45 尊い犠牲と秘密の丘と私
カナリアの両手を握りしめ、私は魔力を同調させるためゆっくりと循環させていく。アーくんも私の肩にちょこんと座り、おでこをピッタリと私にくっつけている。
「カナちゃん 私の呼吸に合わせて、ゆっくりと大きく深呼吸していく感じだよ」
少し大げさに大きく息を吸って、吐いてを繰り返す。瞳を閉じたカナリアは、私の呼吸音に合わせて息を吸い込み、ゆっくりと細く、長く、吐き出していく。私の魔力の流れを感じたのか、一瞬ピクリと肩を動かしたが、優しく流れる魔力に直ぐに馴染んでくれたらしい。
「私、アルちゃんを信じてるから」
アリオスとバートが悲惨な魔力酔いを起こしたことも正直に話した。あの失敗は、私が彼らとの魔力を同調しないまま、強引に転移魔術を執行してしまったからだと、ノームたちに教えてもらった。
呼吸を合わせていくことで、私とカナリアの魔力が融合していくのがわかる。カナリアの鼓動までもが私の鼓動と重なった。
「アクセス・ゲート」
私たちの魔力が淡く光り出す。暫くして、頬に受ける風が変化したことに気がついた。ゆっくりと瞳を開けると私とカナリアは、ジュレルの丘の大樹の側に立っていた。今もぎゅっと瞳を固く閉じているカナリア。
「カナちゃん 瞳を開けて?」
「うん…… 開けるよ……開けるからね」
私の目の前にいる少女の瞳がゆっくりと開いていく。そして、周りの景色が視界に入ってきたことで、口元が綻び、頬がほんのりと赤く染まっていった。
「うわぁ……素敵 スズラ草だけでなく色とりどりの花が、一面に咲いている」
「すごいでしょ? ここは、一年中花が咲き乱れているんだよ」
うわぁ、うわぁと何度も感嘆の声を出して、くるくると回りながらジュレルの丘を眺めるカナリア。心配だった魔力酔いもなく、一安心だ。
「あそこでバートが膝を付いて悶えてたんだよ」
「あはは、私のために犠牲になってくれたんだ」
アリオスは、渋い顔をしながらも、私の魔力の同調の練習に付き合ってくれた。バートは、行きがよくても帰りに失敗したら大変だとマローの座標指定が可能なマジックアイテムを錬金術で作ってくれた。みんなが協力をしてくれたから、私はカナリアとの約束を果たすことができた。
「アルちゃん 私をここに連れて来てくれてありがとう」
「カナちゃん 私とお友だちになってくれて、ありがとう」
楽しい時間は、あっという間に過ぎてゆく。気がつけば、夕陽がマローの街の向こうに見える地平線へと沈み始めていた。
「アクセス・ゲート」
「お、帰ってきたな」
アリオスの声が聞こえて、私たちはマローの街に戻って来たことを実感する。ゆっくりと瞳を開けば、黒猫亭の一室だ。
「あれ、ここって私が泊まっている部屋じゃない?」
「ああ、ラルバさんたちが宿泊している部屋だぞ」
待ちくたびれたのか、大きな欠伸をしながら答えてくれた。大きく伸びをすると、私の頭にその手をポンと乗せる。予想通り、髪の毛をぐちゃぐちゃにされたため、頬をぷくりと膨らませた。
「突然嬢ちゃんたちが、街中で現れたら驚くだろ? ラルバさんに事情を説明して、部屋を借りたんだ」
テーブルの上には、バートお手製のアクセスゲートで戻ってくるための座標を登録したマジックアイテムが置いてあった。行きは消えるだけだから、街中でも気づかれ難いが、戻ってくる時は、逆に目立ちやすい。騒ぎにならないようにアリオスが、配慮してくれたらしい。
「俺たちの尊い犠牲が、役に立って何よりだ」
練習に付き合ってくれたけど、魔力酔いについては、まだ根に持っているらしい。
「私たちの約束を叶えてくれて、ありがとうございます」
「師匠! お礼にパンケーキ作るよ」
「いらんわ 俺の方が、上手に焼ける しかも嬢ちゃん、卵まともに割れねえし」
「師匠…… ヒドイ! カナちゃんの前で言わなくてもいいのに……」
宿屋の一室に笑い声が響いた。私だけは、頬を膨らませ、アリオスに抗議の念を送るが、カナリアは、それすらも楽しそうに笑っていた。
「今度は、私がエルガ村に遊びに行くよ」
「うん、アルちゃん待ってる! 絶対に…… 約束だよ!」
私たちは、新しい約束を交わす。増えていく新しい約束が、とても嬉しかった。
「よし、次は、うちの錬金術師の晴れ舞台が待ってるぞ」
「そうだね…… 結局、何をするのか、私たちにも、詳しくは教えてくれなかったんだよね」
まもなく、中央広場で錬金術師たちによる品評会が始まる。
「ちゃんとした…… 笑顔になるアイテムだから! 首を洗って待っておけ!」
まるで悪役が残す捨て台詞を吐いたバートは、一体どんなマジックアイテムを作り上げたんだろう? 時間がなくて、変な筒やカラフルな炎を灯す蝋燭だったら、愛情を込めて、乾いた笑いを贈ってあげよう。
「私は…… バートさん、やる時はやると思うんだけどなぁ?」
「カナちゃん 優しい!」
私は、カナリアをぎゅうっと抱きしめた。バート、カナリアは味方だよ。微妙なロウソクを知らないから、素直に応援してくれてるよ。バートは、今頃ガチガチに緊張してるかもしれないね。
私たちの期待に応えてくれることを祈りつつ、バートの勇姿を見るために、品評会が開催される中央広場へと向かった。
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次回予告 幸せと笑顔と錬金術師




