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国東零音は褒められたい  作者: KanaMe
24/32

第23話 お姉ちゃん

力不足感は否めないですが、やっと描きたい部分が描けました。

よろしくお願いします。

国東(くにさき)家】【玄関】


 15時17分。玄関のドアを開くと、彩音さんが優しく微笑みながら佇んでいた。ずっと待っていてくれたのだろうか?「ただいま…です。」とぎこちなく私が言うと、花が咲いたような笑顔で「おかえり!」と返してくれた。


「ちょっと遅かった?何かあった?」

「少し…。寄り道をしてました。」

「そっか…。」


 どことなく歯切れの悪さを感じる。彩音さんの目を見ると明らかに泳いでいるのが伺えた。テストの結果が気になって仕方がないのだろう。無理もない話だけれど。


「あ、あの…。」

「うぇ!?な、なに!?」

「これ…。」


 私は鞄から先ほど受けてきたテストの結果が書かれたプリントを取り出して、彩音さんに手渡した。彩音さんは理解が追い付かなかったのか、キョトンとした顔つきで受け取ると、しばらくしてハッと我に返り結果に目を通し始めた。結果に目を通す彩音さんの横顔は、先ほどまでとは違い真剣そのものである。時間にして3分ほどだろうか。黙り込んでいた彩音さんは、プリントから目を離さずに口を開いた。


「…零音(れおん)。…これ。」

「…。」


 何故だか私は緊張していた。それも相当に。鼓動が高まるのを感じる。結果は満足のいくものだったけれど、もっと良い点が取れたのではないだろうか?今更そんな思いが頭を巡る中、彩音さんはプリントから目を離し、私と目を合わせた。


「すごい…!すごいよ零音!全教科合格点より遥かに点数が取れてる!」


 先程見せてくれた花が咲いたような笑顔。いや、それ以上の喜びに満ちた笑顔で彩音さんは続ける。


「数学も理科もちゃんと取れてる!国語なんかほとんど満点じゃん!」


 自分の事のように喜んでくれる彩音さんを見ていると、何だか胸が温かくなるのを感じた。


「よく頑張ったね。零音。」

「…。」


 いつ以来だろうか。期待されたのは。そして、その期待に応えられたのは。彩音さんの言葉が胸に染みるのを感じる。気を抜けば目から熱いものが零れてしまいそうだ。もっと褒めてほしい。何だか自分が自分でなくなるような感覚に襲われながらも、視線を彩音さんへと向ける。が、彩音さんの様子は先ほどと違い、何か思い詰めているような顔つきであった。


「…彩音さん?」

「うん?…。」

「どうか…しましたか?」

「うん…。ちょっとね。」


 思い詰めているというよりは、何か覚悟を決めているようにも見える。ほんの数瞬の間、私たち以外この世界には誰もいないんじゃないだろうかと思うほどの静寂が訪れた。お互いの吐息どころか、心音まで聞こえてきそうなほどの静寂。すると、小さく息を吸った彩音さんが「よし。」と呟いた。


「零音。私、零音に謝らないといけない事があるの。」

「…謝らないといけない。…事。…ですか?」


 何だろう。謝らないといけない事って。再び鼓動が早くなるのを感じる。先程とは違い、今度の鼓動の速さは不安によるものだ。不快な胸のざわつきを抑えながら、彩音さんを見る事しかできない。


「…とりあえずリビングに入ろうか。」


 そう言うと彩音さんは神妙な面持ちで、リビングの扉を開いた。


「…来て。」


 言われるがまま、私は恐る恐るリビングへと入る。目に飛び込んできたのは、いつもに比べて特に変わった様子の無い食卓。ここから直接は見えないけれど、台所からも何か変わった様子は伺えなかった。


「零音。」


 名を呼ばれ、振り向くと彩音さんが佇んでいた。視線は下を向いているが、意識はこちらに向けられているのを感じる。よく見るとなんだか頬が赤くなっている?下方へ向けられた視線が分かりやすく右往左往しており、彩音さんから緊張が伝わってくる。何だか映画やドラマでみる告白シーンのようだ。


「…彩音さん?」


 私の声に反応し、ゆっくりと彩音さんは私と目を合わせる。今更だけれど、綺麗な顔だなと思う。小さな顔に散りばめられたそれぞれのパーツは、どれも人形のように整っており、こうしてまじまじと見ると余計に非現実的な美しさだと思えてくる。まるで魂でも奪われたかのように魅入(みい)っていると、彩音さんの視線が何かを訴えているのに気が付いた。ゆっくりと動く視線の先を辿ると、そこにあったのは懐かしくも苦い私の過去であった。


「こっ…れは…。」


 突然視界に飛び込んできた私の過去に思わず力が抜けて、私はその場に崩れ落ちてしまった。




律明大付属(りつめいだいふぞく)】【柔道部】


 15時30分。午後の部活も半ばを迎えて、部員それぞれに疲れの色が見え始めた。早朝から続く練習のラストスパートに向けた最後の10分休憩。私は武本先生から教えてもらった情報を届けるために香川さんを探しているのだけれど、当の香川さんはお手洗いにでも行ったのか姿が見えなかった。


大和(やまと)先輩。倉敷(くらしき)先輩。香川さん見ませんでした?」

「香川か?私は見ていないな。」

「ショコたんなら休憩に入った途端に道場から出ていったよ~。」

「そうですか…。せっかく国東さんのこと伝えようと思ったのに。」

「テストの結果か?」

「おぉ~!レオちんのテストどうだったの~?」

「それが聞いてくださいよ~。」


 私は先生から教えてもらったテストの点数を二人に話した。


「そうか…。無事合格できたんだな…。」

「レオちんすご~い!ユーミンより点数高いんじゃないの~?」

「そうなんですよ~。確認テストだし適当でいいやって流してたらこの様ですよ!」


 国東さんの合計得点は恐らく学年内の順位で言えば一桁台だろう。再テストの前の順位は知らないけれど、急な伸びに職員室の先生方はみんな驚いていた。


「次の定期考査は負けないように頑張んないと!」

「ユーミンファイトだよー!」

「…。」


 眉間に皺を寄せて、黙る大和先輩が考えていることは恐らく、国東さんが柔道部に戻ってくるかどうか。と言う事だろう。それを察したのか倉敷先輩は、大和先輩の顔を覗き込み思いっきりほっぺたを鷲掴みにした。


「隙ありー!」

「ふぎゅっ!?」


 不意打ちを食らい、可愛らしい声を上げた大和先輩。それを見て笑う倉敷先輩。いつもならツッコミを入れる香川さんや無表情な国東さんなど、私の隣にも居るはずの面々がいない事に、少し寂しさを感じる。


「二人とも安心しなよ~。レオちんは…。」

「戻ってくるっすよ。」


 いつの間にか道場に戻ってきて、不自然に柔軟運動をしている香川さんが言った。こちらを見てはいなかったけれど、彼女の背中からはやる気がこれまで以上に満ちているのが見えた。


「つーか戻ってきてアタシと本気で柔道を取らなきゃ許さねえ。」

「…あぁ。そうだな。いつ国東が戻ってきてもいいように今は練習に集中しよう。」

「だね~。レオちん早く帰ってこないかな~。」

「というか香川さん。あなたも今回の国語結構不味かったんでしょ?勉強の方も頑張んないとヤバいんじゃない?」

「あ?平均点は取ってるからいいんだよ。アイツみたいにいきなり満点近く取る必要なんてないだろ。」

「あれれ~?ショコたん何でレオちんが満点近く取ったの知ってるの~?」

「は?いや、それは…。」

「私が国東さんの点数の話してる時は居なかったわよね?」


 みるみるうちに耳が赤くなっていく香川さん。すっと立ち上がる。恐らくは逃げようと思たのだろうが、倉敷先輩が回り込む方がはるかに速かった。


「もしかして休憩時間になった途端にいなくなったのは、レオちんのテストの結果を聞きに行ってたから~?」

「う~わ何それ可愛い~。香川さん。あなたどんどん可愛くなっていってるわよ!」

「う、うるせええええ。寄るな聞くな近づくなああああ。」


 騒ぐ私たちを遠めに見ていた大和先輩のため息が聞こえたような気がした。




【国東家】【リビング】


 15時33分。その場に崩れた零音は、リビングの一角に設けたトロフィーやメダル。賞状と言った零音のこれまでを飾った棚を眺めて、茫然としていた。私が踏み出した一歩。この一歩は、これまでより確実に深く、深く零音の中に踏み入った。傷つけてしまうかもしれない。だけれど。それでも踏み出した。だって私は…。


「ごめんね。零音。勝手に部屋に入って段ボールごと持ってきたんだ。」

「…。」


 零音は何も答えない。怒っている訳ではないと思う。ただ、理解が追い付いていないように見えた。この言葉は届いていないかもしれない。だけれど私は続ける。零音はテストの点で応えてくれた。今度は私が応えないと。


「段ボールの中身が凄く沢山あってびっくりしたよ。重くて一人で降ろすの大変だったんだ。」

「…。」

「あのメダル。段ボールに入ってた中で多分一番古い大会の参加賞だよね。その隣の銅メダルは一年後の市民大会の3位の記念。たった一年で上位入賞したんだなって驚いちゃった。それであのトロフィーは…。」


 私は一人続ける。零音の過去に触れて、私が思った事。感じた事。ゆっくりと零音に語り掛けた。


「まだまだあったんだけど、これから先の事を考えて全部は飾れなかったんだ。」

「…これから?」

「…うん。これから。」


 私は棚に近づくと真ん中で一際目立つ大きなトロフィーを手に取った。


「これが、段ボールの中にあった最後の零音の記録。」

「…。」


 そう。これこそ彼女が無敗の女王東条響(とうじょうひびき)との激闘を演じ、全国に名を(とどろ)かせ、そして心から柔道を楽しめた最後の大会のトロフィー。私は元の位置のトロフィーを戻すと再び零音へと視線を向けた。


「これから先の記録はこの段ボールには無かったよ。」

「…。」

「だから、これから先を始めたいんだ。」

「これから先を…始める…?」

「うん。二人で!」


 私は未だ崩れたままの零音に近づいて彼女の顔をそっと抱きしめた。


「…ずっと一人で頑張ってたんだよね。」


 トロフィーやメダル。彼女の過去に触れて分かったことがある。それは、彼女は一人ではなかったこと。彼女を支えてくれる人。美音(みおん)さんがいつだって傍にいた事。だけれど、あの夏の決勝戦の後、零音は一人になってしまった。


 弦さんと零音は本当によく似ている。お互いがお互いを傷つける事を恐れて、弦さんは仕事へ、零音は柔道へと没頭することで悲しみや寂しさを誤魔化そうとしていたのだろう。けれど、誤魔化そうとすればするほど、大好きな柔道への後ろめたさは募っていく。大好きな母と二人三脚で頑張ってきた柔道が、いつしか母を忘れる為の物へと変わっていたんだろう。


 零音が柔道で本気を出すのが怖いのは、大切な事を忘れてしまうからではなく、大好きだった母を思い出してしまうからだと、私は気が付いた。


(だけど…。零音は歩むのを止めなかった。)


 立ち止まる理由はいくらでもあっただろうに。美音さんとの約束を守るため。弦さんに心配をかけないため。幼い少女はずっと、ずっと一人で歩み続けてきた。先の見えない暗がりも、道の無い行き止まりもあっただろう。それでも彼女は歩み続けた。きっとそれは、美音さんが掛けてくれた魔法を信じていたからだ。


「これからは楽しい事があったら一緒に笑おう。嬉しい事があったらたくさんお祝いしよ。」


 零音の寂しさも、悲しみも私には理解できた。それは私も通った道だったから。だけど、私は周りの大人たちに助けてもらって、親友に支えてもらって、母と共に乗り越える事が出来た。だけど零音は、彼女のは一人でいた。母の掛けてくれた魔法を信じ、いつの日にかガラスの靴に出会えると信じ、一人で歩み続けた。きっと手を差し伸べてくれた人はいただろう。けれど、彼女は一人で…。


「零音が辛い時は、頼りないけど私が支える。だから、私が寂しい時には傍にいてね。」


 弦さんに託された役目。美音さんが零音に掛けた魔法。ガラスの靴に私がなれるとは思わない。


「もう一人じゃないからね…。」


 美音さんが思い描いたガラスの靴にはなれないかもしれない。いや、なる必要はないんだ。だって私は…。


「国東彩音は零音のお姉ちゃんだから。」

やっと描きたかった部分が描けて満足…!

ただ物語はもう少しだけ続きます。

来週もよろしくお願いします。

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