多分恋をしている
あの子…、金倉さんだ。
卒アルに載ってた…初恋の子。
すると、彼女は私の方をチラッと見て、それから「あっ、ご、ごめん!そ、そうだったんだ!えっと…何でもない!じゃあ!」と、走って行ってしまった。
…え?もしかして…今でも何かしら繋がりがあるの?
でも…この前はないって…。
「……何しに来たんだろ」と、小さく呟いて、玄関に向かおうとするこうくんの制服の袖を、私はぐいっと強く掴んだ。
「…何で…あの子が来たの?」
声が思ったより低く、尖っていた。
自分でも驚くくらい、苛立ちが滲んでる。
こうくんはビクッとして振り向いた。
「なんでって言われても、俺も知らないんだけど……本当に」
その目は完全に困惑していて、嘘をついているようには見えなかった。
でも、胸のモヤモヤは消えなかった。
中学の卒アルで見たあの地味で真面目そうな子が、初恋の子がこうくんの家の前に立っていた。
しかも少し垢抜けていて、昔より女の子らしくなっていた。
……本当に何もないの?
そのまま家に入り、こうくんの部屋まで無言でついていった。
空気が重い。
険悪っていうか、ただの不機嫌な私がそこにいる感じ。
部屋に入ると、私はすぐにベッドに腰を下ろしてスマホを取り出した。
画面をスクロールするふりをして、こうくんをチラチラ見ていた。
空気が悪さを感じてか、こうくんが部屋の中をオロオロと動き始めた。
「あ、えっと……お茶、いる? 冷蔵庫に麦茶あるんだけど…」
「…」
「……お、お菓子もあったはず。さっきすみれが買ってきたチョコとか……」
「…」
空気に耐えかねてか、そのまま部屋を出ていくこうくん。
そして、麦茶を持ってきて、グラスに注いで私の近くの机に置き、チョコを小皿に乗せて同じく置いた。
両方とも手が震えていて、グラスがカチカチ鳴ってる。
もしかして…やっぱり後ろめたいことあるのかな?
私はスマホから目を離さず、ただ無視を続けた。
部屋に気まずい沈黙が落ちる。
エアコンの音だけがやけに大きく聞こえる。
こうくんは自分の椅子に座って、膝の上で指を組んだりほどいたりしながら、何度も私の顔をチラチラ見ていた。
そして、5分くらい経った頃――
「……黒波さん…」と小さな、震えるでそう呼ばれた。
「…何?」
私はスマホを持つ手を止めた。
こうくんは俯いたまま、珍しく弱々しい声で続けた。
「えっと…本当にあの金倉さんがなんで来たのかとか知らなくて…でも…ごめん」
不器用で、たどたどしくて、でも真っ直ぐな言葉だった。
私はスマホをゆっくりベッドに置いた。
こうくんの耳が真っ赤で、目が少し潤んでる。
本当…私って最低だ。
自分のことは信じてとか言って、こうくんのことは疑って…。
胸の奥が、じんわりと熱くなった。
「……バカ」
私は小さく呟いて、立ち上がった。
こうくんの前に歩み寄り、その胸に額を押しつけるように顔を埋めた。
「心配させないでよ、バカ……」
こうくんの体がビクッと固まった後、恐る恐る私の背中に腕が回される。
ぎこちない、でも温かい抱擁だった。
「今の俺にとっては…黒波さんが一番大事だよ。本当に」
「……わかってる。でも、なんかムカついたの。急に現れたから…。私の方こそごめん。元カレ現れて…嫌な思いしたよね。ごめんね」
「うん……ごめん」
私は康太くんのシャツを軽く握って、顔を上げた。
康太くんの瞳が、すごく近くて、真剣で。
さっきまでの険悪な空気が、嘘みたいに溶けていく。
「今日は……もう帰らないでいい? ここにいさせて」
「もちろん。…好きなだけいていいよ」
私はこうくんの胸に再び顔を埋めながら、ふと思った。
あの子がなんできたのかとかどうでもいい。
こうくんのこの温もりのほうが、ずっと大事。
この不器用なこうくんが、私をこんなに必要としてくれていることが、嬉しくてたまらない。
きっと私は今、恋をしているのだ。




