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番外編 2. ノーマ伝

「クリフト様、お久しぶりですね」

「ああ、結婚式ぶりだな」


クリフト様と辺境伯令嬢シャロン様は2ヶ月前に結婚されたの。

前陛下のご逝去とかがあったから、喪明けにようやく実現した。

クリフト様は現在臣籍降下してクリフトフル侯爵になっている。


「お待たせしました」

「おせーよ、レノ」

「お疲れ様です」


集合場所になっていたのは王族専用の図書室。


私が王子妃教育のために受けていた王族の歴史の資料を探してい時に偶然見つけたものがあったの。


それは魔女ノーマの昔話の元になった『ノーマ伝』。


今日三人で鑑賞する座談会を私が開いたの。



その中には、ノーマ姫は異母妹エニシャ姫の侍女としてこの国に送られて来たということが書かれていた。


これはアマポラッサの資料館にあったノーマ姫の置かれていた立場を伝えている資料と合致した。


ノーマ姫はアマポラッサの、古の魔女の血を引く平民の母と王の間に生まれた。


その古の魔女の血は、私にもレノ様にもクリフト様にも、みな、この国の王家には引き継がれているのよね。


「古の魔女とはどんな人か興味がわくわね」

「ははっ、ノーマだけに」

「そう、私、まだまだ知りたいことが沢山あるのよ」

「お前、だからって城を抜けだそうなんて思うなよ」


最近クリフト様は、私を「君」ではなくて「お前」と呼ぶようになったわ。



『ノーマ伝』は次のようなものだった。


***


ラミリュク王の父の後宮(ハーレム)には百人以上の妻がいた。

祖父の代には更に大勢の妻がいたと伝わっている。


ラミリュク王には当時30人の妻がいたが、それらは内外から政略的に寄せ集められていただけで、本当の妻ではなかった。

不必要な人数のハーレムを子どもの頃から嫌っていた24歳の若き王にはまだ子が一人もいなかった。



その後宮にアマポラッサ王国から12歳のエニシャ姫、その侍女として14歳の異母姉ノーマ姫が共にやって来た。

ノーマ姫は古の魔女の血を引く平民の母を持つため母国王家での序列は低く、母国でも侍女のように扱われていた。


ノーマ姫は王族の身分に執着はなく、いずれ平民となることを夢見ていたので、後宮女官にはならずに通常の侍女として王宮で働きながら妹姫のいる後宮に通っていた。


一旦後宮女官になってしまうと死ぬまで後宮からは出れないからだ。


まだ幼いエニシャ姫はそれでも異国の地での不安からノーマ姫を何かと頼りにしていた。

成長するに連れエニシャ姫は我が儘で横暴になり、ノーマ姫を虐げるようになった。

既にポーラシュ人の侍女をエニシャ姫が雇ったので、もう自分が後宮には通う必要はないと判断し、以後後宮には近寄らなくなった。


それを不服に思ったエニシャ姫は、侍女長を呼びつけ、ノーマ姫を解雇するよう命じた。


この日を待っていたノーマ姫は、後宮と宮廷にいる全員の記憶の中の自分についての記憶を抜き去る魔法を使用し王宮から去った。


誰一人ノーマ姫のことを記憶する者はおらず、エニシャ姫すらノーマ姫の存在を完全に忘れた。


だが、ラミリュク王だけは魔法が効かず、王宮から姿を消したノーマを探すように命じた。


ノーマ姫は町外れの森近くに住み、薬草で作った秘薬等を売って平民として生活をするようになった。


何年経ってもノーマ姫は見つからず、そのうちラミリュク王は病床に臥した。

死期を悟ったラミリュク王は後宮を解体することにし、妻らをそれぞれの国へ帰した。


王が後宮を解体したこと、王が死に瀕している噂を聞いたノーマ姫は、転移の魔法で王の寝所に忍びこんだ。


当時まだこの国には魔法を使う人はいなかったので、ノーマ姫が魔法で王宮に侵入するのは容易かった。


ノーマ姫は王へ近寄ると治癒の魔法を使って病を治した。

去ろうとするノーマ姫の腕を掴み、自分の妃になってくれるようにラミリュク王は懇願した。


「絶対に魔法を悪用しないこと、私を王宮に閉じ込めないのであれば」

「誓おう」


そうしてラミリュク王とノーマ姫は結ばれた。



ノーマ妃は二人の王子と二人の王女を産んだ。子らはみな魔法を使うことができた。


ノーマ妃は度々宮を抜け出して周囲を驚かせた。


ラミリュク王の代からは、以前のような規模のハーレムは持たなくなった。


ノーマの子らは勤勉で謙虚、魔法を正しく使い、賢き王の血脈となった。



***



「どこにも後宮(ハーレム)潰しの魔女とは書かれていねぇよな」

「伝説とか伝承の類いはそのようなものなのでしょうね」

「フッ、けどさ、ノーマ姫が王宮から逃げるとか、薬草の秘薬を売っていたとか、まるで誰かさんみたいだぜ」

「血は争えない、先祖返りでしょうか」

「ブブッ、先祖返りって······、レノにしちゃ面白いこと言うじゃんか」


先ほどからノーマの反応がない。


「ノーマ様···?」



王子妃教育などの疲れか、気の置けない二人に囲まれて寛げたのか、私はこの時すっかり寝落ちしてしまっていた。


私が主催だったのをすっかり忘れていたわ。



「···ノーマ様には本当に毒気を抜かれますね」

「そうだな」


異母兄と従弟は、優しく目を細めた。



(了)

また、次の作品でお会いしましょう。


この度も、最後までありがとうございました。

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