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「付き合っても良いけど多分私浮気しちゃうよ」と言ったビッチで有名な彼女が一途すぎる  作者: 田中 又雄


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6/13

多分恋をしている

 あの子…、金倉さんだ。

卒アルに載ってた…初恋の子。


 すると、彼女は私の方をチラッと見て、それから「あっ、ご、ごめん!そ、そうだったんだ!えっと…何でもない!じゃあ!」と、走って行ってしまった。


 …え?もしかして…今でも何かしら繋がりがあるの?

でも…この前はないって…。


「……何しに来たんだろ」と、小さく呟いて、玄関に向かおうとするこうくんの制服の袖を、私はぐいっと強く掴んだ。


「…何で…あの子が来たの?」


 声が思ったより低く、尖っていた。

自分でも驚くくらい、苛立ちが滲んでる。

こうくんはビクッとして振り向いた。


「なんでって言われても、俺も知らないんだけど……本当に」


 その目は完全に困惑していて、嘘をついているようには見えなかった。

でも、胸のモヤモヤは消えなかった。


 中学の卒アルで見たあの地味で真面目そうな子が、初恋の子がこうくんの家の前に立っていた。

しかも少し垢抜けていて、昔より女の子らしくなっていた。

……本当に何もないの?


 そのまま家に入り、こうくんの部屋まで無言でついていった。

空気が重い。

険悪っていうか、ただの不機嫌な私がそこにいる感じ。


 部屋に入ると、私はすぐにベッドに腰を下ろしてスマホを取り出した。


 画面をスクロールするふりをして、こうくんをチラチラ見ていた。


 空気が悪さを感じてか、こうくんが部屋の中をオロオロと動き始めた。


「あ、えっと……お茶、いる? 冷蔵庫に麦茶あるんだけど…」

「…」

「……お、お菓子もあったはず。さっきすみれが買ってきたチョコとか……」

「…」


 空気に耐えかねてか、そのまま部屋を出ていくこうくん。


 そして、麦茶を持ってきて、グラスに注いで私の近くの机に置き、チョコを小皿に乗せて同じく置いた。

両方とも手が震えていて、グラスがカチカチ鳴ってる。


 もしかして…やっぱり後ろめたいことあるのかな?

私はスマホから目を離さず、ただ無視を続けた。


 部屋に気まずい沈黙が落ちる。

エアコンの音だけがやけに大きく聞こえる。


 こうくんは自分の椅子に座って、膝の上で指を組んだりほどいたりしながら、何度も私の顔をチラチラ見ていた。


 そして、5分くらい経った頃――


「……黒波さん…」と小さな、震えるでそう呼ばれた。


「…何?」


 私はスマホを持つ手を止めた。

こうくんは俯いたまま、珍しく弱々しい声で続けた。


「えっと…本当にあの金倉さんがなんで来たのかとか知らなくて…でも…ごめん」


 不器用で、たどたどしくて、でも真っ直ぐな言葉だった。

私はスマホをゆっくりベッドに置いた。

こうくんの耳が真っ赤で、目が少し潤んでる。


 本当…私って最低だ。

自分のことは信じてとか言って、こうくんのことは疑って…。

胸の奥が、じんわりと熱くなった。


「……バカ」


 私は小さく呟いて、立ち上がった。

こうくんの前に歩み寄り、その胸に額を押しつけるように顔を埋めた。


「心配させないでよ、バカ……」


 こうくんの体がビクッと固まった後、恐る恐る私の背中に腕が回される。

ぎこちない、でも温かい抱擁だった。


「今の俺にとっては…黒波さんが一番大事だよ。本当に」

「……わかってる。でも、なんかムカついたの。急に現れたから…。私の方こそごめん。元カレ現れて…嫌な思いしたよね。ごめんね」

「うん……ごめん」


 私は康太くんのシャツを軽く握って、顔を上げた。

康太くんの瞳が、すごく近くて、真剣で。

さっきまでの険悪な空気が、嘘みたいに溶けていく。


「今日は……もう帰らないでいい? ここにいさせて」

「もちろん。…好きなだけいていいよ」


 私はこうくんの胸に再び顔を埋めながら、ふと思った。

あの子がなんできたのかとかどうでもいい。

こうくんのこの温もりのほうが、ずっと大事。


 この不器用なこうくんが、私をこんなに必要としてくれていることが、嬉しくてたまらない。


 きっと私は今、恋をしているのだ。

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