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最近の人類は魔王をナメている  作者: 木口なん
シルフィン共和国編

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125/125

125話

 セイは冷たい牢に閉じ込められ、裁きの時を待たされていた。

 勿論、全く心当たりのない罪に対する裁きである。



「時間だ。出ろ」



 目隠しされ、手錠をかけられ、縄に繋がれて歩かされる。魔力制御を阻害する手錠のため、普通は抵抗もできない。ただセイの場合は別だ。無属性魔術で魔素を操れば、機能を壊すことも容易い。

 ただ、それはしない。



(精霊に近い気配がする。こいつらが隷属させた精霊……?)



 少しでも叛意を見せれば、即座に殺しに来る。そんな気配が漂っているのだ。エルフたちは精霊を従え、強力な魔法を操る。無属性を使って無効化したとしても勝てる気がしない。



「下手な真似はするな。劣等種など簡単に殺せるのだからな」



 抵抗することを考えていたからだろうか。そんな風に釘を刺されてしまう。



「まぁ未来は変わらんがな。どうせ死刑だ」

「おい、無駄口は叩くな」



 下された判決は、死刑。

 その罪状とは国家機密級の研究を盗み出したこと。外国人による諜報活動と認定され、裁判もされず判決を下された。



『王に報告。残念ながら聖都には移送されず、このまま処刑場送りとなる模様』

(そう簡単じゃないか。この決定の早さ……もしかして嵌められたかな?)

『可能性は大きいと主張』

(劣等種と罵る人間種に技術で負けたのが悔しいのかね。俺は人間じゃないけど)



 聖都に輸送されるならば、少なくともそれまでは大人しくしてもいいだろう。そう考えていたが、どうやら甘い考え方だったらしい。

 時間もない中、今回は作戦が全く嵌らない。



(とりあえず監視しておいてくれ。もしも抵抗するなら、本当にギリギリの時にしよう)

『是』

(さて、楽しみだな。処刑場)



 たとえ誰にも聞こえない思考の中だとしても、嫌味でも言わなければやっていられなかった。




 ◆◆◆




 視覚を制限され、手を拘束されたまま移動が続いた。

 継続的にアビスから情報が送られてくるので、大きな不安はない。どうやらリステル市内の軍事施設に送られたらしかった。ただ警備が厳しく、アビスとて内部への侵入は難しい。施設内に入ってからは具体的な情報もなく、不安な状況が続いた。



「これはどうも。その人間が罪人ですか?」

「ああ。精霊樹海送りとなった。花樹林攻略戦線に使う」

「たった一人で役立つでしょうか? 焼け石に水でしょう」

「こんな男でも自由組合で戦士登録をしている。ランクも高いから多少は役立つさ」



 不穏な会話が耳に入る。

 どうやら処刑方法は精霊樹海送りらしい。



(精霊樹海といえば三大秘境の最後の一つか。白銀の霊峰、最古の迷宮と来てまさか全制覇するとは)

『是。白銀の霊峰と最古の迷宮は共に王の拠点です。精霊樹海も拠点化しますか?』

(それは追々かな……俺以外の精霊種とも会って判断だね)

『文字通りの処刑であった場合、シルフィン共和国陥落の計画に致命的な遅れが生じていたと思われる』

(その点は幸運だったよ)



 シルフィン共和国は南と西で海に接している。少なくとも事前調査の情報ではそうなっていた。精霊樹海は南の海峡を挟んだ島に存在している。

 また便宜上は島と呼称されているが、かなりの広さだ。具体的にはシルフィン共和国本土の半分ほどもあるという。精霊樹海の名の通り、多くの精霊が住まう秘境というわけである。



「……はい、サインです。確かに受領しました」

「よし。ではこれを以て引き渡す」

「ここまでありがとうございました。このまますぐに樹海送りしますね」

「ご苦労。雑談までだが、最近の戦況はどうだ?」

「花樹林の攻略は全く進んでいませんね。踏み込むだけで死の危険が付きまとう場所です。明確な対処方法が完成するまでは踏み込み辛いですね」

「そうか。難しいな」

「アルルリウスからいい結果が降りてきていないですか?」

「残念ながらな。穢れた者どもの方は?」

「そちらは順調です。パルパティア市の攻略も近いうちに良い結果を返せると思います」

「期待しておこう」



 引き渡しがてらの雑談もセイにとっては貴重な情報源だった。

 今の会話から分かることが既にいくつかある。



(戦線は二つ。花樹林ってのと、穢れた者どもとの戦いか。俺が向かわされるのは花樹林の方だったよね。踏み込むだけで死とかやばすぎ)

『口調から考察するに危険な敵性存在ではないと思われる。毒などにより汚染された領域と推測』

(それなら都合がいい。俺に毒は無意味だし)

『是』

(で、穢れた者どもって? もしかしてアンデッド?)

『不明』

(各地に散っているアビスを招集して精霊樹海に向かってほしい。現地で合流しよう)

『是』



 考えている間に縄を引かれる。どうやらまた歩くらしい。

 何度か通路を曲がり、昇降機を下ろされ、そこでようやく目的地にたどり着いた。相変わらず目隠しされているものの、魔力を感知すればわかる。セイの正面には魔力の塊が鎮座していた。



(ずっと地下に降ろされているし、もしかして転移魔法で飛ばされるのかな?)



 転移術式の魔法陣は自由組合ですら開発して利用している。シルフィンの軍が利用していないはずがない。予想通り、魔力を感じる床の上に立たされ、転移特有の浮遊感を味わうことになった。

 すぐに地に足が付いた感触が戻ってきて、感じ取れる雰囲気も変わる。



「リステル市基地の者です。連絡していた通り罪人を引き渡しに来ました」

「伺っております。その劣等種ですか?」

「ええ」

「ちなみに何をやらかして死刑に?」

「アルルリウスから機密を盗み出そうとしたらしいですよ」

「それはとんでもない奴だな。これだから劣等種は……」



 軽く足を蹴られる。

 更には襟首を掴まれ、強く揺さぶられたのちに突き飛ばされた。



「ほら立てよ罪人が。黒髪の劣等種の分際で。クズが!」



 呆れてしまうほどの扱いである。

 倒れたままのセイを何度も蹴り、踏みつけ、とにかく尊厳を奪おうとする。感覚遮断すれば痛みなど感じないため、ともかくこの時間が過ぎるのを待ち続けた。

 黒髪、穢れ、劣等種、ゴミ、クズ、愚か者、欠落者。罵倒は多岐にわたる。



(そういえばエルフって金髪金眼ばかりだよね。もしかしてそれ以外の色は全部劣等種だと思われてる?)



 セイは割とどうでもいいことを考えていた。

 無論、それはそれとして腹が立ったが。




 ◆◆◆




 エルフという種族は大陸全体で言うと嫌われている。

 なぜならば傲慢で、プライドが高く、ことあるごとに他種族を見下すからだ。ここ五十年くらいで生まれた若いエルフ種ならばともかく、それより古い世代のエルフ種はそういった傾向が強い。実のところ、古くはエルフ種の国家こそが唯一文明的であった。古代より確かな知識と魔力を操り、栄えてきた種族だからだ。

 世代が上のエルフであるほど、かつて原人同然だった他種族のことをよく知っている。

 だから自然と下に見てしまう。



(なるほどね。酷い酷い)



 エルフという種族について、アビスたちは積極的に情報を送ってくれる。これまでセイがほとんど興味を示していなかった知識だ。しかしアビスネットワーク上にはしっかりと知識が蓄積されていた。



「よぉ坊主。あんたは何で死刑になったんだ?」



 大型車両に揺られつつ、セイは虚空を見つめていた。その様子が絶望しているようにも見えたのだろう。すぐ隣の男が話しかけてくる。



「ん? 俺ですか?」

「そうそう。あんただよ。名前は?」

「セイ」

「俺はディース。ルマーズ出身だ」

「ルマーズ? あぁ、大帝国の一部の……」

「税が重くてシルフィンに流れてきたんだが、ちょっと可愛いエルフちゃんを口説いていたらこうなっちまって。酒の席に誘っていたら何故か通報されたって訳よ。酷いだろ?」

「それだけで死刑にはならないでしょ……」

「……いや、俺は悪くねぇ。下等種族とか下劣な蛮族とか言いがかりつけられて警察に抵抗したけど」

「絶対それですよ」



 エルフが上、それ以外は下。

 それがシルフィン共和国における共通認識だ。世界的な認識ではエルフ種もまた人類の一種という考え方がメジャーだ。

 しかしエルフたちはこう考える。自分たちこそが人間、それ以外の種は似た姿の獣だと。



「彼ら俺たちのことを猿か何かだと思ってますからね……」

「……?」

「いや、そんな理解が追い付かない顔されましても」



 そう言いつつもセイとて混乱が止まらない。まさか女性を口説くだけで死刑になろうとしている人物がいるなど想像の埒外だ。

 こうなってくるとシルフィン共和国内での動きは相当難しいということになる。これまでのように内部に潜り込んで崩壊させる策は通じない可能性も高い。そもそも内側に入れないのだから。



「ちなみに俺は冤罪ですよ。なんか研究機関から情報を盗み出したことになっているみたいですね」

「そいつは不運だったなセイ。若いのに可哀そうなことだ」

「一生分の不幸を今日使い尽くしましたよ」

「はっ! 違いない! なんせ俺たちはここで終わりだからな!」



 全く笑えない冗談だ。

 ディースと名乗った男も、無理に笑っているのが虚しくなったのだろう。電源が切れたように無表情となり、周囲を見渡す。

 二人が詰め込まれたのは大型車両の荷台だ。勿論、他にも運ばれている人間はいる。ただ他の人間は一言も話すことなく、視線も虚ろであった。ディースは溜息を吐き、膝を抱えて体を丸める。



「不気味だよな。さっきから一言も喋らねぇ。それに同じ服を着やがってよ。まるで人形だぜ」

「この人たちも犯罪者ってことですよね」

「さぁ。これだけ死刑扱いの犯罪者がいるってどういうことだよ。ひぃ、ふぅ、みぃ……少なくとも三十人はいるんじゃねぇか? 車も五台は走ってたしよ」

「確かに仮計算で百五十人も処刑ってのは異常ですね」



 セイは揺れる車両で転ばないよう、姿勢を低くしながら移動する。そして虚ろな人間の一人へと近づき、軽く触れてみた。

 だが反応がない。

 全く気付いていないかのように、一言も話さず、瞳も動かない。



(この首輪……呪属性か。アルギルで見た隷属の首輪に似ている)



 まず疑ったのは隷属状態だ。

 これだけ反応がないのだから、妥当な推測である。彼らには首輪がかけられ、呪いの魔力が動いていた。アルギル騎士王国で見た、ドラグーンを支配する魔道具と似ている。



(アビス、周辺国家で奴隷を扱っているのは?)

『大帝国、神聖ミレニアの二国です』

(どちらから奴隷を購入している記録はあるか?)

『否』

(おかしいな。流石に大規模な人の移動をアビスが見逃すとは思えないし……)



 懐に隠せる小さなものならばともかく、大人数の人間が輸送されれば目立つ。少なくともどこかのアビスが認知しているはずだ。手がかりの一つすらないというのは明らかに異常である。



「どこから来たんだ……こいつら」



 情報収集には気を配っていた。

 だがこの虚ろな人間たちの素性が全く割り出せない。エルフたちが処刑場と呼ぶ花樹林へ送り込まれる経緯すらも分からない。分からないだらけで埋め尽くされていく。

 これまでの自信が崩れていく音がした。



人間とエルフの寿命差を考慮すれば、まぁこうなるかな?

若い頃、棍棒持って殴り合いしていた野蛮人が人間に対する印象ですね。その当時からエルフ種は魔法文明を築いています。

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― 新着の感想 ―
いや、出たとこ任せすぎませんか それが許されるのは力押しで問題ない戦力があるときだけで、その場合はさっさと正面から攻め込めよっていわれるヤツ。 エルフに擬態ってできないんですかね。白粉塗って地区ごと…
 野蛮人はどっちなんだ…引くわー。
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