89話 師匠の悩みと嫁(予定)の活躍
前半と後半で視点が違います。
後半からは主人公へと視点が戻ります。
VS魔物の群勢はもう1話か2話続くと思います。
89話 師匠の悩みと嫁(予定)の活躍
ーーーオフィーリア視点ーーー
「うんうん♪あの子は私の教えをきちんと守っている様ね♪……また腕を上げたんじゃないかしら?愛の力ってすごいわねぇ〜。」
私は街の外壁に一人立ち、眼下で行われている戦闘を眺めている。
あの子と修行のためにカヴァルトの森へ入ったのが約1ヶ月前。
その時に森がいつもの雰囲気とは違うと思い、あの子と別れた後に少し調べていたけれど……。
まさかここまでのことになるとは思わなかった。
正直、ここまでの事態になると、この街に住む者の一人として私も手を出すべきかと考えた。
だけどあの子達……。ララとハヅキくんを見て考えが変わった。
私の愛弟子とその主人が頑張って困難に立ち向かおうとしているのに、それをおばさ……こほん。お姉さんの私が手を出しては台無しでしょう。
……まぁ、あの子達に危険が迫ればどれだけ非難されようが手を出すつもりだけど……その心配は必要なさそうね。
何せ、先程まであの子達はこの街を滅ぼすのか?というほどの魔法を使って魔物を殲滅していたのだ。
そして、その数をおおよそ4000ちょっとまで減らしたかと思えば、武器を手に魔物の群勢に突撃して、斬っては伏せ、斬っては伏せと言葉通り魔物達を蹂躙しているのだ。
そもそも、大群と大群の衝突だ。
当然大規模な乱戦になるし、迫ってくる敵の数も普通じゃない。だと言うのに二人とも敵の攻撃を受けるどころか、返り血すら浴びていないのだ。
正直、あの二人を同時に相手するとなると私でも苦戦しそうだ。それほどまでにあの二人の力はズバ抜けている。
「……愛弟子が強くなるのは嬉しいけれど、どんどん私から離れて行く気がするわねぇ……。はぁ、ちょっと悲し……」
私が愛弟子の成長に感慨に耽っていると、それを遮るようにして割れ鐘をつく様な大声が聞こえて思わず口を噤んだ。
そして釣られる様に声の方を見ると、そこには10体程のトロールを相手に戦う冒険者達の姿があった。
「あらら〜。あれはちょ〜っと厳しんじゃないかしら?……むざむざ殺されるのを見るのは気分が悪いし助けに………って、それも必要なさそうね。」
その理由は簡単だ。その事に気がついたあの子達が救援に向かったからだ。
トロールはオーガと同じBランクの魔物だが、あの子にとってはトロールの方が強敵に当たるだろう。
鍛え抜かれた体を持ち、素早い動きを得意としていて、重い一撃を加えてくるオーガはあの子にとっては自分よりも遅いだけのカモだけど、トロールとなると話が変わる。
トロールは小さな個体でも2m以上の巨躯を持ち、ぶくぶくと蓄えたその脂肪のせいで剣の通りが悪い。
私との修行の後、かなりの業物に武器を代えたみたいだけど、あの巨体を両断するだけの腕力はあの子には無いだろう。
ならば高威力の魔法での攻撃はどうかと考えるだろうが、今の状況では冒険者たちを巻き込みかねないために使えない。
その上、奴らの膂力はオーガ以上だ。一撃でももらえば即致命傷になりかねない。……まぁ、トロールの鈍重な攻撃があの子に当たるとは到底思えないけど。
つまりはどちらも決定打に欠けると言う事だ。
「さて、あの子はどうするのかしら?」
私は愛弟子の成長に目を離せないでいた。
俺は先ほど悲鳴が聞こえた方を見て思わず毒づく。
視線の先では10体ものトロールが冒険者たちをなぎ倒している姿が見える。まだ、死んだわけでは無いだろうが、あのまま放っておいたら死ぬ事は分かりきっている。
俺は急いで彼らの救援に向かうが、このままでは間に合わない。確実に何人かの犠牲が出てしまうだろう。
別段、彼らと話をした事がある訳でも、顔見知りという訳でも無い。
ただ、街のためにと同じ防衛戦に参加した冒険者が目の前で死んで行くのを見るだけというのは、寝覚めがかなり悪そうだ。
俺は再び毒づきそうになるが、ララの言葉がそれを遮った。
「ハヅキ様!私が先行します!」
「!?……分かった!」
ララは俺の言葉と同時に『影渡り』を使用して闇に消えた。
元々、ララの使う影渡りという影魔法は『自分と繋がっている影の中』を自由に移動出来るというものだ。
これだけでもとんでも無いチート魔法だが、それに加えてこの魔法は陽の落ちた夜でも使う事が出来る。
それも、その場合はどうやら『自分と繋がっている影の中』という制限がなくなるらしい。
おそらく、暗闇自体が影という判定になるんだろう。……とんだチート魔法だよ。
そして都合の良い事に今の時間は夜だ。
早朝に依頼を受けて森へと着いたのが昼前。そこから探索をしてゲルバルドを討伐したのが昼過ぎ。さらにそこから約8時間もの時間が経過しているのだ。
そりゃ日も暮れるというものだ。
つまり何が言いたいかというと、ここからはララtueeeの時間です。
しかし夜にめっぽう強いララかぁ。……ん?夜に無双するエルフの少女?……はっ!閃いた!
……っと、バカな事を考えている場合じゃ無いな。俺も急いでララに加勢しないと。
俺は魔力を足に集中させて爆発的な加速をしてトロールたちとの距離を詰める。
そしてその間にララは既に1体のトロールを仕留めた様だ。
他のトロールを後ろに従え、無骨な棍棒を手に、冒険者たちに避けようの無い死を与えるはずだった1体のトロールはその四肢を失い、なす術も無く血に伏せる。
ララが助けに入った事で冒険者たちの命が失われるという事は無かったが、まだ混乱しているらしい。
「うわぁぁぁ………ぁ?あれ?ど、どういう事だ?」
「ひっ!トロールが倒れてる!?な、なんで……。」
「……!?まさかあんたが!?」
「……ハヅキ様のご指示により、私があの者共の相手をします。早く後方へお退がり下さい。」
「そ、そんな無茶だ!君も早く逃げな……」
『オガァァァァアアア!!!』
『……!?』
仲間が倒された事で怒り狂っているのだろう。残り9体のトロールがその猛りに身を任せ、次々とララに襲いかかる。
正面から、右から、背後からと猛攻を続けるトロールたちだが、ララはまるで予め攻撃の来る場所が分かっているかのように身を躱し、すれ違いざまに斬りつけていく。
ただ、ララの攻撃はトロールの分厚い脂肪に遮られて深手には至っていないようだ。……どういう事だ?さっきは問題なく倒してたよな?
ララの攻撃に違和感を持ちつつも俺も彼らの元へと辿り着いた。
「おい!何をしてる!早く逃げろ!」
「だ、だがあの嬢ちゃんが!」
「俺たちなら問題ない!早く行け!足手まといだ!」
「……くっ!すまねぇ!」
リーダー格と思しき男が悔しそうに顔を歪め俺たちに一言謝ってから、他の冒険者と共に後方へと退却を始めた。
どうやら彼は俺の言葉を撤退させるための方便だと思ったらしい。……本音だとは言えないな。
俺は彼らが十分に離れた事を確認してララの元へと駆ける。その途中にララが斬り倒したトロールが視界に入り、先ほど感じた違和感の正体に気がついた。
なるほど……。流石は俺の嫁(予定)だ。あの一瞬でここまで考えているとは……。
俺は最も近くにいたトロールの四肢をその関節部分で斬り飛ばし、9体のうち1体を沈める。
ララも俺が来た事に気が付いたのだろう。先ほどまでの挑発しているかのような攻撃から一転。
俺と同じように関節部分を斬り飛ばしてまた1体のトロールを沈めて此方へと合流する。
「悪い。遅れた。」
「いえ、ハヅキ様が先ほどの冒険者を遠ざけて頂けたので私も動きやすかったです。」
「それを言うなら俺の方だ。ララが囮になってくれていたおかげで俺もやり易かったよ。」
「恐縮です。」
トロールはそのデカイ身体をそれは必要なのか?と思う程の脂肪で包んでいる。
その脂肪は分厚く、刃を通すのはかなりの技術と膂力が必要になる事は目に見えて分かる。
ララの技術は疑うまでもない。だが、その力はトロールに比べて非力だと言わざるを得ないだろうし、武器の相性も悪いだろう。
ララの武器ではトロールに対して刃が小さいからだ。
普通ならばその脂肪に阻まれて四肢を断ち斬る事は適わないだろうが、彼女は最初にそれをやって見せている。
その答えは関節だ。
脂肪に包まれていると言ってもトロールも人型をした魔物だ。手足を動かすために関節があり、その関節部分だけは動きを阻害しないために脂肪も薄い。ララはそこを突いた。
関節には脂肪が少ない代わりに硬い骨があるが、腕力よりも技術を必要とする分、彼女にとってはそちらの方が斬り易い。
それが出来るのに先程までわざと致命傷を避けるような攻撃をしていたのは偏にトロールたちのヘイトを集中させるためだ。
その方が冒険者たちの生存率が上がるとララは判断したんだ。あの一瞬で……。もう一度言う、流石は俺の嫁(予定)だ。
「……彼らの避難は終わったし、魔法で殲滅した方がいいかな?」
「そうですね、この程度の相手に一々構って入られませんしいいと思います。」
俺としてはその辺に落ちてる木の棒を杖に見立てて、トロールの鼻に突っ込んで1ネタやりたい気分ではあるんだが……。いや、他の冒険者たちは必死に戦ってるんだし、流石に不謹慎か。
俺は次にトロールに会い見えた時には絶対に成し遂げてやると心に誓い、ララと一緒に魔法で最初に斬った奴らも含めてトロールたちを殲滅していった。
ご視聴ありがとうございます。
ブクマ、評価ありがとうございます!
 




