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新たな発見

ここからバックヤードツアーに参加をした。

もう何十回と参加しているので、目新しい事は何もない。

この建物の構造もわかってしまっている。


ツアーを見ながらふと疑問に思った。

リュック様達はどこからやってきたのだろうか。

きっと、公演中はボックス席ではなく、別の場所で商談していたのだろう。

それはどこ?


案内してくれているスタッフが衣装を手に取り説明してくれている。

舞台俳優ではない受付係やドアマンなどは、どこかで着替えないといけないだろうから、これ以外にも職員しか入れないスペースがあるのだろう。


そこで商談をしているのかもしれない。

もしかしたらイステル氏が探している密輸された武器などは、職員控室に隠してあるとか?

今までバックヤードツアーに参加して、スタッフオンリーのエリアを全部見たつもりだったけど違ったんだわ。


「イステル様、職員控室なども捜索したのですか?」

小声で質問する。


「ええ。しましたよ。屋根裏も全部捜索しましたがどこにもありません」

「そうですか……」

がっかりした気持ちを隠すために目線を上に向けて笑顔を作る。


その時、出入り口の横に何か凸凹した部分があることに気が付いた。

壁紙がでこぼこしている。


じっと凝視していて気が付いた。

リュック様が持っていた鞄に入っていたマークだ。

驚いてイステル氏を見る。

動揺を隠してにこやかな顔をつくらないと。


「イステル様、客席も捜索されたのですよね?」

「ええ。それはループが始まる前に。私は開演2時間前に来て、エリー伯母様の名付け子と会って、その後、客席を調べました」


「そうですか。怪しいマークとかはありませんでした?」

その質問にイステル氏の表情が変わった。


「怪しいマーク?なんの事です?」

「あれですわ」

指をさすと、私が何を指し示しているかわかってしまうので、じっと凝視してみせる。

このマークが何なのか。

判明するまでは迂闊な行動は取れない。

私の視線を追うようにしてイステル氏も出入り口の横のマークを見た。


「視線の先にあるのは壁紙の凹凸ではありませんわ。何かのマークです」

私の言葉でイステル氏も気がついたようだ。

「本当だ。あれは何の印でしょうか?」

「わかりませんわ。でも、どこにあるのか見ながら歩いた方が良さそうですわね」


何十回も参加しているバックヤードツアーなのに、突然、今まで知らなかったものが見えてきて、私達に緊張が走る。

真面目に話を聞くフリをして、あのマークを探した。


マークは舞台装置の搬入口からついていた。

しかも、大道具を運ぶ道筋についている。

そして。途中で二股に別れていた。


一つは舞台に向かって、もう一つは衣装部屋に向かって。

「衣装部屋は全部確認した。抜かりはないはずだ」

イステル氏はエリーおば様に聞こえないように小さな声で言う。


「でも、衣装部屋をもう一度探してみましょう?意味がないのかもしれないけれど、もう一度確かめて見るべきよ」

「そうだね」

二人でコソコソと話し合った後、満面の笑でツアーガイドを見た。


「あの、もう一度衣装部屋を見たいですわ。舞台衣装ってワクワクしますわ」

大袈裟に胸の前で手を組み、うっとりとして見せる。

大根役者だと思うけれど、これ以上は無理だ。


「かしこまりました。ではもう一度衣装部屋にご案内いたします」

ツアーガイドは衣装部屋に案内してくれた。


「こちらの部屋ではありませんわ。もう一つのお部屋がみたいのです」

案内されたのは2つある衣装部屋のメインルームだったが、マークがついているのは、予備の衣装が置いてある部屋だ。


「あちらは、代役の俳優用の衣装が置いてある部屋なのですが…」

ガイドは困惑している。


「ドレスが、このお部屋のものとデザインが違うように見えましたのよ。ですからもう一度この目で見たいと思いまして」

「まあ!ドレスのデザインでしたら、私も気になるわ」

エリーおば様も同調してくれたので、ガイドは困った顔をしながら案内をしてくれた。


「どうぞ、ごゆっくりドレスをご覧ください」

ガイドの許可をもらったので、ドレスを見るフリをしながらマークを探す。


壁をゆっくりと確認しながら予備のドレスをゆっくり眺めて行く。

「あった」

マークは壁の上部に3つ並んでいた。

その下には大きな衣装箱が置いてある。

この箱に何かあるんだわ。

イステル氏を見ると、目が合った。


二人で頷く。

「衣装箱にはどんな衣装が収められているのかしら?イステル様、開けてくださらない?」

大袈裟に言うと、イステル氏が笑顔で箱を開けてくれた。


中にはお針子が使う裁縫道具が複数個入っていた。

ブレスレットのように腕に付ける針山と、腰につけるハサミなどが入ったポーチで、中身は剥き出しなので、何も隠されていない事がわかる。


あのマークが3つあることに意味があるはずだ。

試しにポーチを手に取ってみると、側面に数字が書かれている。

他のポーチも同様だ。


もしかして、この数字が「3」のポーチに何かあるのかもしれない。

探すと、すぐに見つかった。

ポーチの中をのぞくが、他のポーチと同じだ。

私では何も見つけられなさそうなので、イステル氏にポーチを渡す。


イステル氏は、ポーチの中を確認した後、腰紐を触って不思議な顔をした。

「今からポーチを少し破きますから、ガイドの注意を逸らしてください」

小声で言われたので、私はその場から離れてガイドに話しかける。


ドレスのメーカーや、制作期間、デザイナーなど、矢継ぎ早に話しかける。

チラリと横を見ると、イステル氏がポーチを元あったところに戻していた。


「ダンフォード侯爵令嬢様は、ドレスとなると目の色が変わりますね」

質問攻めに疲れた案内係は額の汗を拭きながら、手元にある説明資料を一生懸命に覗き込む。


「あまりにも細かい質問をして申し訳ありませんでした。こちらでもデザイナーを調べますわ」

イステル氏が隣に来たので、質問を終わらせる。

「説明が不十分で申し訳ございませんでした」

案内係にバレずに何かを見つけられたようだ。


「ポーチの腰紐に鍵が仕込まれてました」

イステル氏が小さな声で言う。

「何の鍵ですか?」

「分かりませんが、かなり複雑な鍵で、普通では複製が作れない代物ですね」


何故、リュック様が持っているダークグリーンの革の鞄に同じマークが刻印されているのか。

知ってしまうと後戻り出来ない事は容易に想像がつくが、でも知らなければいけない気がする。


「答えは、舞台にあるのかもしれませんね」

イステル氏が呟いたが、バックヤードツアーのコースに舞台は組み込まれていない。

「どうやって舞台上の確認をするのですか?」


イステル氏は返事をせずにエリーおば様の隣に行った。

「伯母様、せっかくここまで来たのですからシーボルトを呼んでもらいましょう」

「そうね、名付け子にも会いたいものね」

エリーおば様の名付け子で、舞台演出家のシーボルト氏が呼ばれた。


シーボルト氏は、ドラテオ公爵家の執事の子供であるそうだ。

だから爵位はないし、イステル氏との血縁関係もない。


「いらっしゃいませ、奥様。そしてイステル伯爵様」

シーボルト氏は丁寧に挨拶をしてこちらを向いた。

年齢は30代後半くらいで、頭は少し薄くなってきてはいるが、少しカールしたブルネットヘアーの男性だ。


「久こちらはダンフォード侯爵令嬢です。彼女と私は『渋滞仲間』なのですよ」

エリーおば様が意味深に言う。

それに対してシーボルト氏はうやうやしく膝をついて、しごく丁寧な挨拶をした。


「ダンフォード侯爵令嬢様。わたくしはシーボルトと申します。この舞台の総合演出を勤めております。今後ともご贔屓にして頂けますと、大変嬉しゅうございます」

爵位のないシーボルトの挨拶は、本当に丁寧だった。


「ところで、唐突に不躾な質問をお許しください。もしや今、お召しになっているドレスは世界的女優、ゾーイのドレスですか?噂では伺っておりましたが素晴らしいですね!」

さっきとは打って変わって、興味津々に目を輝かせると、シーボルト氏は私の周りを一周してみる。


「どの角度から見ても素敵なドレスだ!舞台衣装として取り入れたいデザインですね。ストロベリー色の髪と、光り輝く真っ赤なドレス!」

独り言のように呟くと、頭の中は舞台演出でいっぱいなのか、シーボルト氏はポケットからメモ帳を出して何かをメモしだした。


「シーボルト。貴族令嬢の周りを一周してドレスを眺めるだなんて!なんてはしたない」

エリーおば様に怒られても上の空で何かを書いている。


「シーボルト、私たちは舞台からの景色を眺めたいのだけれど」

イステル氏の言葉もあまり聞いていないようで、「舞台に上りますよ?」と言っても、「はいはい」と生返事をするだけだ。


エリーおば様は額に手を当てて呆れ返っているが、その様子も全く気がついていない。


イステル氏はさっと舞台上に出た。

私もその後に続き、舞台にのぼる。

すると、シーボルトが、

「いいですね!舞台上でスポットライトが当たったらどんなふうにドレスが輝くか拝見したいです!」

と言って、照明係にスポットライトの指示を出す。


いきなり眩しい光の渦に包まれて周りが見えなくなったので、足元を見た。

すると、ドレスの人工ダイヤの光の屈折で、足元に凹凸があるのが見える!

あのマークだ。


光が当たっていないとこの凹凸は見えないだろう。

イステル氏にも見てもらうにはこちらに近づいてもらわないといけない。


そこで、手元に持っているクラッチを落とした。

わざとらしかったかしら?

でも、これしか思いつかなかった。


「イステル様、眩しくて目を開けられないのでクラッチを拾って頂けませんか?」

そう言ってマークを指差すと、イステル氏が側にやってきた。


「ドレスが光り輝いて、影が模様かマークのように美しいですね」

そう言ってクラッチを拾ってくれる時にマークを触っている。


「眩しくて歩けませんわ。スポットライトを消してくださらない?」

大きな声で叫ぶと、ライトが消えて普通の明るさになった。

まだ目がチカチカするわ。


イステル氏は舞台の上を歩き回っている。

何をしているのかしら?

「このオペラ座の舞台は床下からせり上がりがあったはずだけど、演出には使わなかったの?」

イステル氏がシーボルトに質問した。


「せり上がりは今故障していまして、使えないんですよ。舞台装置の修理屋は、皇太子殿下の即位式のためのパーティーの舞台のセッティングに大忙しで、修理を頼めるのはまだまだ先になりそうです」


なるほど、壊れて使えないし、直せないなら、秘密の隠し場所としては、こんなに絶好の場所はないわね。

もしかして、ここにイステル氏が探している武器があるのかもしれない。


でも、そこにリュック様の持っていたダークグリーンの鞄のマークが……。

この疑惑を払拭するには、もうリュック様の後をつけるしかない。


明日は結婚式に行くフリをしてなんとかしてリュック様の行動を突き止めないと。

今のままでは心に引っかかる疑問が増えただけで、なんの進展もない。

むしろ遠のいているわ。

こうなったら、違和感を払拭してなんとしても婚約までこぎつける。


「あのボックスからみているのと、実際に舞台の上に立ってみるのは違うね」

イステル氏は楽しそうにシーボルトに話しかけ、そこから舞台セットについていくつか質問をしていた。


バックヤードツアーが終わった後、いつもならドラテオ邸でお茶をするのだが、今回はイステル氏は「急用が出来まして、お先に失礼します」と言って帰って行った。

あのマークの事を報告するのだろう。


エリーおば様なら、あの時計台広場をどのように救うのか聞いてみた。

「危険を知らせたとしても、本人達が危険に気がついていなければ、意味がないわね。難しい問題よ。そうね、私なら逃げ道を確保してあげる、または逃げ込む場所を準備しておいてあげるわ」

「何故、事前に避難させないんですか?」

「人はね、『危機が迫ってる』って実感が起きないと行動に移せないものなのですよ」


なんとなくわかった気がした。

「ありがとうございます。エリーおば様」

この後は他愛のない話をして帰路についた。

どうすればいいかわかった気がする。

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