チート……なのか???
はぁはぁ……。
膨大な知識をなんとか整理し終え、ようやく落ち着いた頃には、空が白み始めていた。
「まぁ、とりあえずはいろいろ整理しないとな」
俺は冒険者たちから離れた草むらに身を潜め、得た情報を頭の中で整えていく。
ここは王都の南に位置する「南の森」。名前の通り、王都の南に広がる森だ。
……そのまんまやん、というツッコミはひとまず胸の内にしまっておく。
この森は、初心者から中級冒険者たちにとって絶好の狩場とされている。
入り口付近は比較的穏やかで、自生する薬草も豊富だ。
危険な魔物はほとんど姿を見せず、安心して採取や浅い狩りができる。
しかし、奥へ進めば話は変わる。
そこそこ手強い魔物が生息しており、それらから採れる素材は市場での需要も高い。
そのため、冒険者たちにとっては恰好の稼ぎ場となっている。
あの三人組も、魔物素材を狙ってこの森に入ったらしい。二、三日はここで狩りを続け、その後街へと戻るそうだ。
……帰る時に彼らについていけば、街まで難なく入り込めるだろう。
今後の方針をざっくり決めた俺は、次に自分のことについて思考を巡らせた。
普通に人間として転生していれば、「冒険者になるには?」「どうやって戦う?」「金はどう稼ぐ?」とか、考えるべきことは山ほどあっただろう。
しかし、あいにく俺は蚊だ。
血さえ吸えれば生きていける。
つまり、考えるべきことはただ一つ——「生き抜くこと」だけである。
そのためにも、自分の状態……特に能力について、しっかり熟知しておく必要があった。
かの偉人も言っていたではないか。
『己を知り、敵を知れば百戦危うからず』と。
……ってか、この言葉、約二千五百年も前のやつだよな?
それがいまだに幅を利かせてるってことは、人間って意外と進歩してないんじゃないかねぇ?
……っと、それよりまずは己を知るところからだな。
まずはもう一度、ステータス画面を開く。
【ステータス】
名前:イチロー(田中一郎)
種族:アカイエカ(オス)
レベル:2
HP:0.01(0.002Up 端数切捨て)
MP:0.01(0.002Up 端数切捨て)
体力:0.01(0.002Up 端数切捨て)
筋力:0.01(0.002Up 端数切捨て)
耐久:0.01(0.002Up 端数切捨て)
魔力:0.01(0.002Up 端数切捨て)
幸運:0.01(0.002Up 端数切捨て)
スピード:6(1Up)
……少し詳細が増えているのは、斥候から得た「鑑定」スキルのおかげだろう。
一見ステータスが上がっていないように見えたのは、単に端数が切り捨てられていただけだったらしい。
そして、冒険者たちから得た知識のおかげで、ようやく比較対象ができた。
彼らの話によれば、一般的な成人男性の平均ステータスはだいたい5~7程度だそうだ。そこに職業やスキル、加護などの補正が加わるらしい。
例えば、農夫の平均的なステータスはこんな感じ。
【ステータス】
名前:なし(農夫)
職業:麦作農人
レベル:3
HP:25
MP:5
体力:8+15
筋力:8+15
耐久:6
魔力:1
幸運:5
スピード:4
……なるほど、農夫という職業の補正で体力と筋力が盛られているわけか。
ちなみに、あの女冒険者のステータスはこちら。
【ステータス】
名前:リアナ
種族:ヒューマン(女性)
職業:魔法使い ギルドランクD
レベル:20
HP:75
MP:110+100
体力:30
筋力:25
耐久:25
魔力:85+30
器用:45
幸運:18
スピード:50
所持スキル
・魔力操作 ・魔力増幅 ・詠唱短縮 ・魔力回復促進(小)
・属性魔法適正(火・水・土) ・中級火属性魔法 ・初級水属性魔法 ・初級土属性魔法
魔法使いだから、MPと魔力にド派手な補正がかかっているんだな……。
……つまり、俺の場合は——
いや、やめておこう。
考えるだけ無駄だ。
そんなことより……と、俺はスキル欄に目を移した。
【所持スキル】
・『血を吸う』
・『形状変化』
・『魔力操作』
・『属性魔法適正(火・水・土)』
・『初級属性魔法(火・水・土)』
・『筋力増強10%』
・『石の身体』
・『身体強化5%』
・『敏捷10%』
・『隠密行動』
・『気配探知』
・『鑑定』
うん、確かに増えてるね。
早速「鑑定」で一つずつ詳しく見てみることにした。
まずは元々持っていた『血を吸う』スキルから。
【スキル詳細】
スキル名:血を吸う
口針により対象の体液(主に血液)を吸うことで、生命力の回復をはじめとする全身の回復を促す。
そのほか、スキル『捕食』との融合により、対象の「経験」を一部吸い取り、知識や情報を得ることができる。
また、スキル『捕食』の効能として、取り込んだ物質を別空間内にて保管することが出来る。
……要するに、血を吸うだけで生命維持・回復ができるってことだが……そんなことよりもだ。
俺は説明文の一部に注目する。
「捕食との融合」
スライムから得たスキルの捕食が、いつの間にか「血を吸う」に統合されてしまっていたらしい。
スキルがコピーできるのはその捕食のおかげ?
つまり、血を吸えば回復だけでなく、知識、情報、経験値とおまけにスキルコピーまで可能ってことか。
すげぇ、チートじゃねぇかっ!
……俺が蚊じゃなければ、の話だけどな。
例えば、女冒険者・リアナから得たスキルのおかげで、俺も魔法が使えるようになった……はずなんだが!
「火属性初級魔法 ファイアーバレット(必要MP:2)」
……そう、一番消費魔力の少ない魔法ですら、MPが「2」必要なのだよ。
ちなみに俺の現在のMPは——0.01である。
尚、捕食のもう一つの効能。物質を別空間に保管できるって、あれだよな?
アイテムボックスとか、亜空間収納とかってやつ!
……蚊の口から取り込めるのって何があるんだ?
微小な血の粒か、せいぜい花の蜜の雫くらいか……?
……なんだか急に悲しくなってきたよ……。
……この時の俺はまだ気づかなかったが、スライムから得た「形状変化」のスキルを使えば、それなりの大きさのものが取り込めるようになると知るのはもう少し後のことになる
他のスキルに移ろう。
戦士から得たスキルは『筋力増強10%』『石の身体』『身体強化5%』の三つだった。
戦士らしく、ガチガチの物理強化系スキルだな。
『筋力増強10%』……そのまんま、筋力値を常時1割底上げするパッシブスキル。
『身体強化5%』……使用時に全ステータスを5%アップさせるアクティブスキル。
『石の身体』……使用時に耐久力と防御力を5%向上させる防御特化スキル。
これらがあるだけで、普通の人間の戦闘力はかなり跳ね上がるはずだ……。
俺には、ほぼ意味がないけどな。
筋力0.01の1割って、0.001じゃねぇかよっ!
端数切捨てで変化なしじゃねぇかっ!
……はぁ。
結局、俺にとってまともに有益だったのは、斥候さんからもらったスキルだけかぁ。
『敏捷10%』『隠密行動』『気配探知』『鑑定』の四つだ。
鑑定は今まさに大活躍中だし、気配探知と隠密行動も、これから血を吸うためにはかなり役に立ってくれそうだ。
……っていうか、気配探知で獲物を見つけ、隠密行動で忍び寄って、一突き刺す……って、どこのアサシンだよっ!
まぁ、実際にやることはただ血を吸うだけなんだけどな。
敏捷10%は俺のスピードを常時1割底上げしてくれるパッシブスキル。
今はまだ端数切捨てで効果を感じないけど、レベルが上がってスピードが10を超えたら、ようやく役に立ってくれるはず……多分。
でもまぁ、これでやることはだいたい見えてきたかな?
まずはこの冒険者たちにこっそりつきまとって、魔物たちの血を吸いまくってスキルをコピーしていく。
どの魔物がどんなスキルを持っているかは、鑑定を使えば丸わかりだ。
しかも戦闘中なら、奴らに俺のことなんか気にかける余裕はないはず。吸い放題……の、はず。
……ま、巻き込まれて蚊ごと潰されないよう、気をつけないといけないけどな。
生命維持ができて、スキルもどんどん増える。
言うことなしじゃね?
そして彼らについて街へ入り……神殿を目指す。
俺をこんな身体にした女神様に、たっぷり文句を言ってやる。
そこで寿命を迎えてやるんだ!
そうすれば次こそは、もう少しまともな身体に転生させてくれるだろう……きっと……多分……おそらく……。
◇
冒険者たちにこっそりつきまとった三日間……それはもう、大変な日々だった。
……とくに精神的に。
俺は完全に彼らの影と化していた。
隠密行動のおかげで、誰にも気づかれず近くにいられたのはいい。……その代わり、戦闘に巻き込まれるリスクもバッチリ味わう羽目になった。
戦いが始まれば、俺はちょっとした風圧や魔力の余波だけで吹き飛ばされそうになる。
それを耐えて、俺は生命維持委のため頑張った。
最初は*コボルトの群れ。
戦士が長剣を振り回し、斥候が側面から突っ込む中、俺は戦士の足元に張り付いた。コボルトの棍棒が地面を叩くたびに土埃が舞い、俺は必死でバランスを取る。
「今だ!」
コボルトの足元に飛び移り、ずぶっ、と口針を太ももに刺す。
ぬるぬると温かい血が流れ込んでくる……おいしくはない。
それを何度か繰り返すと、【初級棍術】【連携】【絶倫】のスキルを得たアナウンスが流れる。
コボルトが暴れまわる中、俺は吹き飛ばされそうになりながらも必死で戦場から距離を置く。
続いてゴブリンの集団との戦闘に入る。
リアナの火球が炸裂する中、熱風で翅が焦げそうになりながらゴブリンの背中に着地。
「吸うぞ……!」
何匹目かのゴブリンから吸血し、【初級剣術】【初級短剣術】【連携】【絶倫】を吸収。
臭くて薄汚い血だったが、スキルは確実に増えた。
……ただ、ゴブリンが暴れるたびに振り回され、死ぬほど怖かった。
ウルフファングの群れは素早かった。
灰色の影が四方から襲いかかる中、俺はスピードを振り絞って一匹の喉元に張り付く。
牙が空を切る風圧で何度も吹き飛ばされそうになりながら、なんとか一刺し。
正直言って、一番苦労したかも?
そのおかげで、【連携】【敏捷10%(既存と融合→敏捷15%に強化)】【絶倫】を手に入れた。
「よし、スピード上がった……かも!」
キラーラビットは跳ね回る悪魔だった。
飛び跳ね、攻撃を躱しカウンターでの蹴り……まさしく「白い悪魔」である。
跳躍の衝撃波で俺が空中で翻弄される中、背中にしがみついて針を刺す。
【敏捷10%(15%→20%に強化)】【気配探知】【クリティカル】【絶倫】。
ウサギの血は意外と甘かったとだけ言っておこう。
ヘルスネークは最悪だった。
草むらから突然現れた蛇に、俺自身が狙われかけた。
いや、狙うなら冒険者だろ?
執拗に追いかけ回してくるヘルスネーク。こいつには隠密行動が聞かないのか?
それでも、攻撃を躱しながら、首の後ろに張り付いて吸血。
【Lv2毒攻撃】【毒耐性】【絶倫】を獲得。
毒の味がした血を吸いながら「俺が毒って聞くのか?」という疑問が浮かんだが、まぁ、あとにしよう。
ジャイアントスパイダーの巣は地獄だった。
粘着糸が飛び交う中、俺は翅が絡まりそうになりながら腹部に針を突き刺す。
糸が俺の足に軽く引っかかり、死ぬほど焦った。
うん、クモはダメだ、天敵だな。
気を抜けばすぐに巣に引っかかってしまう。
それでも何とか吸血を終える。
【Lv2毒攻撃(猛毒付与に変化)】【毒耐性(毒無効に変化)】【毒生成】【操糸】【絶倫】。
……操糸とか、蚊がどうやって使うんだよ!
ビッグフロッグは巨大すぎた。
カエルが大きくなるだけで、こんなにキモくなるとは……。
舌が鞭のように飛んでくる中、背中に張り付きながら吸う。
跳ねられた衝撃で木に激突しそうになりながら、【丸吞み】【初級鞭術】【初級投擲術】【状態異常耐性】【絶倫】を吸収。
意外だったが、カエルの血はさっぱりしていて美味しかった。
後、丸吞みスキルを見て「どうやって丸のみするんだよ!」と、思わずツッコんでしまった。
そして、三日目、予定の査収日の夕方——最大の獲物、オークと遭遇。
「グオオオオッ!」
巨体が斧を振り回すたび、風圧で俺は何度も体勢を崩される。
戦士が正面から受け止め、リアナの魔法が炸裂する中、死ぬ気で首筋に接近。
斧の風をくぐり抜け、ようやくずぶっ……と深く針を刺した。
熱く濃厚な血が勢いよく流れ込む。
【初級斧術】【石の身体(鉄の身体に変化)】【身体強化5%(身体強化10%に変化)】【絶倫】
「うおっ……これは当たりだ!」
レベが上がったらしく、一瞬で力が漲るような気がした。
戦闘が終わり、冒険者たちが一息ついている隙に、俺は少し離れた葉の裏でステータス画面を開いた。
今回で、たくさんのスキルを得ることが出来たのは喜ばしい。
ただ、剣術だの、根術だの、蚊の姿でどうしろと?というスキルにツッコミを入れたい。
そして何より、全部の魔物から得た共通スキル「絶倫」
俺は思わず声を上げた。
「なんだよ、絶倫って!! 舐めてんのかぁぁぁ!!! ってか、お前ら絶倫すぎぃっ!誰得だよそれ!!!」
小さく羽を震わせながら、俺は全力でツッコミを入れた。
そしてそれ以上にやるせなかったのが……
【ステータス】
名前:イチロー(田中一郎)
種族:アカイエカ(オス)
レベル:5
HP:0.01+2
MP:0.01+2
体力:0.01+2
筋力:0.01
耐久:0.01
魔力:0.01
幸運:0.01
スピード:10+2
絶倫スキルの補正でHP,MP,体力に+2が付いた。
……1発だけならファイアーバレットが撃てる……が、魔力依存だから、火種を作るぐらいしか役に立ちそうにない…………女神様、マジで文句言ってやるからな。
端数切捨て、って残酷ですよねぇ。
このままじゃ、Lvが100になっても、ステータス変わらないからねぇ……
スキルもほぼ意味なしで……どうやって下克上しましょうか……
ご意見、ご感想等お待ちしております。
良ければブクマ、評価などしていただければ、モチベに繋がりますのでぜひお願いします。




