第101話 〜お兄ちゃんは再び目覚めたようです〜
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「……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
「……落ち着いて、大丈夫ですから……」
赤子のように大きな声で、泣いてる声が聞こえる。
その泣き声は聞き覚えのある、昔から聞いてる声だ。
只ここ数年、聞いてなかったから忘れかけていた。
お前は昔から強がりで、泣き虫だったことを――――。
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「……さっきも見た天井だ」
再び目を覚ました俺は、ボーッと天井を見上げる。
左手の近くに何かを感じて、視線を向ける。
……そこにはベッドに突っ伏して眠っている、妹の姿があった。
「………………」
「おはようございます、ヤヒロさん。調子はどうですか?」
妹に手を伸ばしかけた時、反対側から幼なじみの声が聞こえた。
「おぉ、イオか。おはよう……つっても、さっきも起きたんだけどな」
妹を起こさないよう、静かに上半身を起こす。
「ヒナは?」
「ヤヒロさんが再び倒れたあと、張り詰めた糸が切れたみたいで……。ヤヒロさんが最初に倒れたこの一ヶ月、ほぼ付きっきりでしたから。疲れて寝ちゃいました」
「そっか……心配かけさせちまったな」
俺は寝てる妹の頭をそっと撫でる。
目元は軽くれて赤くなり、涙のあとが少し残っている。
「イオも、心配かけて悪かったな」
「私は別に、そんな…………っつ!」
伊織の両目から、ポタポタと涙がこぼれ落ちる。
「……急に倒れて、本当に心配したんですからね……!」
「心配してくれてありがとな、イオ。今は本当になんともないよ、大丈夫だ」
「はい……!」
妹と同じで、ずっと我慢していたのだろう。泣きだす伊織の頭を、安心させるように俺は撫でる。
……と。
「目覚めて早々、お連れ様を泣かしてるよ姉様」
「そうね。目覚めて早々、最低すぎるわね兄様」
「……君らは『空気を読む』って言葉、知らないのかな!? 今、結構いい雰囲気だったじゃん!」
部屋の隅でそう話してる二人に、俺は思わずツッコミをいれてしまう。
「嫌だな、お客様。姉様ほど空気を読める人は、他にいないよ。ところで『空気を読む』って、どういう意味なのお客様?」
「そうよ、お客様。兄様ほど空気を読める人は、他にいないわ。ところで『空気を空気』と読んだところで、なにか意味はあるのかしらお客様?」
「『雰囲気を察して』ってことだよ! 姉様の方はわかってて煽ってるなら、かなりタチ悪いぞ!?」
二人は顔を見合わせると、互いに首を傾げ合う。本当に意味が分からなかったらしい。
「どうやらヤヒロさん……私たちの知識とこちらの世界の知識や認識は、若干ズレているようなんです……とは言っても、あのお二人はかなり毒舌みたいで……」
伊織と一緒に、二人を見る。
「なにか怒らせたのなら、とりあえず謝るよ……姉様が」
「なにか怒らせたのなら、とりあえず謝るわ……兄様が」
「いや……あの二人自身が、そもそもかなりズレてるだけなんじゃ……?」
頭を抱えながら、俺は深いため息をつく。
すると、『コンコンコン』と三回ノック音が聞こえる。
視線を向ければ、ヒイラギさんが立っていた。
「よぉ、旦那。起きたみたいだな」
「まぁ何とか、な」
ヒイラギさんは近づいてくると、トレーを差し出す。
「ずっと口にしてなかったからな、とりあえず軽いものから少しずつ慣らしていくといい」
そう言って差し出されたトレーには、甘く優しい香りのする何かが器に盛られていた。
「これは……?」
「アプルの実をすりおろして、蜜と水で煮て作った粥だ。ここらじゃ伏せってる時によく食べられる、一般的な家庭料理だ」
「へぇー、美味そうだな!」
思い出したように、ちょうど腹の虫が空腹を訴える。俺はすぐに受け取って食べよう……とすると、ヒイラギさんがトレーを下げる。な、何故だ……!?
「な、何故……?」
「先の言っておくが、絶対にがっつくんじゃないぞ。ゆっくり食べろ。今の旦那の腹は空っぽだ。空腹感に任せて急いで食べても、腹が痛くなるだけだ。すりおろして煮てるとはいえ、最低でも三十回はしっかり噛んで食え」
「はい……」
俺が頷くと、ヒイラギさんは器を手渡す。人肌に温められている粥を、俺はスプーンですくって食べる。う、美味い……!
すりおろしたアプルの実の……リンゴのような味と食感に、蜂蜜のようなほのかな甘さ。隠し味にはなんだろう……レモンのような少しサッパリとした味と、シナモンのような香辛料の香りが更に俺の食欲をそそる!
一口目を飲み込んで、二口目を食べようとスプーンですくったところで……横から無言の圧力を感じる。
「がっつかず……一口、最低でも三十回……」
「は、はい……」
俺は隣からの圧力に屈しながら、ゆっくりと時間をかけて粥を食べたのだった……。
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