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1-2 コンビニ


 混乱の渦中でも私は言われたことをこなそうと、底がすり減ったローファーを履いてアパートを出た。


 真っ暗な町。人っ子一人いない。動物や虫の気配すらもない。

 ただただ月明かりが私を照らす、そんな時間。


 口から真っ白い息を吐きながら、私は千円札を握りしめて、ドキドキしながらコンビニに入った。

 ずっとずっと、ここでお買い物をしたかった。買い物はスーパーマーケットや八百屋でしかしたことがない。コンビニは、高いから。財布から小銭を出しながら苦々しげにつぶやく母の表情は、幼い私にとてつもない無力感を与えた。


 コンビニでは店員さんの気の抜けたイラッシャイマセが聞こえた。髪を茶色にした若いお兄さんが、レジの前で暇そうに突っ立っている。


 カゴを持って、陳列棚の前に立つ。水を見つけた。色々な種類の水を。どれがいいのだろうか。水は買ったことがない。水道をひねると出てくるものに、なぜ人はお金を払うのだろうか。一番大きくて、でも値段は小さい水と同じ水を手にとってカゴに入れた。プラスチックが凹まないように、慎重に、丁寧に。


 次に、甘いもの。コンビニには色々なものがありすぎて、頭がくらくらする。カップラーメンや雑誌、お菓子にお弁当にサンドイッチ。おにぎりだってある。お水を買うときには気にならなかったものたちが、途端に私の脳内に入り込んできて主張を始めた。


 カラフルでかわいいキャラクターのパンと目があって、胸がツキツキ痛み始めた。


 こういうの、食べてみたいな。


 世の中にはあなたより恵まれない人がいるの。毎日のご飯に困ってる人もいるの。

 スーパーに売っていたパンダさんのパン。ちょっとブサイクだけど、優しい顔のそれをねだった私に、お母さんはそう言った。わかってる。世の中には綺麗な水も飲めない、私よりも大変な子供がいるということはわかってる。けれども、そういうことじゃないのだ。


 周りの同級生がコンビニの可愛いお菓子やパンを食べているとき、私は自分で握ったおにぎりを食べる。


 他の子は欲しいものを買ってもらえるのに、私は一度も買ってもらったことがない。


 なんでなの。私に原因があるの。どうしてなの。

 心の中で、私は泣いた。


 制服のポケットに大切にしまったお金を触る。

 このお金で買うのは、男が望んだ水と甘いものだけ。

 ーーーだってこれは、私のものではないから。


 甘いものにはケーキを選んだ。いちごの乗ったショートケーキ。女の子の憧れ。夢。私のものではないけれど、見ているだけで幸せになれた赤と白の宝物。


 レジでカゴを渡し、店員さんが商品を袋に入れてくれるのをじっと待つ。


 「562円でーす」


 気の抜けた声のお兄さんに、私は握りしめてほんのり温かくなったお金を渡した。


 「ありがとーございましたぁ。」


 そう言ってお兄さんは私に商品の入った袋とお釣り、レシートを渡してくれた。


 自動ドアを通り、コンビニを出る。

 外は寒くて、思わず体がぶるっと震えた。それから男が待つアパートまで、私はゆっくり歩いて、歩いて、歩いた。


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