44 讃美歌と白雪と私
収穫祭当日、マローの街の中央広場では、舞台が設置され、いろんな催しがされる。今は、子供たちで結成された聖歌隊とマロー楽隊による演奏会が始まっている。
「この曲を聴くと収穫祭が、始まったって実感するな」
「俺もガキのころ聖歌隊としてあの歌歌ってたわ」
アリオスもバートも子供たちが歌うこの曲は、収穫祭の思い出の一つなのだろう。私にはない思い出がある事を羨ましく思う。
「フッ 嬢ちゃん これから毎年聞くことになるんだ イヤでも覚えちまうぞ」
「家に帰ったら、みんなで大合唱でもするか?」
私の過去に同情するわけではなく、これからの私のことを考えてくれる。マローが、私の居場所だよと伝えてくれる言葉が、嬉しい。子どもたちの歌声に合わせて、ふんふんと口ずさんでいると、「下手くそ」「音痴だ」と笑われた。そう言って、歌いながら歌詞を教えてくれるアリオスだって、音程があちこち外れていた。
私たちは、ギルドまでの道のりを聞こえてくる聖歌隊の歌声に合わせて、一緒に歌いながら歩いていく。
「アルちゃん こんにちは 今日は、ご機嫌ね」
「ジェシカさん こんにちわ 師匠たちから 収穫祭の歌を教わったの」
「あら アリオスが歌ったの?」
ニヤリと微笑むジェシカに「うるせえ」とそっぽを向くアリオス。
「まあいいわ 今日は、チームアップ申請だったわね」
「そうだ 俺、嬢ちゃん、それとこいつバートの三人でチームアップすることにした」
チームアップ、ソロの冒険者が互いの利を活かすため、パーティ申請とは異なり、普段はソロで活動しつつも依頼によってはパーティとして活動可能にするための申請をすることだ。
私は、マローの街の人たちと親睦を深める依頼をこなしていきたい。アリオスは、SSSランクの冒険者であるがため、彼しか受けることが出来ないような指名依頼も数多くあるし、SSSランクに私が受注するような屋根の修理なんかをさせるわけにはいかない。というか、面白がって受注したがっているけど、そんなの受けてしまったら、依頼主が萎縮しまくって可哀想なことになるのが目に見えてしまう。バートに至っては、錬金術師という肩書きもあるため、ずっと冒険者稼業だけをするわけにはいかない。
全ては、個々を大切に、そして、仲間を大切に……そんな思いでアリオスが提案してきたのが、チームアップだった。
「チームアップすれば、俺もアリオスさんの弟子として、堂々と名乗れる」
アリオスの押しかけ弟子となったバートが、二つ返事で提案に乗った。私もマローでの絆がより深く結ばれることは、喜ばしいため反対する理由がない。
「チーム名は、アリオスと愉快な仲間たちでどう?」
「おい ジェシカ、遊ぶなよ」
「冗談よ それで、チーム名は、きまってるの?」
「白雪だ」
私たちの襟元に輝くお揃いの襟章をジェシカが見つめ、ほうっと吐息を吐く。雪の結晶である六角形の華をモチーフにバートが私たちのシンボルとしてデザインしたものだ。
「綺麗だわ」
「真っ新で純真な気持ちを表してんだ」
空っぽだった私にとって、かけがえのないほど大切な物が増えていく。怖いけど嬉しい、相反した想いでいっぱいになっていく。これからも、もっともっと、大切な物が増えていくのだろう。
ギルドでチームアップ申請を終えた私たちは、ベルガ村の出店している屋台へ向かった。中央広場から少し離れた場所だったけど、人通りも悪くない場所で、ベルガ村の特産物のリップルやベリゴが売られている。
「いらっしゃい アルちゃん 待ってたよ」
「これが、リップル飴とベリゴ飴!」
真っ赤な果実に飴を絡ませて、持ちやすいように串刺さっている。飴も、赤やら緑やら、青など色鮮やかで、見た目も華やかだ。
「リップルとベリゴ 一つずつください」
「色はどれが良い?」
「むむむ じゃあ、ベリゴは赤で、リップルは青!」
お値段は、どれも一つ10ダリルで、20ダリルを支払いリップルとベリゴの飴をもらった。一口サイズのベリゴをはむっと咥える。パリパリとした甘い飴の食感とベリゴの酸味のある果汁が口の中に広がる。
「絶妙な果汁の酸味と甘みが広がって、甘い飴がアクセントになって美味しい!」
「でしょ、でしょ!子どもや女性に人気があるんだよ お祭りには欠かせない逸品なの」
青色の飴をコーティングしたリップルは、ベリゴほど酸味は少なかった。だけど、青色の飴をひたすら舐めるため、私の舌が真っ青になった。
「じゃあ、私たち行ってくる」
「あまり無理をするんじゃねえぞ」
「うん、師匠 ありがとうね」
カナリアと手を取り合って、エルガ村の屋台を後にする。向かうは、私とカナリアの約束であるジュレルの丘だ。
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次回予告 約束と夕陽と私




