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終.異世界生活七十六日目(コノハ視点)

最終話です。

ここまでお読み頂きありがとうございます。

 異世界生活七十六日目。

 ついにアーテルの封印されている神殿にたどり着いた。

 まあ、ぶっちゃけ戦闘よりも移動の方が時間食ったし、ほぼ真反対の場所へ一月程度で行けたのはチート様々って所だと思う。


 あ、神殿攻略はただの作業でした。

 四天王っぽい神殿兵はただのかませだったし。


 完全体ルフスはそりゃ強かったけど、私もやられた時から研鑽は怠ってなかったからそんなに苦労せず勝てたよ。

 ただボッコボコにしたらドM開花しちゃってつきまとってくるようになっちゃったけど。

 本当にこの子、業が深いね。


 蹴っても殴っても腰から離れないから、嫌だけど諦めてくっつけたまんまアーテルに会いに行ったよ。

 いざとどめってなった時に躊躇しちゃった自分はやっぱり甘いなぁって思った。

 でもアーテルの妹って思うとどうしても手が鈍っちゃったんだよねぇ。


 とりあえず今は「あたしはコノハ様の忠実な犬になりますよぉ」とか言ってるし、まあ無害かなって放置することにした。

 それよりも何よりもアーテルだ。


「―――……というわけで、こんなことになりました」


 私は今、仁王立ちのアーテルの前で正座で、離れてから今までをご報告しているわけで。


「……ふぅん、よっくわかったよ」


 おうふ、トゲ。言葉にトゲがあるよ。


 一歩、完全体となって精神体の時より更に綺麗に見えるアーテルが近付く。

 ちょっとびくっとするとアーテルは苦笑した。


「あのね、怒るわけがないでしょ。帰ろうと思えば帰れるのに、こんな傷だらけになってまでアタシに会いに来てくれた勇者様にね」


 ちゅっと軽い音をさせて私の頬へアーテルの唇が降る。

 衆人環視の中でこの甘さは恥ずかしいけど、嬉しい。


「……アーテル……」

「うん?」


 自分の頬に熱が灯っているのがわかる。

 恐らく赤いだろう私の顔に、アーテルは優しく微笑みかける。

 私は立ち上がり、アーテルへそっと手紙を渡した。


「あのね、私帰れなくなっちゃったみたいで」

「えっ?」


 アーテルへ渡した手紙はこの世界では有り得ないパルプでできたものだ。

 可愛い花のプリントがされた便箋の宛名には「川流 木の葉様へ 地球神より」と流麗な文字で書かれている。


「読んでもいいの?」

「もちろん」


 私が頷くとアーテルは食い入るように手紙を見つめる。

 ちなみに内容は極シンプルだ。「ちょっとチートがすぎるので地球では暮らして頂くことが難しくなりました。申し訳ありません」と言ったものだ。

 ね、シンプル。

 めっちゃへりくだった言葉なのは地球神がそういう性格なのか、私のチートがすぎるからなのかは謎だ。


「……コノハ、ごめんね」

「ああ、うん、大丈夫だよ」


 手紙を読み終わり呆然とした顔で謝るアーテルを優しく抱きしめる。

 背中を軽くたたくとアーテルは嬉しさではなく、後悔の涙を流し始める。


「だって、帰るって、始めに言ってたのに」

「あー、もうそれも大丈夫だから」


 ほろほろ流れる涙を唇ですくい取ってやる。

 強がってると思われたのか、アーテルは涙に濡れたままジト目を作ってこちらを見てくる。

 このジト目も久しぶりだ。何だか嬉しくなってくる。


「コノハ、何で笑ってられるの」

「んー、私さ、向こうにもう家族いないんだわ」


 兄弟はいないし、両親はもうお空の上。

 友達は……ほとんど連絡取ってな言わせないでつらくなる。


「そんでさ、こっちで好きな人がいっぱいできたのよ」


 だから地球にこだわる必要はないのよね。

 仕事は……まあ、生活の為に社畜ってただけですし!


「アーテルは当然だけど」


 私は後ろを振り返る。アーテルも私に抱きついたまま首だけをみんなへ向けた。

 そこにはそこそこに汚れているけど、五体満足な六人が立っていた。

 私は魔力操作で彼女達の汚れを落とすと共に自分の体も傷ごと綺麗にしていく。


「リエフさんにマジョルタさん、リーチェにポポンにウットとサットも好きなのよ」


 ええ、絆されましたよ。

 だってあんな全力で慕われたらさぁ。

 しかもみんな「七番目で充分です」とか殊勝だしさぁ。

 異世界でハーレム作る主人公達の気持ちがわかったわ。


「まあね、そこの馬鹿(いもうと)に色々見せられたからコノハ達がどういう時間を過ごしたか知ってるつもりよ」


 アーテルは寄りそうになる眉間をぐりぐり揉みながら話す。


「えっ、そこのお花畑何してんの?」

「あぁん、その蔑んだ視線、最高ですぅ!」

「一生話すな、黙ってろ」


 アーテルの妹だろうが、こんなだったらこんだけぞんざいに扱っても仕方ないよね?

 アーテルも、もっとやれとばかりに頷いてるし。

 でももっとやると餌を与えることになるからさじ加減が難しいのよね。


「まあ、馬鹿は置いといて……だめかな?」


 首を傾げて確認する。一番はアーテルだから、アーテルがダメなら私の彼女達への返事はノーに変わる。

 アーテルは、むぅっと口を噤んで、それからジト目でみんなを見た。

 そして。


「……正妻はアタシよ?」


 そう、確認を取った。


「当たり前です!」

「コノハ様から思って頂けるなら七番目でも構いませんわ」

「私はコノハ様を思わせて頂けるならば、それで」

「リーチェさんってば殊勝だねぇ。もうちょっと欲張ってもいいんじゃない?」

「でもポポちゃんも同じ気持ちなのよね?」

「サットもウットも知ってるのよ?」


 ポポンがウットとサットの口を押さえて「少し黙ってなさい」と言った。

 うん、いつも通り。みんな全くぶれてない!




「みんな、おいで!」


 私はアーテルをそのままに両手を広げてみんなを手招いた。

「はぁい!」とすっ飛んできたルフスは吹っ飛ばし、六人をアーテルも含めて抱きしめる。


「じゃあ、これから楽しいスローライフでも始めようか」


 それからのことは簡単にお話。

 主犯の教皇は生かしていたから、そいつを脅して悪神アーテルを撤回させる。

 あとは初めて“アーテルフス”へ召喚された時に来た森へアーテルの神殿を建てて、私達九人(おまけにルフスもついてきた)は暮らし始めた。

 アーテルとの寿命の違いは魔力をいじったら簡単に解決してしまって、人類から神殿が忘れられる頃でも生存余裕でした。


 そして月が太陽に逃げられたあの神話に新たな話が追加された。

 太陽に逃げられた月は傷心の中、星の川で一枚の木の葉と出会い癒されるという話だ。

 それ以来、黒い月が満ちると木の葉を抱きしめる形に灰色の陰影として見えるようになったらしい。


 ま、よくある話だ。


 私が体験した話だって、聞いてみればよくある話かもしれない。

 流され人間が行き着いた先が異世界だった、とかね。

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