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魔王討伐に近道はない  作者: 縞虎
武闘大会予選編
44/44

記録の43 ネクゥ


 戦闘と分かるやいなや颯爽と飛び出して暴れ回るキキョウを他所に、私は目を閉じてただじっとしていた


 目を閉じたのは音のみを感じ取るため。視覚からの余計な情報を遮断し、音だけ意識を集中することでより素早い反応を可能にする


 一部の隙も見せず、ただ静かにハリセンを構え、深呼吸で心を落ち着かせる


 天啓を授かったとは言ったが、それはあくまで知恵を得ただけの話。私自身は弱体化したままなのだ


 練習などさせてもらえるはずもなくいきなりの実戦


 柄にもなく少し緊張しているが、それ以上の期待や興奮に心臓の鼓動が速くなっているのが分かる


 焦るな、落ち着け。自分に言い聞かせひたすらに"待つ"


 今はキキョウが敵の注意を引きまくっているが相手はかなりの人数。キキョウ1人で捌けなくなればいずれこちらにも攻撃が来る


 その瞬間が勝負だ。成功するか失敗するかは全て自分自身の手にかかってるというこの緊張感がなかなかに心地よい


 もっと深く集中しろ。もっと神経を研ぎ澄ませろ。この一撃を確実なものとするために!


 ……こうしてからどのくらいの時間が経っただろう。一分一秒がまるで永遠のように感じる


 きっとそれだけ私が深い集中状態にある証拠


 それから程なくして遂に来た。頭上から迫る確かな敵意を含んだ攻撃が――


「ここだッッッ!!」


 気配を感じたと同時に私はハリセンを振り抜いていた。確かな手応えを感じた直後に降り掛かって来たのは――大量の水


「やっと目ェ覚ましたなー。急に寝るからビックリしたぞ?」


 ずぶ濡れになった私を呆れ顔で迎えるスイとキキョウ。戦闘の最中だというのに随分と気の抜けた顔をしてるではないか


「寝てたんじゃなくて集中してたんだ! それより攻撃を受けてるぞ! 敵は――」


「もー終わったよ」


「……え?」


 そう言われて辺りを見回すと、確かに人影が見当たらない――というより全員例の白い風船と共に空へと舞い上がっていた


 いや待てそれだと私が受けた攻撃の説明がつかない。もしやさっきみたいにどこか遠くから狙っている奴が――


「……ぷっ、アハハハハッ!!」


 突如響き渡る笑い声。それはスイでもロイでもキキョウでもなく頭上、木の上から聞こえてきた


「いやー面白い。まさかここまで気が付かないなんて思わなかったよ」


「ネクゥ! お前どうしてこんなとこに?」


 声の主はキキョウと同じく私の幼なじみであるネクゥだった。木の上からこっちを見下ろし大笑いしている


「どうして……って、そっちが来たんでしょ? 近くでギャーギャー騒がれたらうるさくて寝てらんないよ」


 どうやら私達は偶然にもネクゥが寝床にしていた木の下で話し合いをしていたようだ


「そうだったのか。それは邪魔をしてすまなか――いや、そもそも寝るなよ。予選の真っ最中だぞ?」


「バカ正直に戦って数減らすなんて面倒じゃん? のんびり寝て待ってりゃ勝手に人数減るんだからその方が楽だよ」


 ネクゥのやる気のなさと面倒くさがりなところにはいつも呆れさせられる


 言ってることは分かるがやはり賛同はしかねるな


 だがこいつもキキョウと同じく信頼できる仲間だ


 この3人ならば向かうところ敵無し。さっさと予選を終わらせに――


「つーわけで僕はまた寝るから。さっさと終わらせて起こしに来てねー」


「お断りだ。一緒に来るか勝手に起きて来い」


「えええぇぇぇーー!? ……もー、分かったよー」


 いつまでもワガママに付き合ってられるか。先に進みたいのなら自分の力でなんとかしろ


 心底イヤそうな顔をしながらも渋々ついて行くことを選んだネクゥを見てキキョウは笑いながら言った


「ははっ! まぁそうだよなー? 予選こんなとこで落ちたら先生にドヤされるもんなー?」


「はぁ……めんどくさいなー」


 大きなため息をつくネクゥだが、それよりキキョウの口から懐かしい名が出たことを私は聞き逃さなかった


「先生? 2人がここに居るのは先生の指示なのか?」


「そう! 武闘大会に出て実力を示してこいって!」


「あーあ、ホントなんでこんなことしなきゃならないんだよ」


 ノリノリではしゃぐキキョウとグチグチと文句を垂れるネクゥ


 2人の様子から察するに先生が尻を叩いてキキョウが引っ張ってきたんだろうな


 ご愁傷さまだなネクゥ。この2人に前後を塞がれたら流石のお前も逃げようなんて考える気も失せるだろう


「ねぇリッツ。先生って?」


「ああ、先生は私達にあらゆる武術を叩き込んでくれた人だ。訓練は厳しいが生徒想いの優しい人でな」


「生徒想いなもんか。いくら吐こうがしごくのを止めない鬼だよ」


「あたし達には特別厳しかったからなー!」


 基本的には王国の騎士達を指導する立場であったが、先生曰く出来の良かった私達3人は特別メニューと称して更に過酷な訓練を受けさせられた


「訓練の後でよくご飯連れてってもらってさー! しこたま食わされたリッツとネクゥが同時に吐いた時は笑っちゃったよ」


「笑い事じゃないよ。というかあんだけの量をペロッと平らげられるキキョウがおかしいんだって」


「あの時は私も死を覚悟したな。見えてはいけないものが見えた」


 『訓練した後はガッツリ食ってぐっすり寝ろ。それが成長への最短ルートだ』と口癖のように言う人だった


 厳しい指導を非難する声もあったが先生は決して自分のやり方を曲げなかった


「ところで先生はお元気か? 旅に出る時に挨拶出来なくて気になってたんだ」


「つい最近王国全体の指導者を降りたけどバリバリ元気だよ。今は後進の指導者の育成だったり見込みのある人に個別に稽古つけたりしてる」


「ホント、見てて可哀想になるよ。新たな被害者が生まれてるんだからね」


 ネクゥは時々先生の姿を見るだけで過去のことが蘇って吐きそうになると言う


 あの鬼教官ぶりは変わらず健在のようで安心したような……ネクゥの言うように新たな生徒に同情する気持ちもあるような……なんとも複雑な気持ちだ


「そうか。私も早く良い結果を報告したいものだ」


 だが私を最強無敵の剣士に育ててくれた恩人。辛い思い出もたくさんあるが、やはり根っこにあるのは感謝の気持ち


 先生はもちろん、両親や国王様と女王様……あと一応その娘


 私という人間を育んでくれたテッセ王国に報いるためにも頑張らねばな


「ふふっ。そういう昔からの仲ってなんだか羨ましいわ」


 懐かしい話に花を咲かせているとスイがどこか寂しげな顔をしながら言った


「スイにはないのか? 親とか友人とかとの思い出というのは」


「うーん……どうなんだろう? 私、昔のことってあんまり覚えてないのよね」


 首を傾げて考え込む。昔のことと言うが、そもそもスイはいくつなんだ?


 妖精って人間と比べて長生きだったりするのだろうか


 出会った時には既に1人だったが、いったいスイはいつから1人なのだろうか


 他人の過去を詮索する趣味は無いが、これまで互いに昔話などしてこなかっただけに少し気になってしまう


「覚えてないなら新しく作っていけばいいんだよ。『たくさんの場所でたくさんの人と触れ合いなさい。その経験が必ずお前を強くするから』って先生がリッツに伝えてって言ってたよ」


「そうか。伝言ありがとう」


 ……キキョウの言う通りだな。過去のことより未来のことに目を向けていこう


 この旅の先は長い。まだ見ぬ出会いがきっとたくさん待ち受けているだろう


 無いのなら新しく積み重ねていけばいい。私の磨いてきた剣術と同じようにな


 昔話をしたせいか、柄にもなく感傷的になってしまったようだ


「さて、行こうか。この程度で手こずっていたら先生にまた稽古をつけさせられてしまうぞ!」


「それはイヤだな。よし、すぐ終わらせよう」


「おーし! やってやんぜー!」


 まずは目の前の予選を片付ける。意気込む皆の背中を見てからスイの方に目をやると、彼女もまた微笑みを浮かべていた


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