20話 黒いアゲハ蝶
TRPGをやるときに思うんですが、一番楽しいロールは三下ロールだと思うんですよね。
……何が言いたかと言うと早くかませ犬を出したいw
10月30日に改稿してます
20話 黒いアゲハ蝶
最初に沈黙を破ったのはグレイヌだった。
彼は何も言わずに店の奥へと入っていった。件の『妖刀』を取りに行ったのだろう。
てかなんか言ってよ、俺が滑ったみたいじゃん。
数分してグレイヌは黒塗りの刀を持って帰ってきた。
その刀は柄、鍔、鞘、全てが黒い。唯一、鞘の口の方に銀色の蝶のような模様が浮かんでいるが、光を一切反射しないその暗さが不気味さを物語っている。ぱっと見ではただの古ぼけた刀にしか見えないのがまた怖い。
「俺たち刀匠は刀を鍛える時『折れず曲がらず』を信条に打つ。こいつはその点においてだけはどの刀よりも優れているだろうが、こいつは持ち主を殺す。」
「随分と物騒な物言いですね……刀が飛んでくるんですか?」
「茶化すんじゃねぇよ。殺すってのは大げさかもしれねぇがそれぐらいやばい奴ってこった。」
まぁそうでないと妖刀なんて呼ばれないだろうな。魔眼で見た感じレア度8とか出てるし。
「こいつの持ち主全ての話をすれば日が暮れちまうが、有名なので言えば、家が燃えただとか、買った日に暗殺者に狙われただとか、不治の病気にかかっただとか話題に事かかねぇよ。」
「グレイヌさんは大丈夫なんですか?」
「俺はこいつを持ち歩いてるわけじゃねぇからな。普段は納屋に投げっぱなしだ。」
「ふーん、触っても?」
グレイヌは『なんでそんなに危機感がないかね』とぼやいていたが俺には問題がないことがわかる。理由は御察しの通り魔眼だ。
名称:黒刀、銘『黒揚羽』
分類:武器、刀
レア度:8
付与:<不壊><真名>
備考:人の手で作ることのできる最高の刀。かつて鬼神と謳われた刀匠がその一生をかけて鍛えた一振り。刀匠は鍛え上げた数日後に誰にもこの刀の存在を教えることなく生き絶えた。名を知らぬ者には災いを、真名を語る者には栄光を。
<不壊>……壊れない。
<真名>……茎に刻まれた銘を知らぬ者に不幸をもたらす。
とまぁ、魔眼でこの刀の銘もしっかりとわかっているため問題がないのだ。
まぁ<不壊>なんていうぶっ壊れ性能の力持ってるんだからデメリットがないと釣り合わないんだけどさ、銘を知っていれば問題ないってのはダメだろ。普通は銘なんて知ってて当然だし(でないと売りようがないため)、でなくとも柄をバラして茎を見れば……ってそういうことか。
この刀には<不壊>が付いているため銘を調べようにも柄すら壊せないので調べようがなかったのだ。だから持ち主は今まで不幸が降り注いでいたと。
「まぁ、持ってきたのは俺だしな。ほれ、意外に重いから気をつけろよ。」
俺が刀について考察しているとグレイヌが刀を渡してきた。
俺は受け取った刀の感触を確かめてみるが驚くほどしっくりくる。確かに重たいが手首に程よく返ってくる手応えはどこか心地いい。
黒革を編み込まれた柄はつや消しをされている。鍔と鞘は金属製だが同じくつや消しをされていてそれらが光を映すことはない。
俺は左手で刀を持ち、抜く。
露わになった刀身は大体二尺四寸、反りが浅いことから打刀と思われるがその刀身は一言、異常だ。
なぜなら俺が持つ刀には刃文や沸が見られないのだ。
本来、刀は心鉄と皮鉄を折り返して作ることから焼き入れの際に刃文や沸などが出る。特に刃文は刀匠によってその形状は違うものの必ず出る。それはとても美しいので刀が美術品たり得る所以だろうが俺の持つ刀にはそれが見られない。いや、正確には見えずらかったと言った方が正しい。
俺は刃を返して目の高さまで持ってきてようやく刃文を見た。それは荒れ狂う様な互の目だった。
俺は一目見たときに勘違いしたのには理由がある。
おそらくだがこの刀は心鉄と皮鉄が同じなのだろう。そのせいか地も刃もどちらも塗りつぶしたように真っ黒だ。刃文すら目立たないようにうっすらとしか見られない。見ようと思わなければ見えないほどに。
なるほどな。
俺は長く息を吐きその刀身を鞘へと戻す。
「こいつが妖刀と呼ばれる理由がわかりましたよ。」
「一回見ただけでそこまで解る奴もそういないんだがな。」
グレイヌはどこか苦笑いしたように俺に顔を向ける。
まぁ、この知識は俺のものなんだが俺のものじゃないしな?てか、俺は何も言ってないと思うんだが口に出てたか?意味がわからん。
ともあれ、俺はこの刀をとても気に入っていた。……決して厨二心に響いたとかじゃないぞ。
「グレイヌさん、こいつはいくらですか?」
「言ったろ、そいつは人に勧めるもんじゃねぇ。売っていいもんじゃなぇんだ。」
「それは分かります。ですが俺はこいつが気に入りました。」
「だがなぁ……。」
グレイヌは俺の目を見てしばらく黙っていたが、やがてふぅとため息をついて折れた。
「わかったよ、だがそいつは売りもんじゃねぇ。だから金は受け取れねぇ、持っていきな。」
「それはできないですよ。これほどのものをタダでもらうわけには……。」
「だから言ったろ、売りもんじゃねぇって。妖刀なんざ誰も気味悪がってもたねぇしな。それにそいつもハヅキのことを気に入ったみたいだし、ちょうどいいだろ。」
借りを作るみたいであまり気乗りしないが貰えるというなら貰っておこうか。
「分かりました、ありがたく頂きます。ところでさっき気になることを言っていたんですが。」
「ん?なんだ?」
「いえ、『そいつもハヅキのことを気に入ったみたい』ってまるでこいつと会話してるみたいじゃないですか。」
確かにグレイヌはそう言った。物の気持ちがわかるなんてそんな馬鹿な……。
「ん?なんだ?ハヅキは知らずにうちへ来たのか?俺は物と会話ってか気持ちがわかるんだよ。あぁ、なんでかってのは聞くなよ。そういうスキルなんだ。俺にも原理はわからねぇ。結構俺も有名になったと思ったんだがな。」
……サ◯スペで言う物神かな?
「分かりました。あと俺はつい最近になって村から出て来たのでこの辺のことはいまいち分かってないんですよ。」
俺の言葉にグレイヌはそんなもんかと肩をすくめてから口を開いた。
「ところでハヅキ、そいつの銘はどうするんだ?そいつを鍛えた奴は分からねぇし、銘を見ようにも柄はバラせねぇしで正しい銘は分からん。なんだったら新しくつけたらどうだ?」
「そうですね、じゃあこいつの銘は『黒揚羽』で。」
「黒揚羽かいい名じゃねぇか。鞘のそれからとったのか?」
鞘には述べた通り蝶の模様が描かれている。魔眼で調べたなんて言えないので無難に返しておこう。
因みに、俺が魔眼で調べた通り<鑑定>とかで調べれば銘もわかるのではと思うだろうが、黒揚羽の持つ<真名>の効果のせいでかなり高いレベルでないと看破できないみたいだ。
「えぇ、そうです。」
グレイヌは豪快に笑い、俺に礼を言った。礼を言うのは俺の方なんだが……。
貰った黒揚羽を腰に吊るそうとして気づいたが俺が今履いているパンツはそういった場所がない。なので剣帯がないかグレイヌに聞いたところ黒塗りのベルトのようなものを持って来てくれた。
曰く、刀に合わせてこれを選んだそうだ。……おかげで全身黒づくめだよ。
剣帯はベルトみたく長さの調節ができて、獲物と繋ぐカラナビみたいな金具はワンタッチで付け外しができるようになっていた。水に落ちた時すぐに外せないと命に関わるからだと言っていた。確かに便利だ。
「様になってるじゃねえか。」
「ありがとうございます。」
「俺はもうこの国では商売はしねぇがもし連合王国に来ることがあったら王都にきな。サービスしてやるよ。」
やはり最初に言っていたことは聞き間違いではなかったらしい。
「……この国を出るんですか。」
「あぁ、この国は俺たちにはキツくてな。まぁ、ここに来る用事のついでに数年の間ここでも販売するってだけだったし、元の家はそっちにあるんだよ。だから出て行くってよりは帰るって話だな。女房も向こうにいるしな。」
出稼ぎみたいなもんかな?
「分かりました。俺たちも近いうちにこの国を出るつもりなんです。」
「ん?ハヅキは見たところ人族だろ?この国は……。」
グレイヌは不思議そうに俺を見る。そう、この国は人族至上主義国なので一応人族の俺に害は少ないのだが……。
まぁ、彼になら大丈夫だろう。そう思ってララをちらりと見る。
するとララは俺の言いたいことを理解したみたいでコクリと頷きずっと被っていたフードをとってその顔を露わにした。
「……なるほどな、そう言うことか。嬢ちゃんはエルフだったのか。」
「えぇ、大切な仲間が不当な扱いを受けるのは耐えられないので、準備が整い次第この国から出ようと思ってたんですよ。」
俺の言葉に納得したと言わんばかりに深く頷いたグレイヌはいいことを聞いたと言わんばかりに俺の肩を叩いた。
「ガハハ、やっぱお前さんは変わってるな。……嬢ちゃんは奴隷だろう?だがハヅキはそんな扱いをしてねぇ。おもしれぇよ。」
「ご主人様はとてもお優しいのです。そのお心は計り知れませんから。」
「ガハハ、そうかそうか。連合王国に来たときにゃ嬢ちゃんの武器も作ってやるよ。」
一体何がグレイヌの琴線に触れたのか知らないが今までで一番上機嫌だ。変わった人という評判は伊達ではないらしい。
ララがしっかりとフードをかぶったところで俺たちは店を出てギルドへ向かう。
外はもう昼前だったが薬草の採取ぐらいなら間に合うだろう。
俺たちは急ぎ足でギルドに向かった。
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