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元Sランク冒険者は、新人!?冒険者として、お一人様を満喫したいそうです  作者: 枝豆子
第10章:神の名が揺れる街でーーヴァルハラ編

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214 音無しの帰宅と従魔の絆と私

 意識を取り戻したヴァンが、微かに震えながら私の胸へ顔を押し付けるようにしがみつく。



「アルお姉ちゃん……僕、ここにいたい……」

「いいよ……ヴァン君は、ここにいていいんだよ」



 柔らかな黒髪を優しく撫でながら、私は魔力を直接流しつつ、ヴァンを肯定する。



 甘えん坊なヴァン。時折り見せる領主の雰囲気を醸し出すヴァン。自らがヴァルハラ神だと知って恥ずかしがったヴァン。ヴァンパイアなのに、アリオスと本気で戯れ合うヴァン。死者までも我が子だと慈しみ、その憂いまでも飲み込もうとする優しすぎるヴァン。どのヴァンもいなくならないように私は、ヴァンを肯定する。



 私を見上げ、涙で滲んだ赤い瞳を細めると、ヴァンはそのまま意識を失うように眠りに堕ちた。



「エンジュちゃんも、驚かせてごめんね。今日は、ゆっくり休んでね。必ずまたみんなで会いに来るから……」

「はい……アルお姉様」



 アリオスがゆっくり立ち上がるのを見て、私は「さあ、帰ろう」とみんなに声をかける。



『にゃうん』



 リオは、小さく鳴きながらエンジュを振り返る。エンジュを気にかける様子に私の胸が、痛くなる。



「リオちゃん……心配してくれてありがとう。私は大丈夫だから、みんなと一緒にお家に帰って大丈夫だよ」

『……にゃうん』



 エンジュからのお願いに、リオが小さく鳴いて頷いた。アリオスが、眠りについたヴァンを私から引き取ろうとしたけれど、私は首を横に振ってお断りをする。



「師匠、ありがとう。だけど、今日だけは、私がヴァン君を抱っこしておきたい」

「……わかった。お前も一人で抱え込むなよ」



 ヴァンを引き取ろうとしたアリオスの大きな手のひらが、行き場をなくして私の頭へ乗せられた。ぽんぽんと軽く弾ませてから戻っていく。



「うん」



 行きはヴァンの鼻歌で通った道を私たちは静かに口を噤んで帰路につく。教会から外へ出た途端、私たちに纏わり付いていたエンジュの魔力とヴァンの魔力が薄れていった。





「アル様、お勤めご苦労様です」

「あの……今日は、今日だけは、ヴァン君を預かってはダメですか?」



 帰宅すれば、玄関先に待機していたヴァンの眷属。いつもの様に、主であるヴァンを迎えに来ていた。



 どうしても、このままヴァンを帰したくなかった私は、ダメもとでヴァンの眷属に預かりたいと願い出る。



「申し訳ありません。それは、主の望みではありませんので、このまま引き取らせてもらいます」



 私の腕の中で眠るヴァンを恭しく受け取ると、眷属は一礼をして霞のようにヴァンとともに消えていった。




「アルさん、アリオスさま、おかえりなさい」



 玄関の扉を開ければ、孤児院から帰宅していたモナリィが、明るい笑顔で私たちに声をかけてきた。



「リオ、エンジュちゃんのお歌は楽しかった?」



 モナリィの何気ないいつもの言葉は、私の胸をナイフで突き刺すように心臓を締めつけてきた。



『にゃうん』



 いつもと同じで、リオもモナリィに返事をする。モナリィのお膝にすりっと大きな身体を擦り付けると、モナリィも待ってましたとしゃがんでリオの首筋に抱きついた。モナリィとリオのいつもの距離を感じて少し胸を撫で下ろす。



「モナリィ……リオが赤ちゃんの時から一緒に暮らしてたんだって……」

「そうか……」



 姉妹のように仲睦まじいモナリィとリオを見て、アリオスと繋ぐ手に力が籠る。私の不安に応えるようにアリオスも静かに繋ぐ手を握り返してくれた。



 私とアーくんは、アーくんの真名を魂に刻まれ従魔になった。アリオスと毛むくじゃら(ガル)は、ヴァンが従魔契約に立ち会ったと聞いた。バートと精霊ノームのイッチは、イッチがバートの錬金術に惚れ込んで弟子入りするように押しかけてきた。



「師匠……モナリィとリオは、従魔契約がないの?」

「……ああ、そうだ。二人の繋がりは、一緒に過ごしてきたという時間だけだ」



 リオがエンジュを守る姿が、頭の中で何度も繰り返される。



 エンジュの歌は、導きの歌。歌い祈る本人が意図しなくても、その紡がれる歌によって魔物たちが導かれる。



 初めてエンジュの歌声を聴いた時、【導きの地図】だと感じていた。モナリィの道、リオの道が再び交わることを祈りつつ、私は家の中へと入った。



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