夕食
庄一たちが戻ってくるのにそれなりに時間がかかったみたいだけど、なんか二人ともすっきりした表情を浮かべているようだった。
とりあえずベッドから移動して机から顔をあげた僕は二人を見て「おかえり」とねぎらう。
「……悪かったな」
「別に気にしてないよ? 琴線に触れたのは僕達の方なんだから」
「……謝る気はないが」
「おい圭! テメェ、その態度はどういうことだ!!」
庄一の怒鳴り声を圭は無視して本をぺらりとめくる。僕はその光景を無視して「それにしても、一時間すれば戻ってきそうだったのに三時間もかかったなんて……元は庄一を探す間に又巻き込まれたの?」と辛いけどこの状態のまま質問する。
その質問に彼は「え、いや、今回は巻き込まれてなんかないから! ちょっと庄一を探すのに手間取っただけだから!!」と慌てながら答えてくれた。
「なんで慌ててるのさ」
「……一緒に迷子探し」
「なんで知ってるんだよ!? ついさっきの出来事だろ!」
「あ、圭。メール見てたのってそれ?」
僕がそう訊ねると、彼はこくりと頷く。それを見た二人は肩を落とした。
慰める気もなかったので「そろそろ夕飯だねぇ」と呟く。
「……なんか、俺が出て行ったあとよりだらけてないか……?」
「えっと、大丈夫?」
「……さっきまで勉強してた」
「「え?」」
圭の言葉に驚いたのか二人が見てきたので、気が抜けきっている僕は「やることないしね」と机に体を預けながら答える。
「だから、それで勉強に至る理由を知りたいんだ…………ん?」
話を聞こうとした庄一は僕の事情を思い出したのか質問しかけた言葉を止める。
察しが悪くなる時があるのはどうしてなんだろうかとぼんやり思いながら黙っていると、「ああそっか。お前、自分で遊ぶものないんだったな」と正解してくれた。
それに反応したのが、元。
「え? どういうこと?」
「言葉通りだ。あいつ、トランプとかゲームとか、娯楽系を一切手付けてないんだよ。読書ぐらいだけだ」
「どうしてさ?」
「……お前、こんなところで鈍感を発動しなくていいんだぞ」
「え、どういうことさ庄一?」
困惑する元に息を吐いて助け舟を圭が出した。
「……家庭環境」
「………………あ」
ようやく思い至ったらしい。だけど僕はどうでも良かったので時計を確認してのそりと立ち上がる。もう少しのんびりしたいけど、時間は守らないといけないからね。
立ち上がってから深呼吸をして気分を変える。見られてどうにかなったところで別に構わないけど、お店側に迷惑も掛かるし、何か意見を求められたら返事に困るのもどうかと思う。
ここまでの時間でゆっくりできた僕は腕を伸ばしてから「さ、夕食行こうか」と提案する。
「そういやそんな時間だったな」
「連絡しなくて大丈夫かな?」
「……問題ないはず。向こうも把握してるだろうし」
「どんな料理が出るんだろうなぁ。楽しみだなぁ」
最悪手抜きでもタダでここまでしてくれるなら文句は言えないけど、ね。
圭の案内で食堂に到着したら、扉の前に女性陣が揃っていた。もう外へ出る気がないのか、みんな部屋着みたいだ。いつも見る姿より、レミリアさん若干気合入っている気がするけど。
「遅かったじゃない」
「あん? こっちの方が遠いんだから遅いに決まってるだろうがよ」
「は? あんたがどっか行ったのが原因じゃないの?」
「んだとテメェ」
「久美に庄一、喧嘩腰にならないでよすぐに!」
「「ふん」」
……なんだろうか。庄一ってとにかく久美さんと相性が悪いんだけど、やっぱり口調のせいなのかな。
今更な関係の原因を究明する気のない僕は「まぁ待ってくれてありがとうね。入ろうよ」と些細な出来事を流すことにする。
それは功を奏し、みんな中に入ることになった。
「うわぁ凄いね元!」
「そうだね、花音」
「似てるわね、あのホテルに」
「本当ですわ」
「いつ見てもすごいわね……」
中に入ってすぐに元たちが声を漏らす。どうやら、食堂のセットやらが全部同じらしい。
だけど僕達三人はその感動を共有できなかった。なんでって?
「……久し振りに見た」
「食堂ってこんな感じなんだな。アンティークを結構置いてないか?」
「いつも僕達ルームサービスだったからね」
ま、そんな感じで。去年の夏休みに行ったとき、大体圭が普段泊まっている部屋で何とかなっていたから、実を言うとあまり設備に関しては詳しくない。圭はともかく、僕と庄一は。
で、そんな事情を知らないレミリアさんは僕達のリアクションが薄いことに首を傾げた。
「え、えっと……ど、どうかしたんですか?」
「え? あ、いや、何でもないよ。とりあえず席に着こうか」
とりあえず誤魔化して僕は十人掛けのテーブルへ向かった。
で。
「元。そこ一つ空けて」
「え?」
「で、僕はこっちの端に座るから……はい後どうぞ」
「え?」
とりあえず隅に座りたそうな元をけん制して彼女達が近くに座れるように配慮して、僕はその対角線上の端に座る。
久美さん達が座って僕の意図に気付いた彼が何とかしようとしたけど遅すぎて、あっという間に席が埋まる。
と、レミリアさんは普段と同じように僕の正面――に座らず、隣に座ってきた。
……え。
横目で見て思わず思考が止まった間に圭が僕の正面、庄一がレミリアさんの隣、未来さんが圭の隣に座ってしまったのでもう変更できない。
えも言えぬ緊張感が僕を襲っていると、本井さんが「皆様お揃いのようですね。それでは夕食を運ばせていただきます」と言って指を鳴らす。それに合わせて料理が運ばれてきた。
で、その中に一人、知ってる人が混じっていたので思わず声をかけた。
「あれ、詩音さん? どうしてここに?」
「え、うわマジだ」
「……!」
圭が目を見開いて驚いている。ひょっとして知らなかったのだろうか。いやまぁ、僕も確証はなかったんだけど。
圭に料理を配膳している女性――詩音さんは丁寧に皿を置いてから「黒曜様から出向命令を受けまして」と短く答えてくれた。
黒曜様、ね……。ひょっとして圭が所属する組織にいるのかな詩音さん? 普通だったら支配人で良さそうだし。あえてそう呼んで深読みさせている気がしなくもないけど。僕が勝手にしてるだけだし。
にしても、圭が不意打ち受けてあそこまで驚くなんて初めて見た気がするなぁ。友達の驚き様を見てそんな感想を抱いていると、「それにしても、どうしてお分かりに?」と詩音さんの方から質問されたので「こちらから顔が見やすいので」と意味を含ませて答える。……レミリアさんからの視線が何やらきついけど。
知ってる人に声をかけただけなのにどうしてだろう? と内心で首を傾げていると「では」と頭を下げて僕達から離れた。
考えても埒が明かないので忘れることにし、運ばれた料理を食べようと思い「いただきます」と手を合わせた。
食事はコース料理だった。本当はマナーとか色々あるんだろうけど、それを真面目にやっているのは未来さんと菫さん、圭ぐらいで、僕は辛うじてだしレミリアさんも微妙に間違っているみたいだし、庄一なんて気にする必要ないなんて感じで食べてる。
で、ここらは新サービスになるのか何人かが食べ終わったら次の料理ではなく、個々人で食べ終わった順に次の料理が出てきた。庄一がなんだかんだ言って一番早いので彼を担当している人は慌しく移動している。なんだか同情したくなった。
料理自体は美味しい。ただなんだろう。感動、というか料理を作った人の努力が見えない。
昔は自発的に料理をやらざるを得なかったわけなんだけど、その時ですら料理するのにあれこれ考えて工夫したり失敗したりと苦心した。そんな経験があるせいか、なんとなく個人経営の料理を食べているとその人の工夫とかが分かるようになった、のかな? あんまり確認しないから何とも言えない。
でもここの料理はそんなものがない。恐らく、機械で作ったのかな? みんなの料理は同じ味がする気がする。人だと同じ調理をしたのに同じ味にならないなんてザラだしね。
この確認は食べ終わってからでいいかなと結論を出していると、「お、美味しいですね、レン」とレミリアさんが話しかけてきた。
「え、あん。そうだね」
「でも、レンの作る料理の方がもっとおいしいです! 世界一です!!」
「世界一は大袈裟じゃないかなぁ……」
「これよりうまいってのは否定しないんだな……俺もそう思うけど」
聞いていた庄一がぼそっと呟く。どうやら彼も気づいていたらしい。ってことは、みんな分かっているんだろうか。
これ、アンケートに書くときに正直に書いた方が良いよね。タダとはいえモニターなんだからさ、僕達。




