第22話 軌跡
ちょっと短いです!
と言うのも、書きたいことが多すぎて纏めきれそうになかったので分けちゃいました。
個人的に今回のお気に入りのシーンは前回に引き続き、律明大メンバーのやり取りです。
よろしくお願いします!
【国東家】
09時40分。零音を送り出してから2時間ほど経つ。そろそろ一教科目のテストが終わる頃だろう。見直しはちゃんと出来たかな?分からないところで躓いてないかな?とは思いつつ私はあまり心配をしていなかった。リビングの片づけをしながら今夜の献立を考える。
(この前流れちゃったから今夜はすき焼きかな。)
前回お母さんたちが帰ってきた時は、零音との話し合いの後すぐに会社に帰ってしまった。すき焼き用に買ってきたお肉はその日、肉巻きおにぎりにしてしまったから後でまた買いに行かないと。
(今夜はやっとみんなでご飯を食べられるしね。)
先日弦さんを訪ねた際、今夜の夕食を家族みんなで食べる約束をした。皆でご飯を食べるのは本当にいつ振りだろうか。前回流れちゃった分、今日はより一層腕を振るわなきゃ。今日の予定を考えているといつの間にやらリビングの片づけが終わった。
「…さて、と。」
二階へと上がる。零音の部屋の前に着くと、私は深い深呼吸をした。
「…勝手に入ってごめんね。零音。」
私は一人謝ると、ドアノブに手をかけた。
【律明大付属】【2-1教室】
12時50分。チャイムと同時に松坂先生の「そこまで~。」という野太い声が教室に響いた。後方の席の人が回答用紙を回収していく。回収される前に私は自分の解答用紙に目を通す。午前中最後のテストは苦手な数学であった。けれど彩音さんに教えてもらった通り、少しでも分からないと感じた問題は飛ばして次の問題に取り掛かった。結果として空白は二つだけに抑える事が出来た。
(…うん。これなら。)
回答出来た問題の殆どはたぶん合っている。最初に飛ばしてその後解いたものに関しては、いくつか自信の無いものもあった。けれど合格点には届いていると思う。回答用紙を手渡した後、私は胸を撫で下ろした。
ふと辺りを見渡すと、再テストを受けた生徒はそれぞれに違った反応をしていた。後ろの生徒と話し始める者。天を仰ぎ見る者。お弁当を持って教室の外へかけ出て行く者。再テストを受けた生徒の殆どは見覚えのある顔。同じスポーツ推薦組の生徒であった。
(…お弁当食べよう。)
机の上を片付けてお弁当を広げる。いくつかの視線を感じながらも、既に私の意識の大半はお弁当へと向けられていた。
「いただきます。」
手を合わせ、小さく呟く。先ずはお箸で唐揚げを一つ掴む。お弁当用に一口サイズにされている唐揚げを、丸々口の中に放り込む。噛むと柔らかい鶏肉の繊維が一つ一つ解けていくのが感じられる。その隙間から旨味が溢れ出してきた。唐揚げは揚げたてのサクサク熱々も、お弁当に入っている冷めてしっとりしているのもどちらも大好きだ。
唐揚げを頬張りながらお弁当全体を眺める。唐揚げ。卵焼き。ほうれん草の胡麻和えにタコさんウインナー。その他にも私の好物ばかりが敷き詰められていた。
(午後も頑張ろう。)
元気をもらった私はお弁当を楽しみながら、意識は午後のテストへと向けた。
【律明大付属】【柔道場】
12時54分。朝から続いた厳しい練習も、やっと休憩の時間となった。いつもより遅い昼休憩。アタシは学食へと向かうため道着を脱いで、ジャージへと着替えていた。4月もすでに後半とは言え、夏はまだまだ先なのに既にインナーは汗でドロドロであった。
「香川さん。お昼なんだけど。」
「分かってるよ。先に行って席取っといてくれ。」
「違う違う。2-1の教室で食べない?」
「はぁ?なんでだよ。」
アタシ達の教室は2-2。自分たちの教室で食べるのならまだしも、何故隣の普通科の教室なんだ?アタシの疑問に答えるように森川は続けた。
「今日って国東さんの再テストの日でしょ?一人で寂しいんじゃないかなって。」
「…知るか。」
森川の提案に、少し間をおいて私は答えた。
「えー…。冷たいなぁ。」
「うるせぇ。てか、お前も行くなよ。」
「何でよ!」
「アイツも集中してえだろ。アタシやお前が行ったら集中途切れちまう。邪魔してやんなよ。」
「…なるほど。」
にんまりと微笑みながら森川は近づいてくる。
「な、なんだよ。」
「いやぁ…。あの香川さんが、ずいぶんと可愛らしくなっちゃったなぁって。」
「あぁ?可愛いだ?」
「前までは"うるせぇ"とか"こいつ見てるとイライラする"とか。国東さんの話をするだけでキレてたのにねぇ。」
「これはアレですな。デレ期ってやつですな。」
いつの間にか隣に立っていた倉敷先輩が、いつも以上に訳の分らんことをほざ…。おっしゃっている。
「いやいや、これはアレですよ!彼氏面ってやつですよ!」
「ほほぅ。二人の関係はそんなところまで進んでおったのかぁ…。青春ですなぁ。」
森川と倉敷先輩の止まらない妄言に口を挟む気すらおこらない。ため息を溢しながらもアタシは、ジャージに着替え終わった。
「おい。下らねえこと話してないでさっさと飯行くぞ。」
「あ、まってよ香川さん。」
「ショコたんまって~。」
二人を置いて、アタシは食堂へと向かった。
【帰り道】
14時02分。家に向かい歩みを進める。後方から先ほどまで乗っていた電車の発進音が谺した。いつだったか、重い足取りで帰っていた時には遠くに感じられた駅から家に続く道も、今日はなんだか短く感じられる。それはきっとテストの結果が良かったからだろう。
(彩音さん…喜んでくれるかな。)
いや、正確に言えばテストの点が良かったから嬉しいのではなく、彩音さんが喜んでくれるからだろう。と、自覚するまでにそれほど時間は要しなかった。それに…。
(お父さん達も…喜んでくれるかな…。)
今日はお父さんと奏さんが帰ってくる。先日の事もあり、少し気まずい。けれどテストの結果を見せればきっと…。
(…何から何まで、本当に彩音さんにお世話になってばっかりだ。)
テストは全教科合格点が取れた。けれどそれ以外で、何かお礼をすることは出来ないのだろうか。立ち止まり、思案しているとポンッと肩に手が置かれた。
「零音ちゃん。こんなところで立ち止まってどうかしたの?」
耳に触れる声色は懐かしく優しい。振り向くとそこには楓さんがきょとんと不思議そうな目をしながら佇んでいた。
「楓さん…。」
「何か悩み事?」
一人で考えても何も出てこない。確信にも似た心境に至った私は、楓さんに相談してみることにした。
【国東家】【リビング】
15時16分。朝から取り掛かった作業が終わり、時計を見る。テストは既に終わっているだろうし、そろそろ零音が帰ってくる頃かな?いや、ちょっと遅い?何はともあれ、零音が帰ってくるまでに終える事が出来てホッと胸を撫で下ろした。
今朝、零音の部屋から勝手に持ち出したもの。私が零音と一緒に住み始めた頃から感じていた一つの違和感の正体。零音の過去。
(改めて見てみるとすごい量。)
リビングの片隅に作った棚だけでは収まりきらないトロフィーやメダルの数々。壁一面を埋める額縁。この先も増えていくことを予見し、全部を飾ることは早々に諦めた。
(すごいなぁ。)
これは零音が頑張ってきた過去の証。今まで部屋の隅の段ボールにしまわれていた。先日零音の部屋で試験対策をしている時に段ボールの中身について尋ねたところ、トロフィーやメダル、表彰状と言ったこれまで零音が積み重ねてきた軌跡そのものであった。
「飾らないの…?」
「…もう古いものですから。」
そんなやり取りをしたけれど、私はどうしても飾りたかった。だってこれ全部…。
「零音の努力の証だもんね。」
一人呟くと玄関から物音がした。零音が帰ってきたのだろう。私は玄関へと向かった。
書いてて思ったんですが、何でここに楓さんがいたんでしょうねぇ…。
家の最寄りの駅も違うし、意図も不明…。
教えてくれ五飛…。楓は俺に何も言ってくれない…。
作者が言うのもなんですが楓さん怖いんですよね。
全然喋ってくれないし、急に出てくるし。
そこが魅力でもあるんですが…。
さて、次回は前回あとがきで言った僕が描きたかった百合です。
よろしくお願いします!




