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サクラのかくしごと  作者: 華点
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2話 第3章 ひるやすみ

 衝撃の事実だった。ミアよりも年上で頼りになる先輩がおむつをしていたという事実に驚きを隠せない。それでもこの状況から考えるに嘘ということはありえない。

 ただ立っているわけにもいかず、トイレをスルーして奥のロッカールームへと向かい、汚れないように先にエプロンを脱ごうとする。しかし着るときにも苦戦したように脱ぐときも苦戦し、結局はカミラに脱がしてもらう。あとはロッカーに入っていた替えのおむつとウエットティッシュを取り出し、準備は完了。

「あ、私のも持ってこなきゃ」

 そういうとカミラは自分のロッカーへと戻り、がさごそと漁って同じようなおむつとウエットティッシュを持ってくる。どうやらおむつが外れない人はこれが固定装備のようだった。

「・・・・・・あの、これどうやっておむつ替えればいいんですか?」

 サクラは純粋な疑問をカミラにする。さすがにおむつ交換を人に頼むわけにもいかないが、制服を汚さないように交換するには両手でスカート部を持ち上げておくか、完全に脱ぐ必要がある。前者は一人では不可能で、後者はただのおむつ交換にしては大掛かりで、他にいい手があった場合に恥ずかしい思いをする可能性があった。

「え、せっかく二人いるんだし、自分の服支えながら交換してもらった方がはやくない?」

 だがカミラはなにも気にしていないようだった。良くも悪くもカミラのふわふわとした性格が出たような気がする。同性(今は)だからいいとか年齢が近いからとか、そういうのは関係ないがさすがにこの提案はいかがなものなのか。

「でもさすがに拭くのは恥ずかしいですよ」

 そうサクラが言うと「それもそうだね」と理解を示してもらえる。ということで服を支えてもらっておむつを脱ぎ、綺麗にするまでを自分でしておむつを穿くのは自分でということになった。綺麗になれば服がすれても大丈夫という判断で。

 先に着替えるのは年下から、ということでサクラから。まさか人生で女体化してワンピースを着るというほぼ不可能な体験をした翌日にそれを他人に持ってもらうという経験をすることになるとは。歴史上初かもしれない。

 妙な恥ずかしさがある中後ろから支えてもらい、カバーパンツを下ろしておむつのサイドを破いておむつを外す。さすがに我慢していただけあってか膨らみ方は中々だった。テープで止めて横に置き、汚れたところをウエットティッシュを使って綺麗に拭いていく。それを後ろから見られていると思うとなかなか進まないが何とか終わり、新しいおむつに足を通す。今度こそ使わずに済むといいのだが。上から少し湿っぽくなっていたが、カバーパンツを履いたら終了だ。おむつはトイレのごみ箱に入れ、次はカミラの番になる。

 最初こそ恥ずかしそうにしていたカミラだったが、作業自体は慣れているようで非常にスムーズだった。さすがに少し気になってしまうおむつだが、同じピンクのおむつで、種類が違うのか濡れた時に色が変わるラインはついていなかった。目に見えて漏らしてしまったのが分かるサインは恥ずかしいのでないのは少し羨ましいと思った。

 膨らみ方はサクラの方が小さかったので謎の優越感を少し感じたが、漏らしてしまっている時点で同じなのでどうにもならなかった。

「手伝ってくれてありがと。二人に迷惑かけちゃったし、すぐ戻ろっか」

「はい!」

 おむつを替えるのを手伝ってもらったお礼を言いたかったが、完全に言うタイミングを逃してしまった。あとからでもいうタイミングはあるだろう。今はまずそれどころではなく、仕事をこなさなくてはならない。手を洗って売り場へとつながるドアへと急ぐ。


 ♢


 おむつ交換を終え、売り場に戻るとミアとレイラがあらかたお客さんをさばき終えていた。残っているお客さんの対応や、ピークで売れた商品の補充などを行い、昼休憩の時間になる。昼休憩といっても店をいったん閉めるわけではないので、二人ずつ食事をとるということだった。

 サクラはミアが全く昼食の心配をしていなかった関係で、何も考えていなかった。この世界で使える通貨も何も持っていない。

「あの・・・私、昼ご飯持ってきてなくて・・・」

「うん。そうだと思ってた。大丈夫」

 昼休憩は先ほど迷惑をかけたということでミアとレイラが先ということになり、二人とも一旦裏に荷物を取りに行き、表からどこかへと出かけていく。もちろん店にはサクラとカミラだけ。

 先ほどのこともあり、どう話しかけていいのかわからない。昼時ということもあり、お客さんもばったり来なくなる。仕事も言われていたことがすべて終わり、やることが無くなってしまう。ただ立っているわけにもいかないのでカミラに次の仕事をもらいに行く。

「言われた仕事終わりました」

「ありがと。お客さんもいないし、今は休んでて大丈夫だよ。初日だし、色々疲れたでしょ?」

「はい。・・・あ、さっきはありがとうございました」

「うん。お互い様だし、あんまり気にしなくていいよ。あの二人に迷惑かけちゃったし、あとからあの二人にも謝っておこうか」

「はい」

「昼ご飯は、私のおすすめのお店があるから後から一緒に行こうね。私の方が先輩だし、お金のことは心配しなくていいよ」

「ありがとうございます」

「ミアの妹さんって聞いてるけど、いろいろ気になることもあるし、昼ご飯のついでにいろいろお話しようね。楽しみにしてる」

「はい・・・」

 いろいろ気になること、その一言が心に引っかかる。今はミアの妹のように生活をしているが、もちろん血のつながりもない。おかげにこの世界の文字も読めない、となると気になるのも当然だろう。どこまで嘘をつけばいいのか、すべて言ってしまった方がいいのか分からない。どうしても真実を告げた後の恐怖感がやってきてミアにのしかかる。

 恐怖を覚えつつも何もすることがないまま昼食の休憩になる。ミアがお金をサクラに渡そうとしていたのをカミラが止め、「おごりだから」と告げる。

 一旦裏に戻り、二人とも会わない大きな片掛カバンを手にして店を出る。


 たどり着いたのは商店街の端の方にあるとある飲食店。文字が読めないので何屋かは分からないが、繁盛していることを考えるとそれなりに人気のあるところなのだろう。

 中が騒がしく、レイラくらいの歳の人も含めたいろんな人がいる。視界が下から見上げることになるので人に対する恐怖心も大きい。小さい子供はこのような気分だったのだと今ならわかる。

 端の席に座り、メニューを見る。当然文字だけで何が書いてあるのかさっぱりだ。

「どうしようかなーって思ったけどサクラちゃんわかんないよね。私のおすすめでいい?嫌いな食べ物とかある?」

 この世界で通じるのかは分からないが食べられないものをいくつか告げる。当然首を傾げられる。

「・・・まあ、私が知らないってことは大丈夫ってことだよね。すいませーん」

 カミラが店員を呼ぶ。大人が少し店内にいるだけで自分たちが場違いに思えるが、周りが何も気にしていないところを見るとこれが日常の風景なのだろう。

「注文をお伺いします。あ、カミラじゃん」

 いかにも知り合いそうな声が聞こえ、その店員の方を向く。カミラと同じような歳の男の子だった。いわゆる『幼馴染』というやつなのだろうか。この世界の感覚が分からないので何とも言えない。

「どーも。あ、注文なんだけど、いつもの二つね」

「あのさあ・・・毎回『いつもの』って頼むけどさ、俺以外わかんないだろ?あとそんなに通ってないのにいうな」

「いいでしょ?それでちゃんと通じたんだから」

「それ言われたらな・・・そちらの方は?」

「いつも一緒に食べに来てる、ミアって人がいるんだけど、その人の妹さん。今日から一緒に働いてるの」

「へえ。初めまして。僕はチャーリー。よろしく」

「は、初めまして。サクラです。よろしくお願いします」

「うん」

 そうチャーリーと名乗る少年が名乗ると、注文を確認して戻っていく。受け答えは何とかうまくいったような気がする。

 しばらくすると料理が運ばれてくる。何なのか相変わらずよくわからないがカミラを見ながら食べる。美味しいことには美味しかった。


 しばらくして食べ終え、雑談が始まる。昼休憩なのである程度の時間で戻らないといけないような気もするのだが・・・サクラからは言えるわけがない。

「食べ終わったし、周りの人も少なくなったからこれで話しやすくなってよかった。で、最初の相談というか聞きたいことなんだけど――」

 ごくりと唾をのむ。いったいどんな質問が来るのか。

「・・・おむつさ、何使ってる?」

「ふぇ?」

「だってさ、あんまり聞けないけどそれぞれ蒸れたりとかするから色々情報交換とかしてさ、快適に使えたらいいなって」

「そ、そうですね。でも私ミアに全部選んでもらっててよくわかんなくて・・・」

「あーそっか。文字分かんないし商品名聞くのも無理だよね。どんなやつ?」

「今穿いているのがピンク色でライン付きのやつです。夜はそれのテープ版です」

「あーなんとなくわかった。私のラインないやつだ」

「多分そうだと思います。ミアも今同じのを使ってます」

「お揃いなんだ」

「はい。サイズもカバーできる範囲なのと、種類揃えると買い足すのとかが大変っていうのもあるので」

「そうだよね。服数人いたらどうしてもね。ほんとに、膨らんでもサインついてないだけで全然気分楽になるから、次からついてないのでもいいかもよ?ミアに聞いてみたら?ミアそういうの気にしなさそうだもんなあ」

「?そうなんですかね?私にはわかんないです」

「使い心地とかはどう?」

「柔らかくて穿きやすいですし、今まで漏れたことないので優秀(?)何だと思います」

「それはいいね。あ、戻ってから一枚ずつ交換してみる?お互いの使い心地とか体験ってことで」

「・・・私だけじゃ決められないので・・・ミアがいいっていえば」

「うん。私から聞いてみる」

「あ、はい」

「・・・本当は聞きたいけどさ、出身の話とか聞かれたくないでしょ?人それぞれ色々あると思うし、みんな楽しいだけの人生じゃないから」

「!」

「だからさ、私からは絶対に聞かないし、レイラさんも賢いからそうだと思う。だから安心して。それじゃどうしても落ち着かなくなったときは、聞くし、絶対に秘密は守るから」

「ありがとうございます」

「・・・じゃあそろそろ行こっか。あの二人に『遅い!』って怒られちゃいそうだし」

「そうですね。行きましょうか」

 わずかな笑みを浮かべながら席を立ち、会計を済ませる。もちろんレジはチャーリーだった。なぜか最後、「またきてね」とサクラだけに告げられる。サクラは何も考えずに満面の笑みで「はい!」と答える。あのチャーリーの言葉の意味は何だろうか。カミラがぶつぶつ何か言っていたのはなぜだろうか。

 自分にはまだ経験が足りない。それがすべてだ。今後、様々な経験を通じてできること、わかることが増えたらいいなと思う。


 ――当然だが戻ると「遅い!」と注意された。これも一つの経験だろう。

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