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行夢来人  作者: 福谷莇生
14/16

≪13≫


ホテルの部屋に戻り、そのままベッドに仰向けになって寝ころがる。

すべてから逃げて、閉じこもってしまうことは簡単だ。真奈美と会えなくなってからの二年間の自分がそれだった。その二年の間に彼女は、想像も出来ないほどの辛い目にあってきたわけだ。自分だけが不幸な目にあったと、いじけていた自分自身が恥ずかしい。

自分に何が出来るのか。恥ずかしながら、純粋に相手のために「自分に何が出来るか」を考えたことなど、いままで一度たりともなかった気がする。これまでは、「相手のため」としていたことも、すべて自分にとって都合が良くなることばかりだ。相手が喜べば、自分も満足できる。相手が悲しめば、自分も辛い。相手が消えてしまったら、自分が寂しい。結局、「自分」が基本になっている。

それは、それでいいのだろうか?

他の人たちは「相手」をどう捉えて行動しているのだろう?

そもそも、人間というのは自分を規準にしないと考えられないのかな…。

…よく判らない。今更ながらこんな事に気付いたわけだから、とてもじゃないが哲学者のように答えは出せない。

大学の人文学の教授の顔を不意に思い出した。不得意でろくすっぽ講義も聞いていなかった。彼に尋ねたら答えてくれるだろうか。


とにかく名古屋に戻って、就職活動を始めてみよう。

いま思いつくことはそれだけしかない。

そして、結果がどうであれ、一ヶ月後には、もう一度ここに戻って考えよう。

場合によっては、必ずしも名古屋にこだわる理由はない。


そんなことを考えているうちに、深い眠りに落ちていた。



夢の中で、プラットホームに立っていた。


周囲は、右手に青い海と青い空、左手に緑の山。

また、あの夢か?

これも、あの男の仕業か?

あの場所に来いと言っているのだろうか?

もう来るなと言ったくせに…。


いや、、、これは自分で見ている夢かもしれない。

ならば、最初の場所に戻ろう。

後ろを振り返ると、すぐそこに大きな駅が見えた。

新幹線のホームに再び立つ。

そこへ新幹線がやってきた。今度こそ真奈美は降りてくるはず。

新幹線が停車し、ドアが開くと、真奈美の姿が見えた。

真奈美は、僕を見つけ、駆け寄ってくる。

「これから、どうしようか?」

夢の中の真奈美に聞いてみた。



目が醒めて、しばし夢の余韻に浸る。

真奈美は、あの後、なんて言ったんだっけ…。

夢の記憶はどんどん失われていく。そもそも夢なんて、すべてを記憶していたら、やがて現実と区別がつかなくなる。それでいいのだ。


診察時間が始まる少し前に病院に到着したが、さすがに産婦人科には入りにくい。

駐車場から病院に電話をかけてみると、都合の良いことに対応に出たのは真奈美だった。少しだけ時間が作れないか聞いてみて、昨夜出入りした裏口で待ち合わせることにした。


裏口で待っていると、程なくして真奈美はやってきた。小走りで駆け寄ってきて、今にもくっつきそうな間合いで立ち止まる。"小さく前に倣え"の間隔。

「これから一旦、名古屋に帰るよ。でも、すぐに休暇を取り直して、一ヶ月後にはまた来たいと思っている。詳しい日程はメールで連絡するね」

すると、真奈美は、急に哀しそうな顔になり、両手で、ぼくの右手を掴んだ。

「私も仕事を探しますから…、ついていっては駄目ですか?」

そう言って、うつむき、涙を流した。

このまま連れて帰りたい衝動が、頭の中を駆けめぐる。

が、何も言えなかった…。

思わず左手で真奈美を抱きよせる………。

すべての感覚が真奈美を感じた。

それ以外のもの。重力さえも消えてしまったようだった。

頭の中は真っ白になった。


これも、、、夢?

そんな思いが、一瞬頭を過ぎる。


……遠くで鳴っている救急車の音だけは耳に残った。


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