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私を二番目に選ぶ婚約者に、三度目の機会はありません  作者: 貫井
二番目の婚約者

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1/3

私を二番目に選ぶ婚約者に、三度目の機会はありません。

「エレノア、君なら分かってくれるだろう?」


その言葉を聞いた瞬間、私は不思議なほど冷静になった。


王立穀倉改革委員会の会議場。


長いテーブルの向こうには、王宮の官僚や貴族たちが並んでいる。


そして、その中央には私の婚約者であるアルヴィン・グランフォード公爵令息が座っていた。


彼の隣には、淡い桃色のドレスを着た女性がいる。


リディア・ベル。


アルヴィンの幼馴染で、彼が昔から何かと世話を焼いている女性だ。


「今回の食料支援計画は、リディア嬢の発案によるものです。彼女の慈善活動を通じて、多くの領民を救えるでしょう」


アルヴィンは満足そうに説明した。


リディアも少し恥ずかしそうに微笑んでいる。


「まだまだ勉強中ですけれど、少しでも皆様のお役に立てたらと思いまして」


会議場から拍手が起きた。


私はその様子を見つめながら、手元の資料を閉じた。


その計画書には、見覚えがあった。


三年間、私が考え続けてきた王立穀倉制度の改革案。


地域ごとの備蓄量、輸送経路の分散、冬季の保管方法。


それらが、ほとんど同じ形で記載されていた。


ただし、一つだけ違うことがある。


私の計画書には、北部の冬季輸送に関する危険性と、その対策が記載されている。


リディアの計画書には、それがなかった。


「エレノア嬢。何かご意見が?」


議長から声をかけられ、私は立ち上がった。


「一つ確認させてください。こちらの輸送計画についてですが、冬季に北部の街道が閉鎖された場合、どのように対応する予定でしょうか」


リディアが少し困ったような顔をする。


「それは……そのときに考えればよいのではないでしょうか?」


「食料は、必要になってから準備できるものではありません」


私は静かに答えた。


「北部の主要街道は、過去十年間で平均して四十三日間、積雪による通行制限が発生しています。その期間に中央の倉庫から食料を運ぶことは困難です。そのため、事前に各地域へ備蓄を分散させる必要があります」


「ですが、そこまで複雑に考える必要はないでしょう。リディア嬢の計画でも十分に対応できるはずです」


アルヴィンが口を挟んだ。


私は彼を見た。


「アルヴィン様。これは慈善活動ではありません。王国全体の食料供給に関わる計画です」


「分かっている。だが、リディアも一生懸命考えたんだ。最初から否定する必要はないだろう」


「否定しているのではありません。必要な対策が抜けていると申し上げているのです」


リディアは困ったように視線を落とした。


「申し訳ありません。私の勉強不足でした。でも、エレノア様の資料を参考にさせていただいた部分もありますので……」


その言葉に、私は目を細めた。


参考にした。


確かに、私の資料を参考にすれば、同じ数字や文章が出てくることもあるだろう。


しかし、今回の計画には、私が独自に考案した倉庫の配置図まで使われていた。


さらに、私の草稿にしか存在しない古い地名の誤記まで残っている。


偶然の一致では説明できない。


「参考にされたのですね」


「はい。以前、アルヴィン様に少しだけ見せていただいた資料があったので」


私はアルヴィンを見る。


彼は一瞬だけ視線をそらした。


「エレノア。君の計画はすでに完成しているだろう。今回はリディアにも経験を積ませてやりたいんだ」


「私の資料を渡したのですか?」


「必要な部分を参考にしただけだ」


必要な部分。


三年間の研究も、何度も繰り返した試験も、現地の商人たちと交わした契約も。


彼にとっては、必要な部分を抜き出せば済む程度のものだったらしい。


私はゆっくりと息を吐いた。


これが初めてなら、私は彼と話し合っただろう。


二度目なら、もう一度信じようとしたかもしれない。


しかし、今回は違う。


「では、もう一つ確認させてください」


私は自分の資料を取り出した。


「こちらが三年前に提出した原案です。こちらが一年前の修正版。そして、こちらが先月完成した最終案です」


三冊の資料を机に置く。


「それぞれに日付と記録が残っています。今回のリディア嬢の計画には、私が三年前に試験的に採用し、その後に修正した旧式の輸送経路が使われています」


会議場が静かになった。


「なぜなら、この経路には冬季の通行不能区間があるからです。実際、昨年の試験では輸送が予定より十二日遅れています。その記録もここにあります」


議長が資料を手に取る。


何人かの官僚が互いに顔を見合わせた。


「つまり、リディア嬢の計画は、エレノア嬢の古い草案をもとに作成されたということか?」


「はい。少なくとも、私がこれまで提出した資料と一致する部分が多数あります」


リディアの顔から笑みが消える。


「そんなつもりでは……」


アルヴィンが立ち上がった。


「待ってくれ。リディアに悪意はない。彼女はただ、国民のために何かしたかっただけだ」


そして彼は、私を見た。


「エレノア。君の管理体制にも改善すべき点があったのではないか? だからこそ、今回のような問題が起きたのかもしれない」


その言葉で、私の中に残っていた何かが、音もなく消えた。


彼は今、私の仕事を守るどころか、私に責任を押しつけようとしている。


私は胸元に手を伸ばした。


そこには、アルヴィンから贈られた婚約指輪がある。


三年前、彼は私に言った。


一生、君を大切にすると。


私は指輪を外し、机の上に置いた。


小さな音が、静まり返った会議場に響く。


「アルヴィン様」


「……何だ?」


「婚約を解消してください」


彼の表情が固まった。


「何を言っているんだ?」


「聞こえませんでしたか? 私たちの婚約を解消していただきたいのです」


「落ち着いてくれ。こんな大勢の前でする話ではない」


「そうですね。ですが、私は今まで何度も二人で話そうとしてきました」


「エレノア……」


「一度目も、二度目も、あなたは私に約束しました」


私は彼を見つめた。


「次は必ず私を選ぶと」


アルヴィンは何も言わない。


「これが三度目です。私を二番目に選ぶあなたに、三度目の機会はありません」


そして私は、彼に背を向けた。


背後から私の名前を呼ぶ声が聞こえた。


けれど、もう振り返る理由はなかった。

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