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元Sランク冒険者は、新人!?冒険者として、お一人様を満喫したいそうです  作者: 枝豆子
第9章:最果ての街マローへの帰還!巡りあう想いと新たなる絆編

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178 悪魔の囁きと賢者の苦行と私

 右腕の感覚がない……。


 そんな違和感を覚え、意識が少しずつ覚醒していく。また、ガルがベッドに潜り込み、俺を枕がわりにしやがったのか? 懐に潜り込んでいるガルを確認すべく、薄っすらと目を開ける。



 ガルの柔らかい銀毛を撫で付けながら……銀毛!? ガルは、真っ黒な毛並み……なぜ、銀? 


 ドクドクと早鐘を打ち始める鼓動が、俺に信じたくない正解を導き出す。



「……んな!?」



 俺の身体に白く長い手を巻き付かせて抱きついている銀毛の正体……アルが、まだ眠いとグルグリと俺の胸に顔を擦り寄せて、クウクウと無防備に眠っていやがる。



 無意識に俺自身の手足は、アル自身を挟み込んでいた。覚醒と共に触れ合う身体が、お互いの体温を主張し始める。



 ベッドのそばでガルが、大きな口を開けて欠伸をしながら俺を見た。『へへっ』と笑う真っ黒な毛並みの相棒が、今は少し憎たらしい。



 アルだと認識した瞬間、俺の身体が正直に反応し始める。意識しないようにしたくても、熱を帯び出す身体がいうことを聞いてくれるわけが無い。



 パタン、パタンと床を叩き出すガルの尻尾が腹立たしく、今すぐ大きな声をあげてベッドから飛び出したい衝動にかられるが、できるわけがない。



 アルを起こさないように、ほんの少し腰を引かせ自身の昂りから距離を取らせる。



 だあああああ!



 なぜ、お前は、そんなに無防備なんだ! 俺をそんなに試したいのか!? もういっそうこのまま全部奪ってもいいんじゃないか!? なあ! なあ! なあ!



 薄く開く桜色の唇から漏れる小さな吐息に吸い寄せられていく。もう、抗う力もほとんど残っていない。無防備に眠る少女の頬に俺は静かに指先を添えた。



 鼻先を掠る甘い毒のような吐息が、なけなしの理性を根こそぎ奪い去っていく。


 悪いのは、俺じゃない……。お前だって、望んでいるんじゃないか?




「……お……おばあちゃま……」

「クッ……」



 俺は、頬に添えた指先をアルから離し、自分の両目を覆った。



「……ズルイだろ……」



 パタン、パタンとガルの尻尾が規則正しく刻まれる音を、一つ一つ数を数えながら、人生最大の苦行を乗り越える決意をしたのだった。






 「………31、5632、5633……」



 耳元で静かに聞こえる数え歌? 音程もへったくれもないアリオスの呟く歌声を聴きながら、ゆっくりと瞼を開けた。



「……し、師匠……何の数?」

「ああん!」



 起き抜けに聞こえてきた数え歌が、異様な数だったから、素朴な疑問として聞いただけなのに、なぜそこまで地を這うような低音ボイスで、凄まれなければならない?



 数を数えるのをピタリと止めたアリオスが、左手の親指と人差し指で、私の頬をゆっくりと摘む。



「……スースー、クークーと人の気も知らねえで……」

「!? い、痛い! 痛いから! し、師匠、ほっぺた千切れる!」



 ギリギリ、ギリギリと手加減なしで、摘まれる私のほっぺ。今、大惨事になっている。ペシペシとアリオスの手を叩こうが、一向に弛まない指先。



「ご、ごめんなさい……鍵……壊しました!」



 だって、どうしようもなくなって……不安で、不安で、仕方なくて……。



「……ハア……いつでも……ガルを貸すから……」

『わふっ!』



 大きなため息を吐いて、アリオスが私の頭を優しく撫でた。



「いえ……我が姫、その心配は及びません」



 突如、背後からアーくんの声がして、私とアリオスがベッドから起き上がり、アリオスの部屋の扉に視線を向けた。



「……クソ悪魔……なぜ、そこにいる」

「おや? 下賎な不埒者め……私が、我が姫の御心を何もわからないとでも?」



 扉の前に立つアーくんが、なぜか鳥が止まるような止まり木を持って、扉の前に静かに立っていた。



 アーくんが、静かに私のそばに近づいて膝をつき、私の右手をそっと取る。



「我が姫……我慢など不要でございます 姫のお望みを私めに教えていただけませんか?」



 私の心を全て見透かすような赤い瞳が、静かに訴えかける。



「アーくん……あのね……夜、一人だと……耐えられないの……」



 私の右手をアーくんが包み込むように左手を重ねる。そして、額をそっと近づけて静かに言った。



「我が姫よ……ご無理は必要ございません 今宵より、私どもと一緒にここで眠ればよいのです……」

「!? ちょっと待てや! クソ悪魔!」



 私は、アーくんの魅力的な提案に目をパチクリさせる。


 アリオス、アーくん、毛むくじゃら……みんなで一緒に夜を過ごす?



「アーくんも一緒にいてくれるの?」

「ハイ……そのための止まり木でございます」

「毛むくじゃらも……?」

『わふっ!』



 アリオスが、信じられないものを見るように、私の顔を凝視する。



 アリオスは、いつだって隣に居て良いと言ってくれた。その言葉を思い出すだけで、胸が熱くなる。



「我が姫のお望みのままに……」



 右手を前に交差させ、燕尾服のアーくんが赤い瞳を伏せて頭を下げた。



「待て! なぜ、クソ悪魔が許可を出す!」



 アリオスの弟子である私は、しっかりとお礼を言わなくてはならないだろう。アリオスに向き直り、ベッドの上で正座をして深く頭を下げた。



「師匠、今夜からよろしくお願いします」

「……せめて、ベッドを持ってきてくれ……」



 こうして、私の部屋から可愛らしいアーくんセレクトの天蓋付きベッドをアリオスのお部屋に持ってきて、お部屋のお引越しが完了したのだった。






全ては我が姫の御心のために……byアーくん

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