二度目の裏切り
王立穀倉改革委員会への参加が決まったのは、婚約披露から半年後のことだった。
エルディア王国では、北部の食料不足が長年の課題となっていた。
王都や南部には十分な穀物があっても、冬になると北部への輸送が滞る。
雪で街道が閉ざされ、食料を積んだ馬車が何日も立ち往生することも珍しくない。
私はその問題を解決するため、各地に備蓄倉庫を分散させる案を考えていた。
倉庫を増やすだけではない。
輸送経路の見直しや、地域の商人との連携、備蓄量の適正化。
すべてを組み合わせる必要があった。
アルヴィンも委員会の仕事に関わっていた。
彼は公爵家の跡取りとして、王宮との交渉を担当する立場だった。
私たちは一緒に国の役に立てるのだと思っていた。
しかし、二度目の約束は、その仕事を通じて破られることになる。
ある日、私はアルヴィンに重要な報告会の日程を伝えた。
「来月の十二日に、改革案の発表があります」
「そうか。準備は順調なのか?」
「はい。ようやく試算がまとまりました。今回の発表で承認されれば、来年から試験運用を始められます」
「それは素晴らしいな」
彼は資料を受け取った。
「私も出席します。君が三年間取り組んできた仕事ですから」
「ありがとうございます」
私はその言葉が嬉しかった。
報告会には各地の領主や商人も参加する。
そこでアルヴィンが後ろ盾になってくれれば、改革案は一気に前進するだろう。
ところが、発表会の前日になって、予定が変わった。
アルヴィンから届いた手紙には、リディアが主催する慈善活動の発表会が同じ日に開催されると書かれていた。
彼は、そちらに出席しなければならなくなったという。
私はすぐに返事をした。
『明日の発表会には、あなたの出席が必要です。以前からお約束していたことを覚えていらっしゃいますか』
しばらくして届いた返事には、こう記されていた。
『もちろん覚えている。だが、リディアは初めて大きな慈善活動を発表するんだ。彼女には私の支えが必要だ。君なら一人でも十分に説明できるだろう』
私は手紙を机の上に置いた。
しばらく何も考えられなかった。
その日の夕方、アルヴィンが訪ねてきた。
「エレノア、明日の件だが」
「手紙を読みました」
「申し訳ない。だが、リディアの発表は彼女にとって大切なものなんだ」
「私の発表も、大切なものです」
「分かっている。だが、君は能力がある。私がいなくても問題ないだろう」
私は彼を見つめた。
「私が一人で説明できることと、あなたとの約束を守らなくていいことは別です」
彼は少し困ったような表情をした。
「そんなに怒らないでくれ。仕事のことなら、後からいくらでも話を聞く」
「そういう問題ではありません」
「リディアは私が行かなければ落ち込んでしまう。君なら分かるはずだ」
また同じ言葉だった。
君なら分かる。
君なら我慢できる。
君なら一人で大丈夫。
私は自分がいつもその言葉で納得させられていることに気づいた。
「アルヴィン様」
「何だ?」
「次に同じことがあったら、私はもうあなたを信じません」
彼は少し驚いたようだった。
しかし、すぐに笑みを浮かべた。
「分かった。次は必ず君を優先する。約束するよ」
私はうなずかなかった。
翌日の発表会は、予定通り進んだ。
私は一人で壇上に立ち、三年間の成果を説明した。
輸送経路の問題、倉庫の配置、費用の試算。
質問にも丁寧に答えた。
何人かの領主からは高い評価を得られたが、アルヴィンが欠席したことで、公爵家の正式な後援を受けられるかどうかが問題となった。
結局、改革案の採用は保留となった。
会場を出た後、私は一人で帰宅した。
馬車の中で、何度も窓の外を見た。
アルヴィンは来なかった。
その夜、彼から謝罪の手紙が届いた。
『今日は本当に申し訳なかった。次こそは必ず約束を守る』
私はその手紙を引き出しにしまった。
そして、心の中で思った。
もう一度だけ。
次が最後。
そう決めていたはずだった。




