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一方その頃

 庄一が部屋を出て元が追いかけた同時刻。


「おいロキ。テメェ、どういうつもりだ?」

「あら大黒天。結構早かったね? ひょっとして彼が知らない安全装置でも仕込んでる?」

「どうだっていいだろそんなこと。それより質問に答えろ。なんで風の精霊を操って連に(けしか)けたんだ。事と次第によっては自業自得で切り捨てるぞ」


 島の上空。いや、島に生えている樹木の天辺で何かを見ていた少年――ロキに突然現れた大黒がそう質問したところ、ロキは悩む仕草をしてから「気になった(・・・・・)んだよ」と答える。


 それを聞いた大黒は考えるそぶりも見せずに「上辺だけ(・・・・)答えて納得するわけないだろうが、俺達が」と間髪入れずに脅す。


「うぇぇぇ! ちょっとそれはシャレにならないって!! 破壊神の力振るわれたら無事じゃすまないよ!?」

「だからきちっと説明しろって言ってるんだよおい。今回ばかりは誤魔化そうが、嘘言おうが結果はシャレにならないからな。お前が考えている本音を言え」

「うっ。わ、分かったよ……滅茶苦茶なことが起きそうなのは把握したから、ちゃんと説明するって」

「それで嘘の一つや説明不足だと思われたらマジでやるからな」

「って、それだよそれ。僕が気になった理由」

「?」


 怒りに身を任せていた大黒はロキのその言葉に冷静になる。

 マントを身に着け、少年の姿をしている銀色と金色のオッドアイのロキは、「君や他の神様達――まぁ女神が中心なんだけど――が肩入れする理由が大本にあるんだよ」と語りだす。


「不思議なことか?」

「まぁ不思議ではないんだけどね。歌手になりたいと努力した少女にささやかながら加護を与えたり、邪神の力を揮える巫女がいたりと現代でもそれなりにいる。でもさ、彼に至っては例として挙げた彼女達とは全く違う、全くの偶然で遭遇した、加護も与えてないその他大勢だ。しかも、遭遇したにもかかわらず神様である君を人間と同じように扱っている。これほどおかしいことはないでしょ?」

「まぁ最初は『罰当たりな奴』とか思ったけどよ」

「それがなんで今みたいな関係になるのか。だから僕は気になってこうして来た。ちょっとした仮説を検証するために」

「仮説?」


 まだるっこしい言い回しに少し苛立った大黒が急かす。ロキは天辺から宙に移動して「実はね、風の精霊には俺以外の指示を通さないように細工をしたんだよ」と種明かしをする。

 その言葉に大黒は真意を訊こうとして……自分で気づいた。


「あいつ……止められた(・・・・・)のか?」

「最初は念じていたみたいだけど、彼がポツリと漏らした声が――正確に言うとその声に込められた『念』が、精霊たちに直接叩き込まれたようなんだよ。怯えてたね(・・・・・)

「…………いや待て。あいつは正真正銘、超能力とか魔法とか、そういったギフトを与えられた訳じゃないぞ」


 ロキの説明を理解した大黒は反論する。しかしロキは「彼にお守り持たせたでしょ?」と反論を封じる。


「……だが、魔力やそういったものの使い方は知らないぞアイツ」

「だろうね。でも無意識にお守りを握っていたみたいだし、奇跡の片棒を担いだんでしょ? そのせいで体が覚えたって可能性もあるじゃん」

「そうやって話を逸らすのかよロキ。お得意の話術は今封印してきっちり説明しろ」

「あはは真面目に言ってるんだけどなー……。僕が彼――池田連にちょっかいをかけた理由は彼の土壌を理解して解明したかったんだ」

「土壌、たって……それぐらいの情報ならもう行き渡ってるようなものだろ」


 何を言っているんだという顔をしながらプライベートという言葉の価値のない発言をする大黒に「それは彼の現在まで積み重ねた生き方でしょ? 私が言いたい土壌は彼の心理だよ」とウィンクして補足する。


「彼があの状況でどう判断して、どう行動するのか。一応俺もトリックスターとか言われてるし、人間の心理なんて読むのはたやすい……だが、分かったのはこの状況を引き起こした神様に対する怒りだけだった。それ以外の感情が全く読み取れなかった」

「まぁあいつ、思っていること以外の情報見つけさせないからなぁ……」

「――訳じゃない」

「何?」

「微かに、本当に幽かに見えた。あれは――『闇』だったよ」

「……」


 心当たりがあるのか黙る大黒だが、ロキは気にせずに語りだす。


「大黒達が心理的プロテクトが高いなんて評価する理由にも納得だったよ。あれじゃ、誰がやろうが結果は同じ。全能神でさえ届かないかもね……あんなの、ブラックボックスと一緒だ」


 おかげで人気になる理由も仮説だけど出来た。

 そういうと、黙っていた彼は「その仮説ってなんだよ」と質問する。


「彼はさ、フラットなんだよ。接する種族は関係なく、ただただ一個体としての評価で誰彼問わずに接することが出来るから。そして、真理的な事実と物事を俯瞰して行動する『人間』の極致に至っているがゆえに自分たちの力を頼る気がないから。あとは底辺に近い環境にいながらも健気に生きていたその精神力。それらの魅力が、彼という存在を僕達の観察対象として昇華させているって仮説」


 どう? とロキが首を傾げたので、大黒は吟味してから「それでも襲撃した理由にならないよな?」と訊く。


「……え?」

「だからよ、そんな周知の事実(・・・・・・・・)を再確認することが襲う理由にならないって言ってるんだよ」


 ロキはあまりにもあっさり言われたことに呆気にとられ……「ごめん、もう一回言って?」と聞き返す。


「どうしたお前。まさかその程度気付いてないと馬鹿にしてたのか? あいつが良くも悪くもフラットなのは俺と最初の遭遇で分かっていたことだ。神様だろうが話が通じるなら怖がる必要性がないし、だらしない所から見たせいか生活自体が人と同じ接し方で良さそう……今年の春にこっちに来た時アイツが言っていたよ。人間の極致だってそうだ。あいつにとって世界は、理不尽が罷り通り、助けなんてほとんどないって実体験しているんだから。健気に生きていたって言うのは違うな。あいつは他人が当てにならなくて、子供でも家庭崩壊が理解できたからせざるを得なかったんだ。……この土壌(・・)はもう、俺達の間じゃ知れ渡っているんだよ」


 だからテメェのやったことははっきり言えば無意味だな。そう吐き捨てた大黒はもう一度訪ねる。


「で、なんであいつを襲ったんだ?」

「……」


 ロキは冷や汗を流す。頭の中を高速回転させて理由を探す。

 え、うそでしょ。大黒が遭遇したのは正月前後。そこから四か月程度でそこまで爆発的に浸透するなんて……。

 必死に考えている中、その沈黙の長さに比例して苛立っている大黒は、視線を彷徨わせて発言しないロキを見てあと十秒で絞めようと決意する。


 残り五秒というところで、ロキは考えをまとめて言った。


「今後こういう現象に巻き込まれたときに毅然とした態度で立ち向かってもらいたいからさ!」

「…………」

「…………」

「……ロキ」

「何」

「アテナのところ連れて行ってやる」

「なんで!?」


 納得できなかったこと(死刑宣告)に思わず声を上げるロキ。それに対し大黒は淡々と答える。


「お前よ、今月の初めにあんなことあったのに、これ以上追い詰めるなよ。やるなら時間を空けるんだよ。そうじゃねぇと間違いなく死人が出るぞ」

「いや、え? なんで人間の心情を尊重する必要あるのさ? 僕達神様だよ?」

「だから言ってるだろ。あいつに神様なんて立場は関係ないんだって。俺達の仕業だって理解してるから異議申し立てなんて当たり前にやるぞ。容赦ないからな、お前。感情的じゃなくて淡々となんでやったの? 下手したら周囲に被害を及ぼしかねなかったんだけど? って。表情一つ変えないで言われるから心折れるぞ」

「……いや、神様がなんで心折れるのさ?」

「分かってねぇな! あいつの前じゃそんなプライド粉微塵だよ! おまけに女神の大半が向こう側だからな? 戻ってきたらそっちで更に説教だぞ?」

「……うわぁ」


 リアリティあるセリフに、思わずロキは後ずさる。

 だが大黒は彼の背後に移動して羽交い絞めにした。


「ちょっ!」

「ってなわけで、お仕置きの時間(タイムアップ)だ。案内してやるよ、地獄に近い場所ヘな」

「い、いやぁぁぁ!!」


 ロキは悲鳴をあげながら足掻くが、残念ながら連行された。

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