明日どこ行く?
今年も宜しくお願いします
夕食を食べ終え、アンケートを正直に答えた僕は。
特に何かしたいと思っていないので素直に部屋に戻ろうとしたところ、
「あ、レン! ちょっと待ってください!!」
食堂を出たところでレミリアさんに呼び止められたので、足を止める。
「どうしたの?」
振り返って首を傾げる。もう部屋にある風呂沸かして適当に時間を潰して寝ようと思っていたけど、何やらそれも言いづらい雰囲気で話しかけてきたのだから。
振り返ったら彼女が何やら深呼吸をしていた。念入りにやっているようで、そこまで緊張されると本当に心配になる。
これ、声かけた方が良いのかなとためらっていると、彼女の方から話し出した。
「そ、そういえばですね」
「うん」
「あ、あああ明日の行く先な、なんですけど……き、決まってますか?」
「決まってないけど。日数長いから計画立てるよりフラフラ歩いて行こうかなって程度だし」
正直に答えたところ、彼女は視線を合わせてくれないまま安堵した。いやもう慣れたけどさ、この状況。
ひょっとして行きたい場所があるんだろうか。場所によっては一人でどうぞって言わなきゃいけないんだけど……酷かな。
そんな心配をしていると、「い、いい一緒に行ってもらいたい場所があるんです! ふ、二人で!!」と叫ばれた。
「……」
僕は沈黙して今後起こりうる可能性を展開していく。ざっと三つぐらいかな。
別れ・一緒に行動・告白。う~ん最後はなさそうかな? 彼女の性格的に。断定はできないけど。
で、次に考えるのは一緒に行こうかどうかというもの。
……行きたい場所がないから、別に行ってもいいんだけど……どうしたものかな。
目を瞑り、腕を組んで考える。
「…………う~ん」
「だ、大丈夫ですか……?」
周囲に人が集まっているのが分かる。まぁこんな場面だしね。
首をひねったりしてうんうん唸って……長考していたところ、ぐすっと近くで聞こえた。
……え?
思考を中断して彼女を見ると、裾をつかんで俯いていた。多分、泣き出しそうになっている。
そう判断した時点で、僕は自分で失敗を悟った。
知らず知らずのうちに僕は言葉を漏らした。
「……ごめん」
「え……」
彼女が顔をあげて反応する。僕はその表情を見つめ……「勇気を出して誘ってくれたのにすぐ返事をしないで、本当にごめん」と謝罪した。
突然の事なのか彼女は何も言わない。それはまぁしょうがないだろう。なんといっても彼女もいっぱいいっぱいだったのだから。
自然と彼女に近づき、あと二歩ぐらいで触れそうになる距離で足を止めてから「不安にさせてごめん。本当、ひどい奴だよね、僕」と自虐して、答える。
「そんな僕と一緒に行きたい場所があるなら、明日はどこへでも行くよ?」
「――――ひゃう」
「え?」
彼女が卒倒して背中から倒れそうになったので慌てて支える。何とか無事に支えられたので彼女の表情を見てみたら、目を回していた。
…………緊張の糸でも切れたのかな?
このまま起こすのも忍びないと思ったので、周囲にいる庄一達に「えっとさ、どうしたらいいかな?」と見渡して質問したところ……女性陣が顔を赤らめて視線を外し、庄一達はあきれ顔。
「え~っと……?」
瞬きしてから答えを待っていると、圭が「……連はどこまで行っても連だな」と呟いた。
いや、それはそうだけど、さ。
「この状況、どうしたらいいの?」
「俺に訊くな」
「……同じく」
「えっと、その……あははは」
元が答えをはぐらかしたのは分かり切っていたので、次に女性陣に視線を向ける。
最初に答えを返してくれたのは花音さんだった。
「このまま私達の部屋に運んであげたらいいんじゃない~」
「え、でも。そ、それは……」
至極まっとうな提案だけど、僕は困惑した。
その困惑に、庄一が突っ込んできた。
「いや、その反応は何だ。あれだけ臭いセリフ言っておきながら」
「え?」
「なんでそこは素直に首を傾げるんだよ!?」
「いや、自然と出た言葉だし」
『え』
驚くみんな。いや、そんなことしてる場合じゃないんだけど。
誰もが解決策を提示してくれない――いや、花音さんの案があるか。それしかないので、彼女を床に寝かせてどっちの方が被害が少ないかを考える。
……お姫様抱っこかな。出来るかどうかわからないけど。
「お客様。どうかなさいましたか?」
「あ、本井さん」
「おや、気を失っているようですが、よろしければ運ばせましょうか?」
「え、あー……おねがいします」
降ってわいた機会に思わず飛びつく。最初から頼めばよかったことにそこで気づく。やっぱり僕も緊張してたのかな、気付かないうちに。
ま、それは仕方ないか。そう思って本井さんが呼んだメイドさんがレミリアさんを抱きかかえて運んでいく姿を見てから息を吐く。
で。
「あのさ、みんな。見守っていたのは良いんだけど、助けてくれなかったの……?」
意思の確認をしてみたら、案の定誰も返答してくれなかった。見ている方が緊張したり僕に対して心の中でツッコミを入れていただろうし。
僕だってそうするだろうし。そう思ってため息をついてから、「という訳だから、明日庄一は一人で行動よろしく」と言ってから部屋に向かう気になれなかったので、外へ向かった。
建物の外に出て空を見上げる。街灯がないせいか、月や星の明かり以外がなくて見づらい。
ところ変われば品変わるというけれど、大自然の明かりは邪魔されてないだけなんだなぁなんて感想を抱きながらぼんやり眺めていると、電話が鳴った。
「……どうしたの、父さん?」
『あ、ああ連! その、どうだ友達との旅行は?』
「まだ初日過ぎただけなんだけど……慌しく電話してきて、何かやらかしたの?」
『まだやらかしてないぞ! って、違う。あーその、電話こなかったか?』
「電話? 今日は父さん以外電話かけてきた記憶はないけど……」
『そ、そうか! ならいいんだ!! お前は旅行を楽しんで来い!』
「え、どうしたのさ……」
父さんがあからさまに怪しい電話の切り方をしたので、携帯電話をポケットに入れて建物に背中を預け空を眺めながら考える。
父さんがあれほど慌てるとなると、こっぴどく怒られることが確定しているのが関係しているのかな。両親はバレているのに焦って証拠隠滅しようとする人たちだからなぁ。そうなると……サプライズというか、僕がいなくなったタイミングで家に押しかけられたのかな。
「……ってことは、帰ったら来てるのかな、爺ちゃん達」
電話で確認しようと思ったけど、この状況で未来のことを確定させて気が重くなるのも馬鹿らしいと考え直し、やめた。代わりに息を吐く。
あの人達本当にとんでもないからなぁ。僕なんかじゃ足元にも及ばない。年の功とはよく言ったものだ。経験の量の差で、一矢報いようにも届かないんだよなぁ。
敗北感が胸を占め、頭を振る。けれど、胸の中には残ったままだった。
「はぁ……」
「相変わらず一人でいる時に自己完結をするのですね、連様」
「……菫さんの保護者兼護衛なのでは?」
「このホテル内に皆さまいらっしゃるので問題ありません」
「そうですか」
体を横に向け、建物の明かりに月明かりが追加されて照らされた未来さんを見る。
彼女はいつも通りの表情で、「先ほどは申し訳ございませんでした」と頭を下げて謝罪した。
「ああ、もう気にしなくていいですよ。半分八つ当たりのようなものですから」その謝罪に対し現在思っている言葉をそのまま口にする。その言葉を口に出し、改めて自分は屑だなぁと再認識する。
レミリアさんに対するあの言葉は、僕があの時思っていた偽りのない言葉だ。だけど、あんなのは正直謝罪ではない。最低な男がやる、お詫びの言葉だ。上辺だけで謝り、内心で反省してない酷い言葉だ。そう断言できるこそ、僕は自分が屑なんだなと思える。レミリアさんは優しいから否定するだろうし、庄一達も必死に僕の価値観を否定してくれるだろう。
その結果は、分かり切っているけどね。
「……連様。私はまだ知り合って半年も経っておりませんが、どうにも一人で背負わなくてはいけないと考えている方だというのは分かりました」
「……はぁ」
「家庭環境などで苦労された結果であれば当然でしょう。ですが、今は変わりつつあるはず。少しずつその重荷を外せる環境になりつつあるのでは?」
「…………なんで今その話題を?」
「それは、その……連様には、この度の旅行を楽しんでいただきたく思いまして……」
未来さんが俯く。恐らく恥ずかしいのだろう。年下を心配している自分に対してなのか、心配している僕に見られていることになのか分からないけど。
首を回す。色々と言いたいことが浮かんでたけど、それらを消すように。
………………よし。なんとか消せた。
とりあえず調子を戻し始めたので、「ご迷惑をおかけしました未来さん」と頭を下げる。
「い、いえ! こちらが勝手に言っただけですのでお気遣いなく」
「……なら、そういうことにしましょう。そろそろ戻りましょうか。春も終わりとはいえ、少し冷えるでしょうから」
「…………え、ええ。そうですね」
そして僕達二人はホテルの中に戻り……なぜかみんなに謝られた。




