2話 第5章 おとまり
食べ物の買い出しは分担することになった。ミアとサクラ、残りの三人という風に別れ、各自必要なものを買うことになった。そのほうが早く終わるだろう。サクラはミアとよくわからない食材売り場を歩く。
「ねえこれどう?美味しそうじゃない?」
「うーんわかんない」
見たことのない果物のようなものを指さされるが本当に何なのかわからない。リンゴなどと大して変わらない大きさだが、体が小さくなっているせいでとても大きく感じる。見た目もごつごつしていてあまり触りたくないような印象だ。
「わかんないよね。でもこれ美味しいから」
そういうとためらうことなくその果物のようなものを手に取るミア。カゴを下に置き、両手で一つ一つと計三つ籠の中に入れる。重くなったかごを両手で抱きかかえるようにして持つ。残念ながらミアよりも体が小さいため手伝うことはできない。無力だな、と感じる。
この世界の食べ物にも少しずつ慣れてきたように感じる。そんな食べ物問題よりも今重大な問題があった。再び物色のため歩き始めたミアにサクラが話しかける。
「・・・ねえ、ほんとうにお泊り会するの?」
「ん?するよ?なにか心配なことでもあるの?」
「うん・・・まあ・・・」
「チャーリーくん?大丈夫だよ。何かあったらカミラが止めてくれるから」
「そうなんだけどそうじゃなくて・・・その・・・おむつとか・・・」
「・・・・・・あーいわれてみたら。大体男の子のほうがおむつ外れ早いし、あの歳なら外れてるかも」
「違うって。みんなのおむつのこととか隠さないといけないんじゃないの?」
「ほんとだ。どうしよ。私だって恥ずかしいから秘密にしてるのに」
あれだけ公におむつが売っていたり、対策された服が売っている世の中でも自分がおむつなのがばれるのは嫌らしい。異性のことが気になる年齢だから仕方ないだろう。していても暗黙の了解のようなところがある、という風に感じている。
当然サクラも今は女の子の格好だ。ワンピースがめくれるのを心配していたように、同性はまだしも一応の異性には見られたくないという気持ちはある。だが今回はお泊り会だ。おむつが外れていない人間が三人もいる。決壊はしなくともにおいでばれてしまう可能性だってある。本当にいろいろ考えたうえでのお泊り会なのだろうか。突発だから何も考えていないというのが正解な気もする。
「とりあえずどこかで話し合いはしたほうがいいと思う。チャーリーさんのいないところで」
「・・・そうだね」
買い物を終わらせて残りの三人に合流する。カミラもレイラもミアの家は知っているのでわざわざ案内する必要もない。唯一の男子であるチャーリーに荷物を押し付けつつ家へと向かう。さすがに今おむつの話題を出すとばれてしまうので言い出せず、家についてしまう。
「・・・ごめん一瞬だけ片づけていい?」
突発のお泊りなこともあり、みんな了承してくれる。なぜかサクラも引っ張られながら家の中へと向かう。朝バタバタしていたこともあり多少片付けなければならない感じではあるが、それほどではない。
「・・・別に片付けるものなんてなくない?」
「おむつは先に隠しておいたほうがいいでしょ?」
「あ、そっか」
おむつ入れに入らないおむつなどはパッケージのまま放置されている。二人暮らしで二人ともおむつを常用しているので特に気にしなかったが、知り合いが来るとなると隠さないわけにはいかない。知られているとしても。
特に今回の場合、チャーリーがいるため、異性にみられるのは嫌だった。おむつも一応下着のようなものなのだから。棚に入りきらず諦めていた分はほかの棚のわずかなスペースや空っぽのカバンの中に押し込んで見えないようにする。空になったパッケージも見えないようにしてごみ箱に入れ、袋を縛って新しい袋に換える。最後に部屋の中を一回し確認して終了だ。扉を開け、三人を部屋へと向かい入れる。
「おじゃましまーす」
「来たことあるから場所とかは大丈夫だよね?チャーリーくんはわからなかったら誰でも聞いて」
「は、はい」
家主による大雑把すぎる説明も終わり、買ってきたものを冷蔵庫もどきに入れる。相変わらず仕組みが理解できない。まあそういうものなのだと割り切っている。女子四人でキッチンに立ち、チャーリーだけを部屋にいったん放置する。当然話したいのは例のことだ。
「・・・相談し忘れてたんだけどおむつどうする?」
「あ。完全に忘れてた。女の子だけなら何も気にしないけどチャーリーくんいるもんね。どうしよ。つけるときとか隠すしかないし、朝は先に起きるとかしか対策ないんじゃない?」
「私きょうおむつ持ってくるの忘れてた。私もう夜だけだから家にしかおむつないや・・・」
そう言いだしたのはレイラだった。レイラもおむつという衝撃の真実。これに対してはミアもカミラも初耳だったらしい。
「そうなんですか?今から取ってきますか?」
「ん~本当はそうしたいんだけどもう暗いし、ミアちゃん、いつも使ってるのでいいから貸してくれない?多分ギリギリ穿けると思うから」
「私は別に大丈夫ですけど・・・サイズとか量とか大丈夫ですか?」
「多分大丈夫。普段はパッドとか使わなくても大丈夫だから。サイズはもう頑張る」
「大丈夫ならいいですけど・・・とりあえずみんなでおむつバレないようにするということでいいですか?」
「うん」
「心配だけどまあ・・・頑張るしかないよね。みんなで協力しよう」
「はい」
不安しか残らないがドキドキのお泊り会がスタートする。
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ごはんは相変わらず見た目が新鮮な料理だった。だがこれも何度か経験しているうちに慣れてきたような気がする。他の人と変わらず何らためらいなく食べ始める。幸い、味に抵抗がなくて本当によかったと思う。食事が苦だったらこの先生きていける気がしない。女の子としての生活はもう慣れてきた。ただ自分の体を直視することも、下着を見る勇気もまだ何もないが。動きは慣れてきた。
四人で仲良くご飯を食べ、カードゲームをして食後は過ごす。トランプみたいなもので、ルールも説明してもらえたため何とか混ざることができる。カードが記号表記で分かりやすいのが大きな要因だろう。
ただ楽しい時間が過ぎていく。だが試練の時間はだんだんと近づいてくる。ミアが風呂を沸かしに行き、順番に入ることになった。当然チャーリーは最後だが、サクラとミア、レイラとカミラのペアで入ることになった。サクラが他の人と一緒に入るのは嫌だろうという配慮と、単純に風呂が狭くて二人ずつが限度だからだ。先にミアとサクラがゲームを抜け、脱衣所へと向かう。
「ゲーム楽しかったね。やっぱりみんないるとにぎやかで楽しいし」
「うん。色々教えてくれたりしてありがと。楽しかった」
「どういたしまして」
服を脱ぎ、キャミ―ソールとおむつが露になる。これも何度目かなので慣れた。おむつをめくって確認するが仲はまだ真っ白。まだ汚れてはいない。もったいないので捨てずに取っておくことにする。ミアはわずかに染みてほんの少しだけラインが青くなっていた。力を入れたときにでも漏れたのかもしれない。汚れているため、こちらはテープで丸め、ごみ箱に入れる。下半身がなにも隠れない状態だが、見なければそこまで気にならない。
「風呂上りはいつものテープでいいよね?」
「うん。パンツタイプじゃ吸収量少ないし、私たくさんしちゃうから・・・」
「じゃあ私もそうしようっと。昨日とおんなじで付けあいっこね」
「うん。うまくする自信ないけど」
「大丈夫だって。慣れるから」
おむつに慣れたくないというのが現実だが、昼夜おむつの人間が何も言えたことではない。上も脱ぎ、一緒に風呂に入る。今気づいたが、少し胸のあたりがチクチクするような気がする。これが何かは分からないが、もし続くようならサクラに相談しようと思った。
昨日と変わらず洗いっこをする。小さくすべすべな手で体を触られるのはいまだに慣れない。それでも自分では手が届きづらいところまでしっかり洗えるのでそれは大きいメリットだろう。男の体とは感覚が違う。
風呂上りはタオルで体を拭き、寒くないように床にタオルを敷いてテープタイプのおむつをつける準備をする。おむつを広げ、その上に寝転がり、慣れた手つきでサクラにおむつをつけてもらう。ギャザーが立っているかの確認で足回りを指で確認されるのがすごく恥ずかしい。最後はおむつの正面部分を軽くぽんぽんと叩かれて終了だ。テープタイプのおむつになると一気に赤ちゃん感が増す。カミラからもらったおむつにおしっこサインがなく、このおむつにはあるのも大きな要因だろう。
パジャマを着る。やはりパンツタイプよりも膨らみが目立つような気がする。特におしり部分。股下からおしりにかけて明らかに膨らんでいる。この部分でおしっこを吸収しますという感じの主張が感じる。チャーリーにバレないか不安でしかない。
次はサクラがミアにおむつをつける番だ。ミアがおむつの上に横になり、言われるがままギャザーを確認しながらおむつを持ち上げ、偏らないように置き、テープを順番に止めていく。力加減はまだわからないがそこはミアが細かく教えてくれる。何とかおむつをつけることに成功する。
「あ、ちゃんと最後にギャザー確認してね」
「えー」
ギャザーの確認は漏れないようにするうえで大事なのは分かっているが、ミアの足の付け根を指で触れるのに少しばかりの抵抗があった。おむつをつける時ですら、極力体に触れないように意識して避けているというのに。
「ほら、こうやるの」
ためらっているとミアに手をつかまれ、そのままギャザーに指を入れさせられる。
「ちょっ」
「そんなの言ってたって仕方ないでしょ?私だし恥ずかしがらなくていいから。これも練習だと思って。ね?」
「う、うん」
極力触覚から感覚を離しながらミアのギャザーを確認していく。このひと手間で漏れにくくなるのだ。やらない手はないだろう。人のをする自信はなかなかないが。
ミアもパジャマを着る。同じおむつなので同じようにおしりが大きく膨らんでいる。ただサクラと違うのはパジャマの密着度だろう。サクラはミアのパジャマを借りているためサイズが少し大きい。そのためおむつのふくらみも生地の余裕で目立ちにくい。一方ミアはパジャマもジャストサイズなのでサクラよりもおむつが目立つ。これ以上は上のパジャマで隠すしか方法はないだろう。あとの三人のためにパジャマとタオルを出しておく。忘れないようおむつも。どこにしまってあるか分からないはずなのでタオルくらいは出しておいた方が親切だろう。
タオルを首から下げ、二人に風呂を譲り、チャーリーと三人でゲームを再開する。しばらくしてカミラとレイラも風呂から上がってくる。カミラはパジャマのサイズがあったようだが、さすがにレイラには合わなかったようで来た時と同じ服を着ている。当然ながら二人とも不自然におしりが膨らんでいる。
「・・・サイズ大丈夫でした?」
少し心配していたミアがレイラに聞く。一応出しておいたのはテープタイプのおむつ。テープタイプなので若干の体格の差はどうにかなるだろうという判断だ。夜用のおむつがこれしかないというのもあるが。
「・・・なんとか。ありがと」
「いえいえ。カミラは?」
「私はちょうどかな。私も借りたよ。ありがと」
「・・・みんな何の話してるの?」
「ひみつ。女の子には女の子の秘密があるんだから聞いたらダメ」
カミラがチャーリーをけん制する。察したのかカミラに言われたからかは分からないがそれ以上チャーリーがこの問題について聞いてくることはなかった。
チャーリーに最後の風呂を譲り、女子四人でゲームの続きをする。男の子がいないからこそできる話もある。
「やっぱりちょっとおしりが膨らんでるよね?ばれないかな?」
「ん~チャーリーも頭悪くないからあえて聞いてくることはないと思うよ。多分だけど。さすがに女の子のおしりを意識してみたりはしないと思う」
「さすがにそうだよね。暗黙の了解みたいなところあるもんね。おむつは」
「そうそう。案外チャーリーもおむつ穿いてたりして。それかおねしょするのにおむつがなくて今頃パニックになってるかもよ?」
「いや~男の子でしょ?もうおむつ取れてるでしょ~ほんと羨ましいよね。おむつ外れ早くて」
「ほんと。匂いとかふくらみとかいちいち気にしないといけないことが多いもんね。私も早くおねしょ卒業したい―」
「ねー。大人になる頃には治るといいな」
「そうだね」
などとチャーリーがいないからこそできるおむつの話が弾む。みんなおしりにはふわふわのおむつを穿いている。大人にしか見えないレイラですら。みんな同じテープタイプのピンク色のおむつを穿いているのだ。おねしょ対策として。この中の何人が明日おねしょで黄色の線を青く染めるだろうか。まだ誰にも分らない。
話が盛り上がってきたタイミングでチャーリーが風呂から上がる音が聞こえてくる。男の子は風呂から上がるのが早い。サクラは気持ちがわかる。
そしてチャーリーが脱衣所からひょっこりと顔を出して手に持っていたものをみんなに見せていった。
「・・・あの・・・これ、おむつですか?」
直後、四人の表情が固まった。




