女の子の二人がいいです」
「何故か話があらぬ方向へと飛躍した」
「はい、はい。面白くないコントはそれぐらいにしてさっさと先に進めなさい」
僕とシウのやり取りには流石のドロシーも困ったようで催促をしてくる。
というか、コントしているつもりは無いんだ。
「そうでした。ここから十五個スキルを選んでください」
なんだかもうグダグダだ。
これじゃあドロシーの悪ふざけに付き合わされた時とあまり変わらない。
おかしいなゲームって楽しいものな筈なのに精神的ダメージだけが溜まっていく。
まぁいいさっさと済まそう。解決策はそれしかない。
「なぁ。シウのスキル構成教えてくれないか」
「えっ・・・私のですか」
「無理にとは言わないが」
「いや。大丈夫です」
最初シウの表情は微妙に強張っていたが、何か決心したかのようにウィンドウを開き見せてくれた。
『そこまで、嫌なら見せなくてもいいのに』と思いつつシウのウィンドウに視線を向ける。
[光魔法][土魔法][火魔法][魔力操作][格闘術][忍術]
これがシウのスキルの一覧だった。
それにしても、少なくないかスキル数。
こっちはシウの二倍以上のスキルを選択できるんだぞ。
「そんなものよ。スキルなんて無くても生活できるから」
「どういう事だ」
脳内の疑問に答えてくれたドロシーだが、言っている意味がよくわからない。
スキルと生活は直結しているのではないのか。
「シウ説明してあげて」
「えーっと」
ドロシーのフリに苦笑で答えるシウ。
そんなシウを見てドロシーはため息を一つ付いて言う。
「まぁいいわ。私が教えてあげる」
「ごめんなさい」
「スキルが無くても、そのスキルと同じような事はできるのよ」
ドロシーの言いたいことはたぶん解ったと思う。
しかし、それで合っているのか不安だ。
ちょっと確認してみよう。
「例えば『料理スキル』が無くても料理を作ることができるってことでいいのか」
「そうね。そんなかんじだわ」
「じゃあ。スキルの存在意義ってなんだ」
「そこからは、シウに任せるわ」
「はい。任せてください」
先ほど答えられなかったのが悔しかったのか、やる気満々なシウ。
「スキルは○△※□○□――」
張り切りすぎておもっきり噛んだようだ。
「噛んだな」
「そこは、見て見ぬ振りをしてください」
顔を少し赤くしているシウ。
「あらためて、スキルはあくまでも補助的意味を持ちます。『武器スキル』なら技術を『生産スキル』なら品質を『魔法スキル』なら操作性を『支援スキル』なら威力をと言った具合に補助してくれます」
「系統で効果が決まっているのか」
「例外もいくつかありますが、概ねそうですね。効果は先ほど言った内容になります」
「魔法スキルの操作性ってのは、自由自在に操れるようになるって事か」
「そうですね。それはつまり、『威力の調整』『弾道の変化』『発動速度の上昇』を意味します」
「つまり、火力の上げ下げが出来て、好きな場所に撃てて、発動までが早いと、どれだけ高性能な補助なんだよ。まったく。」
愚痴を言うと同時にふと、有ることに気づいた。
あくまで、スキルは補助なんだよな。
だとしたら・・・。
「なぁ、スキルが無くても魔法を撃つことって出来るのか」
「そうですね。プロセスを正しくこなせば撃つことができます」
シウが答えてくれた内容に僕は笑みを浮かべる。
これはいいことを聞いたのかもしれない。
「ありがとう。今まで聞いた話を参考に選んでみるよ」
シウの説明で方向性は決まった。後は、選んでいくだけだ。
気づいたら、イチャイチャ実況になってる(血涙)