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バックヤードツアーに誘う

空砲の音で我に返る。


これで、45回目だ。


今回こそ、不安の原因を突き止めてみせる。

ここで問題なのは、イステル氏に悟られないようにしないといけないの事だ。

私がリュック様の事を調べているとは悟られたくない。


44回目のループの時、結婚式を欠席すると体調不良なフリをしてみたけれど、お医者様が呼ばれて仮病だとバレて、お母様に怒られたので、次に出来ることを考えた。

『一番手っ取り早いのは、相手に移動してもらわずにこちらが相手の居住地に移動することね。どんな人であっても、相手の気持ちを聞いて行動しないといけないわ』と言っていたので、その言葉を実行に移すことに決めた。


まずお父様に『ならず者たちが時計台広場の時計塔破壊する』という噂を聞いたと言って、時計塔を守って欲しいとお願いした。

するとお父様は、

「皇太子殿下即位式の直前に沢山の警備兵を動かすと、クーデターの恐れありと見なされてしまう。それはできない」

まさか断られると思っていたなかったので、狼狽する。

「即位式の前だから、街全体の警備は警ら隊や、憲兵が仕切っているわけではない。一時的に軍部の管轄下にあるんだ」


イステル氏は、人手不足だから確信がないと人は動かせないと言っていた。

ホームレスの殺害計画があったとしても、上層部にとっては優先順位は低いから動いてはくれないのだろう。


結局、阻止する方法を考えられずに終わってしまったのだ。


45回目である今回こそ、なんとかしたい。


馬車の中で色々と考えてみたが何も思いつかない。

その代わり別の計画を思いついた。

まずはいつもと同じ行動を取り、エリーおば様とお知り合いになって、オペラを途中から鑑賞した。


幕間でイステル氏に話しかける。

「イステル様、考えたのですが。バックヤードツアーにルアーナ様とリュック様をお誘いしてみてはいかがですか。もしも参加してくれれば事故は防げるのではないかしら?」


「いい案ですね。でもどうやって誘いますか?」

「エリーおば様のお名前を出してもよろしいですか?『エリーおば様が是非と言っている』とお誘いすれば、相手も断りにくいですしね」


「わかりました。エリーおば様には私からうまいこと言っておきますので、ダンフォード侯爵令嬢は、その案を実行してみてください」


オペラが終わる直前、プラチナボックスから急いで出ることにする。

以前のループでリュック様を見かけた時は男性といた。


……記憶を辿ると、確か、背の低い男性と談笑しながら降りてきた。

私は曲がり角を曲がった所にいたので、二人は私には気がつかなかった。


背の低い男性が、「それではこれをお願いします」と言って、ダークグリーンの鞄を渡した。

「わかりました。それではまた」

ラブラジュリ公爵子息が鞄を受け取ったところで、ボックス席の方からやってきたルアーナ様と合流した。

公爵兄妹は、男性に軽く挨拶をした後、そのまま階段を降りてエントランスの方に向かっていった。

一人残った男性は、オペラ座のスタンダードシートの入口方向に曲がっていったのだ。


考えてみたら変よね。

ボックス席で接待として一緒に鑑賞していたのなら、背の低い男性はスタンダードシートの方に行くはずがない。


普通は一緒に出口に向かうはずだ。

しかもリュック様が「わかりました」と敬語で答えるということは、あの背が低い男性はリュック様と同等以上の地位があるはずだ。

これが以前のループの記憶だ。


疑問は膨らむばかりで、減りはしない。

今回も急いでボックスを出たが、少しの差で、リュック様とルアーナ様が歩いている後ろを追う形になってしまった。

あの背の低い男性は見ていないが、リュック様の手には緑の鞄がある。


階段を降りたところで、マナー違反だとはわかっているが話しかける事にした。

そうしないと、馬車を呼ばれてしまう。


「ラブラジュリ公爵令嬢様!」

マナー違反だとわかってはいるが、背後から呼び止めて、小走りで駆け寄った。


ルアーナ様とリュック様が振り返る。

私はカーテシーをしてからにっこり笑った。

「マナー違反をお許しください。ご伝言を預かって参りましたの」


「まあ!ダンフォード侯爵令嬢」

ルアーナ様がリュック様を一瞬見た。

リュック様の視線は何だか目配せしているかのようだ。


「君がダンフォード侯爵令嬢か。妹から噂は聞いているよ。初めまして」

「はじめまして、ラブラジュリ公爵令息様」

なるべく感じよく見えるように取り繕う。


「ところで伝言って?」

「今日、ドラテオ公爵未亡人様が久しぶりにオペラ鑑賞にいらっしゃっておりまして。公爵未亡人様からの伝言ですわ」

「社交界の重鎮の!何でそんなにすごい方から?」


「何故かしら?わたくしにもわかりませんわ。伝言は『今からバックヤードツアーに参加しますけど、ご一緒にいかが?』ですわ」

二人は顔を見合わせた。

驚いているようだし、どうすればいいか悩んでいるようだ。


「ダンフォード侯爵令嬢が何故伝言を?」

「前の道路が大渋滞しているのはご存知でいらっしゃいますか?」

二人は知らなかったようで、驚いた顔をしたあと、リュック様はほんの一瞬、狼狽したようだった。


「わたくし、実は渋滞に巻き込まれて、大幅に遅れてしまいましたの。もうオペラは観劇できませんわ、と落ち込んでいましたら、ドラテオ公爵未亡人様も同じく遅れて到着されていて」

ここまで、少し落ち込んだ声を出していたが、明るい声に切り替える。


「そんなすごい方だとは知らずに話しかけてしまいましたのよ。そうしましたら、公爵未亡人様が、『一緒に観劇しましょう』ってプラチナシートに誘ってくださったんですわ」


「それで伝言をお持ちくださったのですね。しかし、生憎ですが、この後用事があって」

リュック様が答えた。

確かに二人一緒の方が嬉しいが、ルアーナ様だけでもこの場に残ってくれれば怪我は免れる。


「ではルアーナ様だけでもいかがですか?バックヤードツアーの後は私がお送りしますわ」

ルアーナ様は、私の申し出に少し困ったようにリュック様を見る。


リュック様の目つきが一瞬だけ冷たくなったが、すぐに元に戻った。

きっと何かの合図だ。

「えっと、あの……」

ルアーナ様は考えあぐねているようだ。


「ドラテオ公爵未亡人様には後でお詫びの手紙を送ります。それでは急ぎますので」

リュック様はルアーナ様の代わりに答えると、ガラス製の扉を出て馬車の方へと向かっていった。


作戦は失敗だった。

人目があるので落胆した気持ちを顔に出さないようにして、カーテシーで二人を見送る。


ガラスの向こう側では、ラブラジュリ公爵家の馬車が、停車しており、執事が二人を出迎えていた。

あの執事は、乗馬クラブでも見た。

歩いているリュック様の靴を磨いていた執事だ。


今回も、歩くリュック様のスピードに並走してコートを着せている。

流石だわ。

でも、不思議な事に緑色のカバンは執事に渡さずにリュック様がずっと持っている。

普通なら、荷物を持つのは執事の役割なのに。

あの鞄には一体何が入っているのかしら?


じっと鞄を見ると、刻印が入っている事に気が付いた。

でも、それはラブラジュリ家の紋章ではない。

そんなに複雑な柄ではないわね。

紋章というよりマークだ。


うまくはいかないわね。

落胆しながらプラチナボックスに戻る。


「お二人をバックヤードツアーにお誘いしましたがダメでした」

小声でイステル氏に報告する。

「そうですか。何度もやってみましたが、渋滞の原因である事故処理も改善できませんでしたから。これはどうしても変えられない事なのかもしれませんね」

顔は笑顔だが、声からは真剣さが伝わる。

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