2.ひとまずの休憩
カフェ「ベレス」は夜の10時まで営業している。
本来ならばエルマーとこまめに交代して休憩をとるはずが今日は彼が休んだので、リアは昼食・夕食をとる暇もなく働き続けた。
閉店後の片づけは、リアを気の毒に思ったウェイトレスの3人組がリアの分まで片づけてくれることになったので、一足早く屋敷に戻ることになった。
「本当にエルマーったらどうしたのかしら。勝手に休まれたら困るのに・・・」
店まで迎えに来てくれた馬車に乗り込み、リアはため息をもらす。
「エルマーさん、今日はお休みされたのですか?」
わざわざリアを迎えに馬車に同乗していた彼女は、リアが一番信頼できるメイドだ。
「そうなの、一応店には電話がかかってきたみたいなの。でたのは私じゃなくって、新人のノエルだったけれど。エルマーはただ休む、しか言わなかったみたいだから、ちょっと腹が立つのよ。重要な用事があるのならばそう言ってくれればいいのに、何も言わないんじゃ遊んでるようにしかみえないわ」
「確かにそうですね。でもエルマーさんは特別な理由もなしに休む方じゃないような気がします」
そうかしら、とリアは呟く。
なんてったて彼は女の子好きだ。誰にでも「可愛いねぇ~、君」とか言って口説こうとする。
そんな彼がデザートを作れるほど手先が器用なのも腹立たしいのだが。
「まぁ、いいわ。明日来たときに、みっちり理由を聞いてやるんだから。絶対に逃がさないわ」
人並みの女の子よりはるかに力の強いリアにとって、男一人ぐらい絞めあげるのは簡単だ。
―――そういう行動は貴族らしくないのだけれど。
そう分かっていても、エルマーや他の従業員はもちろん庶民だ。
貴族らしくないと分かっていても、別に上級貴族が見ているわけでもない。
「ベレス」はリアにとって思う存分羽を伸ばせるところだ。
貴族であることは苦痛ではない。だが、たまには普通の女の子みたいに遊んでみたい。
そう思いながらもリアが貴族であろうとするのは、自分に流れる高貴な血が誇りを忘れるなと叫んでいるような気がするからだった。
ベレスフォード家は昔から上級貴族としての立場を確立しており、当主には侯爵の爵位が与えられていた由緒ある家系だ。
それを我が父の代で、破滅させるようなことをしてしまったのである。
あきらめて庶民として生活することは許されないのだとリアは思う。
実際に父もすぐに立ち直り、なんとしてでも元の地位に戻そうとするのは自らの誇りと家族を思いやる優しさからだ。
優しい父は自分の死後、娘に上級貴族から没落したことで肩身の狭い思いをさせたくない、と言っていた。
そんな父のためにも、そしてリア自身の誇りのためにも、働き続けるのであった。
「おはようございます、お嬢様」
そう言って、リアの部屋のカーテンを開けた。
窓からは暖かい日差しが差し込み、リアを覚醒へと導く。
「ふわぁ、おはよう、ルナ。今日もいい天気ね」
「はい、お嬢様。このようにいい天気だと、カフェに足を運ぶ人も多くなりそうですね」
リアが一番信頼できるメイドのルナは毎朝的確な時間に起こしに来てくれる。
「今日はエルマー来るわよね・・・?」
今日も休むのではないのかと、少し不安になる。
「そんなに何回も休む人ではないと思いますよ」
昨日も今日も、ルナにとってのエルマーの高感度が高いような気がする。
「あなたエルマーのこと、どういう風に思っているの?」
「えっ、それは・・・。もちろん、お嬢様の良き仕事仲間です。何度かお会いしたことがありますが、気さくで話の弾む方でした」
「気さく?ただ単に女好きなだけじゃない・・・。あいつは口先だけの軽薄男なのよ。ルナみたいな可愛い女の子は要注意しなくちゃ。心を許していると、いつか襲われるわよ?」
昔からの友人でもあるルナをあんな男に渡すものか。
軽く脅しをかける。
するとルナは、そんなことないです、と首を横に振る。
「エルマーさんはお嬢様が言うような人じゃないです。きっとエルマーさんはお嬢様に心を許しているから、軽薄になったりするんですよ。他の人にはそんなことありません」
「あー、分かったわ、ルナ・・・。もう何も言わないから」
あまりにルナが意気込むので、これ以上何を言っても無駄だと思った。
少し可哀想だが、本性を目の当たりにしてあきらめてもらうしかない。これも彼女を想うがゆえの行動だ。
リアは話をきりあげ、着替えにとりかかる。
エルマーの出勤時間は午後12時だ。それまでの間は集中して仕事に取り組まなくては。
そう思い、メイドの手をかりて、なるべく急いでリアは着替えるのであった。
今回初めて登場したメイドのルナです。
彼女はリアよりも力の強い、ボディガードなみの女の子という設定です。
この先きっとリアを助ける心強い味方になると思います。




