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数少ない友人のところへ

「まぁ!アビゲイル様、いらっしゃいませ。2週間ぶりですわね」


「2週間ぶり?そんなに最近お会いしたかしら?」

本当に思い出せない。

3日間を42回ループしているので(イステル氏の話によれば本当はもっとループしているらしいけど)、どれだけの時間が経過しているのかもうよくわからなくなっている。


「いつも突然いらっしゃるから予定表に記録をしていらっしゃらないのではありませんか?2週間前、この先の宝石商のところにいらっしゃった時に、『すごく待たされそうなの』と言って、我が家でお茶をされたじゃないですか」


「そうだったかしら?」

「相変わらずですわね、アビゲイル様。ふふふ」

フローラは楽しそうに笑う。


「その忘れっぽくて、自由なところがアビゲイル様のいいところですわ。私は引きこもりですから、いつでも歓迎いたしますわ」


フローラは本当に外に出ない。

でも知識だけは豊富なのだ。だから聞きたい事がある時にフローラのところに来る。


「今日はいらっしゃる気がしていたのです。小鳥がアビゲイル様のお名前を呼んでいたので」

「小鳥はピピピとしか鳴きませんわよ?」


「あら!アビゲイル様にはそう聞こえますの?小鳥はもっと沢山の事をおしゃべりしていますわよ」

皆から霊能力者と噂されるフローラは、楽しそうに笑う。


この不思議ちゃんな所が、ちょっとびっくりするけれど、慣れてしまえばなんて事ない。

聞き流せばいいんだもの。


「まずは。アビゲイル様、我が家自慢のスパークリングワインを今お出ししますわね」

「?なんでスパークリングワインですの?」

突然のワインの話に驚く。


「今日、どこかでスパークワインを飲む予定だったのではありませんか?でもお飲みにならなかったんですよね?」

「え? まぁ飲む予定だったといえばそうですが」


もしもあのまま結婚式に滞在していれば今頃はスパークリングワインを飲んでいただろう。

きっと普段着ないこのドレスを見て連想したのだろう。


フローラはこんな感じの事がよくあるけれど、私は気にはしない。

前もって私の気持ちを汲んでくれるから説明が不要だし、イライラする事はしない。


「ねぇ、フローラ様。『もしも』の話。いえ、『妄想だ』と言われればそうかもしれない仮定の話をしてもいいかしら?」

「もちろんですわ。興味深そうですわね」


「あくまで『架空』の話なんですけれども、ある女性が『同じ日々を繰り返している』んですって」

ここから大まかではあるが私の今置かれている状況を説明した。

イステル氏の事も、私の知っている限りの事を『架空の出来事』として説明する。


「アビゲイル様のお話によると、目覚めるのは馬車の中。そして、記憶を無くすのは、ホテルで、これをずっと繰り返しているのですね?」

「そう、そうなの」


「このお話の何処が問題なのですか?」

にっこりと笑うフローラから、びっくりする発言が飛び出した。


「どこって!殺されるのよ?回避しないと、その後の時間はやってこないわ」

「本当に殺されるのでしょうか?頭を強く打って、目覚める間に見ている夢かもしれませんし。ほら!まさに今夢の中」

フローラは立ち上がり、揺れるようにして不思議な動きで踊って見せる。


「えええ?夢オチ?これが?」

びっくりして立ち上がる。

「あら!アビゲイル様の事でしたの?」

楽しそうに口元を押さえてフフフと笑うので、私は顔が赤くなる。


「違うわ」

ゆっくりと腰掛けた。

なんだか狐に摘まれている気分だ。


「ですわよね?もしも夢なら、数回で目覚めているはずですわ。それに、アビゲイル様は非現実的な事を信じない現実主義者ですもの。でも、ひとつだけ言える事がありますわ」

真剣な表情のフローラはグッと顔を近づけてきた。


「お話の中の男性Eと、女の子Aは、二人ともほぼ同じ時間に『殺される』と感じるのであれば、その時間帯は一緒に過ごす事ですわね」


「……はあ」

それが出来るなら、お互いにお互いを助け合って、とっくにそうしている。

でも、できてはいない。


「二人で最大限の協力をしないと、ループは終わりませんわ。あと、お話に出てきた女の子Aですが、おバカですわ!」

「はあ?どこがおバカなのよ」


「好きな男性Lができて、ループの中で何回も出会おうなんて。女の子Aは、3日間のうちの2日間を一緒に過ごしていますけど、相手の男性Lからしたらループの度に出会ってるのは知る由もありませんわ」


「まあ、そうよね」

「男性Lの預かり知らないところで何度もデートを重ねて、勝手に気持ちが盛り上がって行くだなんて。冷静さを欠いていますわ」


「そんな事ないわ!至って冷静よ。でも、じゃあどうすればいいの?」

「男性Lは本当に自分を見てくれていますか?家名や家業、財産に目は眩んでいませんか?」


「それはないわ!ウチより……ゴホン!」

失言しそうになり…先払いでごまかす。


「Aの家よりも、家柄は上だし、資金的にも困っていなさそうよ」

「そうとは思えませんわ。ちゃんと冷静に見てください。あと、話に出てくる同じくタイムループを繰り返す男性Eさん。彼の方が実直で、絶対にいい人ですわ」


「そうかしら?キスするフリして揶揄ったりするのよ?」

「彼なりの表現ですわ」

「はぁ。違うと思いますわ」

「アビゲイル様が怒ってらっしゃるなら、仕返しも楽しいですわよ?手を貸しますわ」

ニコニコと笑うフローラを見て、私も笑った。

「私じゃ無いってば!」

誤魔化してももう遅いかも。

これはきっと私の事だってバレたわね。


「自分の見解も大切かもしれませんが、目で見た事実も大切ですわよ」

「目で見たことね。覚えておくわ」


「では、もう一つお伝えしないといけない事があります。宝石を持っている事をお忘れなく」

「宝石を持っているって!これがなんなの?」

「そう言われましても私にもさっぱり」

鼻歌を歌いながらフローラは答える。


宝石は常に身につけているわ。日常的だから忘れているのかもと思われているのかもしれないけれど、毎日つける宝石は変えているから忘れるなんて事ない。


「結った後の紐は使用済みですわ。弛んで擦り切れてしまってますわよ」

「それは運命の赤い後の事?」

この質問にも、フローラはフフフとしか答えなかった。

難解な事を言われて、頭が整理できない。

フローラって、ある意味『フローラ教』だと思うわ。

難解なアドバイスの事もあれば、簡単な事もあるけれど、相談するとすっきりするし、その通りにすれば意外と間違いない。

だから、フローラとお話をしたがる人は多いが、フローラは出不精で、あまり人と会いたがらないらしい。

私とは普通にしているのに。


難しい顔をしていると、フローラがお茶を差し出してくれた。

「それよりも、ドレス見てくださいませ。お兄様が数十着のドレスを買って送ってきたのですが、私のサイズとは違うドレスが数着混ざってますのよ」

ここから、フローラのドレスを見せてもらう事になり、ドレス談義が始まった。


誰にも言えなかったタイムループの事を、イステル氏以外にお話できて、少しスッキリした。

でも、私は至って冷静だ。

だから大丈夫。


次から次へとドレスを見ては二人で色々と議論しあう。

そして、「これに着替えてみて」と言っては、衣装替えを繰り返して楽しい時間を過ごしていた。


「あら!もう14時50分ですわ。アビゲイル様、急いでお帰りください」

ドレス談義の途中で、フローラが慌てて私を追い返す。


まただわ。

いつもと言っていいほど追い返される。

でも、それに従って帰る事が多分正しい。


そのまま長居していたら渋滞に巻き込まれたわねと安堵した事もあれば、帰路の途中で大事な用を思い出して事なきを得た事もあったから、帰れと言われたら急いで帰った方がいい。

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