46 幸せと笑顔と錬金術師
中央広場は、間も無く始まる本日の目玉となる、錬金術師たちの品評会を見ようと多くの観客が、集まっていた。舞台を見ると少し緊張している様子のバートが錬金術師たちと並んで立っている。
「アイツ 柄にもなく緊張してやがんな」
「いやいや、アリオスさん、こんなにも多くのお客さんがいたら、誰でも緊張するって」
「そうか? 嬢ちゃん、ゴブリンが100体いても緊張するか?」
「え?ゴブリン100体?うーん、ぶっ潰す?」
お客さんをゴブリンに例えるなんてと呆れ顔のカナリアが、フウッとため息を吐いた。アリオスの変な例えのせいで、私も脳筋と思われたじゃないか!ブーブーとアリオスに文句を言いつつ、カナリアたちと並んで座席に座る。バートがチラッとこっちを見た気がしたので、応援の意味を込めて、ヒラヒラと手を振っておいた。
「レディース&ジェントルマン 今宵は収穫祭のメインイベント 錬金術師たちの品評会にお集まりいただき、誠にありがとうございます」
舞台の上で、拡声器を使って司会者が声を出す。おおーっと客席からも歓声が上がり、品評会が始まった。
「錬金術師の夢の祭典 品評会 去年のテーマは幸せを感じる物だったが、今年のテーマは、笑顔になる物だ!君も、貴方も、会場のお客さんも全員を笑顔にさせるため、マローの錬金術師たちが頑張ったぞ!」
司会者は、大きく手を振りながら会場の空気を暖めていく。大歓声が渦を巻く中錬金術師たちの紹介が始まった。
「今宵、品評会に参加する錬金術師は、この5名だ!」
「師匠、バートだよ、バート!」
舞台の端から他の錬金術師たちと並んで、中央にやってきたバート。キリッとした表情はしているけど、手と足が同時に出ている、身体がギクシャクしているので、緊張しまくっているのが丸わかりだ。
「エントリーナンバー一番は、マロー屈指の女性錬金術師 レイラさんだ!女性が喜ぶ美容品の数々を生み出している天才だ」
レイラが、一歩前に出て両手を上げると会場中から、彼女の名前が叫ぶ声援が始まった。
「ご存知の通り、レイラさんは、去年の優勝者だ!全身リラクゼーション 究極の癒しによる至福なひと時を いまだに覚えているぜ!今回のテーマは、笑顔になる物 彼女が生み出す物がなんなのか 今から待ち遠しいぞ!」
凄い。品評会に初めて参加する私でも、どれだけ注目されている催しなのか、いやでも理解できる。この品評会に、カラフルな蝋燭や、変な筒を発表しようとするバートは、ある意味勇者だ。
「続いてエントリーナンバー二番は、今回初参加 ミラン工房のトニーさんだ 初参加と言っても前回準優勝のミラン工房からの代表者だ 今大会のダークホースと言っても過言はないぞ!」
野太い「おおー」という声援が聞こえてくる。声援に向かってトニーは、頭を下げた。きっとミラン工房からの応援者だろう。
「エントリーナンバー三番は、マローの住人なら、誰もが知っている グスタフ爺さんだ! マローの錬金術の歴史にグスタフ有り マローの生き字引の登場だ!」
人の良さそうな笑顔が印象的なお爺さんが、顎に蓄えた長い髭を触りながら手を振って観客に挨拶をする。観客席からも盛大な拍手が送られていた。
「エントリーナンバー四番は、王都ゼブディアからの招待者 ヘルミナ嬢だ!王都では、『白銀の翼』に所属しているお抱え錬金術師だそうだ!この若さで既に冒険者ランクは、Sランクという凄腕だぞ!」
司会者の言葉に思わず身体が跳ね、立ち上がりそうになってしまった。『白銀の翼』に所属している現役の冒険者が、マローに来ているなんて。
「知り合いか?」
「……全く 私自身、あそこで誰かと交わることは、なかったから」
「なら、今は気にすんな とにかく品評会を楽しもう」
カナリアが、不思議そうな顔をしていたが、気のせいだったよと笑ってみせた。知り合いでもないのに、こんな偶然が起きるわけがない。ヘルミナには、近づかなければ、きっと大丈夫だ。
「最後のエントリー者は、みんなもお待ち兼ねだろう? 今年もやってきたぜ、赤髪の錬金術師バートの登場だ!」
バートが、引き攣った笑顔で、片手を上げると会場中から大きな声援が飛び出した。
「待ってたぞ バート! 今年も笑わせてくれよ」
「どんな残念な作品を見せてくれんだ!」
なんだか、私まで涙が出そうになる不憫な応援が、バートに湧き上がる。
「腕はいい!だけどセンスが壊滅的なバートの登場だ!去年は、抱き枕を披露してくれたが、今年は何だ?」
「俺は、抱き枕愛用してるぜ!」
「最高に幸せな睡眠が取れてるぞ!」
本当に、涙が出そうになった。去年も微妙なアイテムを品評会に出していたとは、思いもしなかった。イベントのオチとして扱われるバート。
「いっちょ気合い入れたるか ガル!」
今まで大人しく座っていた毛むくじゃらが、アリオスからの指示で、身体を起こす。
『あおーーーーーーーーーん』
大きな毛むくじゃらの遠吠えが、会場に響き渡った。
「おっと、アリオス様の従魔からも熱い声援が届いたぞ!今年もバートが笑いを起こすこと決まりか!」
ちょっぴり恥ずかしそうなバートが、私たちに向かってサムズアップする。参加者全員の紹介が、滞りなく終わり、品評会が始まった。
次回予告 笑顔と涙と大本命
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