63話 メイドオブメイドへの道1
今回は少し長いです。
今話から基本的にヒロイン視点になります
なので主人公が出て来ません(今話は除く)
63話 メイドオブメイドへの道1
師匠の右回し蹴りがララの左半身を捉える。しかしララは前に出て受けているためそこまでの衝撃は無い。
彼女はお返しにと右手で師匠の鳩尾目掛けて掌底を打つ。
彼女は何度も師匠から受けたため知っている。ここに攻撃を受けると一瞬呼吸が止まって身体が動かなくなるのだ。戦闘中に一瞬とはいえ身体が硬直する事が命取りになることは言うまでも無い。その事もからこの攻撃の有用性が窺える。
しかし、師匠がそんなフェイントもかけていない様な攻撃を通すはずもなく、左肘で簡単に止めた。
それどころか左腕を蛇の様に巻き付けてきてララの右腕を絡め取ろうとする。
(不味い!このままでは腕を取られて投げられる。)
そう判断したララは咄嗟に腕を引き、バックステップをして距離を取った。
距離を取ったのは一度仕切り直すためだったが、これが今回の敗着だった。
「甘いっ!」
「……かはっ!」
師匠はララが距離を取ることを読んでいる様に、彼女のバックステップと同時に距離を詰めた。
そして詰めるのと同時に意趣返しの様にララの鳩尾に掌底を打った。
ララの呼吸が一瞬止まり次に意識を刈り取られる。
「うーん、体術はまだまだね。」
薄れていく意識の中、ララの中では師匠の言葉と彼女のご主人様への想いだけが反芻する。
ーーー3日前ーーー
私、ラナンキュラスには悩みがあります。
私のご主人様、ハヅキ・アマミヤ様はとてもお優しく、とてもお強いです。死にかけだった私を救ってくださり、お一人でゴブリン・ハイロードという最上位種を討伐出来る程、優しくて強いです。
そんなご主人様に私が好意を抱くのに時間は掛かりませんでした。ご主人様にずっとご一緒したい。そして許されるのなら隣に立って歩んで生きたい。日に日にご主人様への想いは強くなっていきます。
ですが、今の私にはその様な資格なんてありません。
ゴブリン・ハイロードとの戦いの際、私は役に立たないどころか、ご主人様の足を引っ張ってしまいました。
ご主人様は優しいです。だからその優しさに溺れるわけにはいきません。
ご主人様は強いです。だから守られるだけではいけません。
私に色々なものを下さるご主人様に少しでも恩をお返ししたい。そう思うのですが私では力が足りず何も返せずにいます。
夜にしても、ご主人様はお優しいため夜伽を命じる事はしません。そのためそちらで満足していただく事すら出来ないのです。私としては覚悟はできている……と言うより早くご主人様のご寵愛を頂きたいのですが……。
話が逸れました。ともあれ私の悩みは最愛のご主人様に何もお返しができていない事なのです。
ですがそんな私にある転機が訪れました。
ご主人様がリカルデのギルドマスターのボルチーニ様からお預かりした手紙をこの街のギルドマスターにお渡ししている時です。
「こんにちは♪」
その声は女性のものでした。
とても澄んだ綺麗な声でその美貌もさぞ美しいのでは?と思わせる様なものですが、その姿は真っ黒なローブに隠されて顔を確認する事も出来ません。
不審には思いますが、悪意を感じられませんし、リカルデの時のようにご主人様に後々ご迷惑をかけるわけにはいかないので、最低限挨拶だけ返しておきます。
「……はい、こんにちは。」
「ふふふ。そんなに警戒しなくても大丈夫よ。私たち同族でしょ?」
そう言った彼女は目深に被ったフードの中をちらりと私に見せてくれました。
エルフだ。でも肌が黒い。ダークエルフなのでしょうか?
「ふふふ。ダークエルフだと思った?私こう見えても普通のエルフなのよ。そうねー、さっくりいえばこの肌はあなたの目とそう変わらないわよ。」
その一言で全て理解できた。この人も私と同じように村で忌み嫌われた存在だったのでしょう。
「あっ、まだ名前を言っていなかったわね。改めて、私の名前はオフィーリアよ。フィールとでも読んで頂戴、ラナンキュラスちゃん♪」
「……え?」
なぜ目の前の彼女が私の名前を知っているか疑問ではありますが、今はそんな事よりも重大な事があります。今、彼女は『オフィーリア』と名乗りました。
オフィーリア。冒険者で、いえこの世界にすむ者で彼女の名前を知らない人はおそらくいないでしょう。
最初のSランク冒険者にして、その昔勇者様と共に行動し魔王を打ち倒した勇者様のご伴侶。人相が一切わから無いことと、彼女の戦闘スタイルから『死神の足音』と呼ばれる正真正銘の人外。
それがこの世界で最も知られているだろう『オフィーリア』と言う名前なのです。
普通なら嘘だと疑うところですが、どこか本当のことのように感じました。
「あれ?ラナンキュラスちゃんは疑わないの?いつもなら嘘だ!って言われるんだけど。」
「……いえ。正直疑ったところで本当の答えは私には分かりませんし、本当にオフィーリア様なら刃向かった時点で私の命はないですから。」
「ふふふ。そんな事しないわよ。でも本当に賢いわね。」
「……オフィーリア様ともあろうお方が一体どういったご用でしょうか?」
正直そのような方に話しかけられるような覚えはありませんし、関わりたいとも思いません。
彼女は私の言葉に口をとがらせ少し不満げに言いました。
「んー、フィーラでいいって言ったんだけどなー。まぁそれは追々として、今日はあなたに話があって来ました♪」
「話……ですか。」
「そう身構えないでよ。ただ同族の子と話がしたいってだけだから。」
そう言って彼女が話をまくし立てていく。彼女の簡単な生まれ、待遇、迫害あるあるトーク、オフィーリアセレクション主人に喜んでいただける夜伽ベスト5などなど様々でした。
彼女の話はどこか惹きつける何かがあり、話を聞いていくうちに私の警戒心は薄れて行きました。最後の方に話になった夜伽ベスト5なんかは思わず身を乗り出して聞いてしまう程でした。……恥ずかしい。
そしてかなり打ち解けて来て私からも話を振るようになった時、ふと思い出したように彼女は呟いた。
「見てたわよ。ゴブリン・ハイロード戦♪」
「……!?」
私は思わず身体をびくりと震わせた。見ていた?それは一体どう言う事?
「ふふふ。そんなに警戒しなくてもそのままの意味よ。あなたたちを初めて見たのは皇国なのよ。面白そうだたからそのまま観察していたと言う訳。気を悪くしたらごめんなさいね。さすがに最上位種ともなる魔物に人の肉の味を覚えさせるわけにはいかなかったから、万が一の時のために見ていたのよ。私が手を出す必要は無かったわけだけど。」
「……見ていたと言う理由は分かりました。ですが何故それを言う必要が?」
実際にこうして私は彼女に対して懐疑心を抱いている。何か企んでいるならさっきみたいに私を油断させた方が都合がいいのでは?
「それはあなたが悩んでいるんじゃないかと思ったからよ。……ご主人様の力になりたくても中々なれない。そんな苦しみは私にも痛いほど分かるから。強くなりたいんでしょ?自分のご主人様を守れるくらいに。」
「……。」
「だからあなたに力をつけてあげようと思ってね。話しかけた理由はそれだけよ。」
「どうしてそこまでして私に気をかけるんですか?」
彼女は一瞬視線を空中にさ迷わせ、優しく微笑みながら口を開いた。
「それはあなたが私に似ているからかしら。それに私はあの人と必ず果たすと約束した事がある。だからかしら。」
「……約束ですか。」
「えぇ。この話を信じるのも嘘だと思うのもあなたの自由よ。ただ、私はあなたの力になりたい。それだけは覚えておいてほしいわね。」
「……。」
普通ならこのような話を信じるなんて無理ですが、彼女の赤い瞳は嘘を言っていない。何故かそう感じました。
「もし、この話を受けるつもりがあるなら明日の朝にもう一度ここに来て頂戴、一人でね。この事はあなたのご主人様に相談してもいいし、しなくてもいい。ただ、私のオススメは話さずに来たほうがサプライズ感があっていいと思うわ♪そうねー、期間は2週間かしら?」
そう悪戯っぽく笑っていた彼女は何かに気がついたようで、再びフードを目深にかぶりこの場を離れようとした。
「あら、もう時間が来たわね。」
「え?」
彼女が呟くのと同時にご主人様の声が聞こえた。
「ララー、お待たせ〜。」
「じゃあ、明日ここでね?楽しみにしてるわ、ラナンキュラスちゃん♪」(ぼそっ)
彼女が去り際に小さくそう呟いた。まずはご主人様をお迎えしないと。
「お帰りなさいませ、ご主人様。」
正直、私は迷っていました。そんなうまい話があるはずがないという反面、ご主人様のお力になれるかもしれないという期待感で気持ちが揺れていました。
そして彼女と話をして、改めてご主人様の声を聞きお顔を見た事で私の中にあったモヤモヤは綺麗に無くなりました。
『オフィーリア様の元で修行する』
それが私の出した答えでした。
そのためには2週間程ご主人様の元を離れなければならない。その理由を説明するかギリギリまで悩みましたが、心配を掛けたくない為、ご主人様には内緒にする事にしました。……結局ご主人様に心配を掛けてしまっているのですが……。
ご主人様はお優しいので私が理由を説明せずともお許し頂けましたが、そのご主人様の優しさに漬け込んでいる様でとても胸が苦しかったです。
必ず、必ず帰って来たらお話ししますので、どうかこの愚行をお許し下さい。
私は翌朝、オフィーリア様との待ち合わせに向かいました。
待ち合わせ場所にはすでにオフィーリア様がいて、壁に靠れる様にして私を待っていました。
「……!?来たのね。分かったわ。あなたの覚悟しかと受け取りました。あなたがあなたの主人と一緒に居られる様に私の持っているものを叩き込みます。付いて来て。」
私はオフィーリア様に連れられるようにして一軒の家まで歩きました。
その家はごくごく普通の家でしたが、なんと地下がありました。それもかなりの広さで、確実に周りの家の地下も使っている様な広さでした。……これはいいのでしょうか?
地下の中央に来たところでオフィーリア様は私に向き直りました。
「まずは、今のあなたの細かい実力が知りたいわ。さっそくだけれども始めましょうか。」
「はい、オフィーリア様。」
オフィーリア様は私が名前を様付けで呼ぶと顔をしかめて首を振りました。
「私としてはフィーラと呼んで欲しいのだけれど……。」
「そんな、私は奴隷の身分です。その様な真似はできません。」
「んー、それなら師匠と呼びなさい。あなたは私に師事するのだしこれならいいでしょう?でないと返事しないわよ?」
さすがに愛称で呼ぶ事はどこか憚れるところがありましたが、確かにオフィーリア様の言う通り私は師事する立場なので師匠とお呼びする事にしました。
「分かりました、師匠。」
「うん♪よろしい♪では改めて始めましょうか♪私を殺す気でかかって来なさい。でないと……死ぬわよ♪」
師匠は笑顔で何でも無いという風に言いましたが、その言葉に込められた圧力は尋常ではなく、私はブルリと震えた。
「行きます!」
私はご主人様への想いを胸に怖れに立ち向かい、駆けた。
ご視聴ありがとうございました。
ブクマ、評価ありがとうございます!




