87話 開戦
今回の話からVS魔物群勢との戦いが始まります。
正直、話の導入部分と言いますか、入りの部分にかなり苦労しました。
この話で今回の戦闘…まぁ戦争と言い換えてもいいと思いますが、それに対する主人公のスタンスというか考えが分かると思います。
では、本編をどうぞ。
87話 開戦
「ーーー風の導きに従いたまえ!ストームドラゴン!!」
俺から少し離れた所でケルヴィンが詠唱を終えて魔法名を叫ぶと、荒れ狂う様な竜巻がまるでドラゴン(西洋風なドラゴンではなくて、シェ◯ロンみたいな感じ)の様に変態して魔物を巻き込み蹂躙していく。
「ーーー我が主人に最高の勝利を捧げよ。鎌鼬。」
そして、ララが俺の隣で詠唱を終えて魔法名を唱えると、巨大な竜巻が4つも出来て魔物を巻き込みながら移動する。竜巻は魔物を空へ持ち上げる様に吹き飛ばしていて、おそらく竜巻の中も鎌鼬が渦巻いているのだろう。
切り刻まれた魔物の血肉がまるで雨の様になって降っている。……汚ねぇ雨だ。
魔物の軍勢と戦闘が開始して数分。俺たちは街の外壁の上から魔法や弓なんかを撃って攻撃している。
攻撃はとても順調で、魔物の数は既に1万を切っただろう。初撃でこれだ。このままいけば半数以下まで押し込めるかもしれない。
さて、俺たちは今街の外壁の上に立ち魔物の軍勢に対して攻撃している。どうして俺たちがそんなところに立ち、攻撃をしているのかと言うとそれがユーリの言う作戦だからだ。
簡単に作戦を説明すると、まず冒険者を3つの部隊に分ける。
部隊は其々、前線部隊、遠距離部隊、支援部隊となっており、名前の通り役割が決まっている。
前線部隊はそのままの意味だ。ある程度、敵を間引いたら前に出て魔物が街へ近づかない様に倒していく。
支援部隊は負傷した冒険者を治療したりする部隊で、神官などのヒーラーや戦闘させるには心配の残る新人冒険者たちで構成されている。
新人たちにはポーションやMPポーションを運搬、配給してもらうそうだ。
最後に遠距離部隊。俺やララ、ケルヴィンはこの部隊に所属している。
この部隊の役割は先程言った魔物の間引きだ。
攻撃が届く範囲になれば攻撃して、前線部隊と魔物たちが衝突する前に敵の数を1体でも多く減らすことが俺たちの役割だ。
そして、前線部隊が魔物と交戦を始めると俺たちも余力の有る者は前線へと出て加勢する。
後方から攻撃を続けない理由は味方へ誤射する可能性があるからだ。……というか今のこの惨状を前にしたら誤射もクソも無いだろう。確実に巻き込まれる。
其々の部隊人数は支援が約200、遠距離が約400、残り約2400が前線だ。
最初に言った外壁の上に立っているというのは、この人数が理由だ。
400人もの人間が同時に待機出来て尚且つ、敵を発見しやすい高い場所となるとここしかない。
つまり作戦は、魔法という名の大量殺戮兵器で魔物を虐殺→白兵戦で残党狩り、という事だ。いや、正確にはそれが理想と言うべきか?
ちなみに今回の防衛戦の報酬は参加で一人金貨5枚だそうだ。
かなり少ない様に感じるが、討伐した魔物の討伐報酬を2倍で支払うそうで、前線と後方のリスクの違いをこれで区別しているそうだ。
確かに危険の多い前線と直接の危険に晒される可能性の低い後方の報酬が同じなら、前線組は不満しか出ないだろうな。
幸いギルドの判断は正しかったらしく、今の所不満は出ていないらしい。
俺は一旦思考を打ち切り、目の前の戦局に目を向ける。
ララやケルヴィンが魔法を放った辺りはぽっかりと穴が空いた様に魔物はいないが、奥の方から依然として魔物の軍勢はやってきている。
「……そろそろ俺も参加するかな。」
俺は無詠唱で雷魔法を展開していく。
雷魔法を選んだ理由は消去法で、この後の戦闘の事を考えたら地形が変わりそうな魔法は使えないと思ったからだ。
例えば、火魔法は地面が熱くなりすぎて碌に動けなくなるだろうし、水魔法や氷魔法は地面がぬかるんだり、凍ったりして足がとられそうだ。
土魔法に関しては論外だろう。確実に地形が変わって戦い難くなる。後で直すのも手だが、それも手間だ。
そうなると残るのは風、闇、雷魔法なんだが、風魔法はララもケルヴィンも使っているし、同じ魔法ばかりだと効果が薄れそうなので除外。
残った二つで殺傷能力がより高そうなのを選ぶと雷魔法という事になる。
……決して厨二心に響いたとかじゃないぞ!いや、厨二力が高いのは闇魔法の方か?……変わんねぇわ。
ちなみに、ララは普段の魔物の討伐では無詠唱で魔法を使っているが、今回は詠唱をしている。なんでも大規模の魔法を使うには詠唱をしないと安定しないそうだ。
…え?俺?……ほらあれだよ。多分詠唱が無くても大丈夫だろうし、小っ恥ずかしい詠唱なんて出来ないって。流石にこの歳になって黒棺はちょっと……ってまた話が逸れた。
俺は雷を雨の様に降らせるイメージで魔法を放つ。
すると、空から連続して光が走ったかと思うと、後を追う様に轟音が辺りに鳴り響き大気を震わせる。今ので大体500〜600は逝ったかな?……あっ、まだ雷が落ちてら。
何も知らない人が見れば光が落ちてきたようにしか見えないだろう。
俺の魔法を見たからなんだろうが、ケルヴィンはすっかり興奮しきった様子で自身の持ち場から此方へと駆け寄ってくる。
……え?いやいやいや!持ち場に帰れよ!
「うわぁお!すっごい魔法を使うねぇ!流石ハヅキくん!」
「そんな事言ってもおかわりしか出ないですよ?」
「いやいやいや!追加であのクラスの魔法をぶっ放してくれるならもっと煽てちゃうよ!」
「……いや、自分の持ち場に戻って下さいよ。」
「ははは!頼もしいねぇ!じゃこっちは任せたよ!」
ケルヴィンはギルド職員さんにしょっ引かれるようにして自分の持ち場に戻って行った。一体何をしに来たんだよ……。
さっきの演説ではギルマスの威厳?があるように感じたんだがあれは錯覚だったんだろうか……。
どう見ても、カ◯ミに耳を引っ張られるタ◯シにしか見えない……。
「流石です、ハヅキ様。MPポーションはお使いになられますか?」
「ありがとう、ララ。でもMPにはかなり余裕があるから大丈夫。」
「かしこまりました。」
ケルヴィンが連れて行かれる様子を横目に見ていると、ララにMPポーションを勧められるが断った。賢者の器のおかげでMPにはかなり余裕がある。使用MP1/10はやっぱりチート能力だな。
ちなみにMPポーションの回復量は固定ではなく割合だ。今回支給されているものなら1瓶(約150ml)で1/3程回復する。(作戦前に飲んで確認した)
物によっては半分回復したり、全快するものもあるらしいが高い。どれくらい高いかと言うと、それを支給してしまえば防衛が出来ても、街を立て直せなくなるくらいの赤字になってしまうくらいに高い。
まぁ、現状はそれで間に合っているし大丈夫だろう。
「んじゃあ、第二弾ごー。」
俺は今度は雷を竜の様に変態させて魔物の群れに突っ込ませて暴れさせる。
先ほどケルヴィンがやっていた事だが、この方がより効率が良さそうだったからだ。
俺の目論見通り、雷の竜は次々と魔物の群れへと渡り行った先々で蹂躙を繰り返す。と言うかそうなる様に俺が操っている。
「……うーん、やっぱりこういった大規模魔法の練習もした方が良かったかな?でも、こういった機会でもないと出来る事でもないしなぁ。……この街の人には悪いけど渡りに船と言うかなんと言うか……。」
「……もしかしてハヅキ様はこうなる事を予測して魔族討伐の依頼をお受けになったのですか?」
雷の竜を操りながら独り言を呟いた俺にララが律儀に首を傾げながら反応をする。
うーん、献身的と言うか、そういう姿も可愛いと言うか。……多分こういうところに惚れたんだろうなぁ。
俺は追加で雷の竜を出しながらララの質問に答える。
「んー、そこまで読みきっていた訳じゃないよ。ただ、今回急に大量の魔物が現れたでしょ?そこに転移魔法で派手に帰って来ればこういった頼み事はされると思っていたんだよね。」
「……そうなる様に仕向けたという事ですか?」
「そこまでじゃないけどさ……。ほら、俺は小規模な魔法ならきちんと威力を制御できる様になったでしょ?」
「はい。ものの数分で熟知されたのは流石でした。」
「ん、ありがとう。だからこういった大規模の魔法の威力をきちんと把握出来た方がいいと思ってたんだ。だけど、普通に練習は出来ない。それなら練習するための大義名分を得ようと思ったんだよ。だから魔物の大量発生が渡りに船?って事。」
「流石はハヅキ様ですね。そこまでお考えだったとは。」
まぁ、実際は俺が考えていたよりもずっといい結果になりそうではあるけどね。
俺はこうして大規模の魔法を練習しておけば、万が一どこかの国と敵対する事になっても魔法をぶっぱして他の国に逃げ込む時間は作れそうだと思っていたんだ。
だけど、ケルヴィンが今回の騒動の報酬として俺たちの身の保障をしてくれるっていうしラッキーだった……かな?まぁ、保険はいくつあっても困らないからね。
……元々こんな事に巻き込まれなければ、こんなに頭を使って色々考えなくても済んだという事には気がつかなかった事にしておこう。……しておこう!
俺とララは尚もおしゃべりをしながら魔法を放ち、魔物達をぎゃくさ……もとい、間引きしていく。
途中、MPが尽きたのかララはMPポーションを飲んでいたが、俺は飲む事が無かった。
元のMPが多い上に消費MPも少ないからなぁ。まぁ、白兵戦に参加する前にMPを全快させておこう。
他の冒険者達が殺気を振り撒きながら殺伐と魔物を狩っているのに対し、俺たち二人の空気はのんびりとしていた。
片手間で魔物を蹂躙しながらのんびりおしゃべり……シュールだなぁ。
ご視聴ありがとうございます。
ブクマ、評価ありがとうございます!




