16.マルヒュス
しめやかに葬儀が執り行われ、国中が半旗を掲げた。
葬儀に参列するために他国へ嫁いだ姉達や従姉妹達が帰国した。
はじめて対面したお姉様達には「この子誰?」「何この子」という反応を受けた。
ミハエル様の婚約者だと知ると「なんでこの娘が」「正気なの?」という目つきで見られるようになった。
まさに蛇蝎の如く嫌われてしまったわ。
女性は異性よりも同性に厳しいと言われているのは本当ね。
帰国するまで無視され、挨拶すらさせてもらえなかったの。
こうなるとわかっていたとはいえ、皆様に嫌な思いをさせてしまってごめんなさい。
用が済んだらちゃんと出て行きますから。
それから10ヶ月後、新国王の戴冠式が行われた。王太子殿下が即位し王弟殿下が補佐役に回った。
豪華絢爛な式に私も末席を汚した。
元気になられたティティア様も出席され、父上と睦まじくされている。
ティティア様は今でもとてもお美しい。
来賓達が退席し、王家の親族と側近だけの宴になった。
「実はこの国にはまだ第三勢力があるのです」
レノ様がそう教えてくれた。
「第一はポーラシュ王家(魔女ノーマ)派、第二はルファーブル(エニシャ)派、そして第三はマルヒュス(ノーマとエニシャの兄)派、私の系統ですね」
「ええ?!」
「私の母は、亡きアマポラッサの王室の血を引いています」
以前にクリフト様が、レノ様が異国の血を引いていると言ったのはこのことだったのだ。
「全部亡きアマポラッサ王室絡みなのですね」
「そうです、これはとてもおかしなことでしょう?」
ノーマもエニシャも、マルヒュスもみな異母兄妹だ。
そのうち魔力持ちなのはノーマの系統だ。魔力を異端視したノーマが生きた時代には、庶子であったノーマを軽んじて虐げていたと資料館で知った。
そのノーマがこの国の王に選ばれて迎えられた。王家がノーマを選んだということは、ノーマの系統を受け入れたということでもあるのよね。エニシャの系統ではなく。
そして大規模なハーレム、権力闘争渦巻くハーレムが解体された。
「レノ様はマルヒュスとノーマの両方を継いでいるのですね」
「あなたとはその分血が濃く、近いですね。と言っても百年以上前に滅びた王家の血ですが」
「アマポラッサは王族同士の権力争いで滅びたのでしたよね?」
「他国による侵略ではなく自滅ですから、実に愚かなものですね」
アマポラッサ王家の紋章は、王冠を被った三匹の蛇が絡み合いお互いを噛み合っている図案だ。
「亡国の王家が、他の国の王家を乗っ取ろうとするなど侵略でしかありません。それを私をはじめ、我が国はそれを阻止したいのです」
「他国の王家への敬意がまったくありませんね。そんなだから滅びたのでは?」
「まさに同意見です」
「愛がありませんよね。ルファーブルのやり方を見ていると凄くそれを感じるのです」
どのような国でも昔から同盟など政治的な理由で他国と混血はしている。閨閥による支配や権力の集中だってあるだろう。
今この国は、王族達が望んでいない、亡国の勢力からの乗っ取りの脅威に晒されている。
それを最も平和的に回避するには······。
レノ様とは言外に通じるところがあるように思う。
きっと同じ感覚、目指しているものが同じなのだわ。
「私はあなたを愛していますよ、ノーマ」
レノ様が唐突に言い出した。
かつて兄ニールが私に何度も囁いたものとは別物だ。
だから私も、レノ様へは素直に返したくなる。
「私も、お兄様を愛しています。愛とか恋とかはよくわからないですが、それでも愛しています」
愛していると、勢い余って二度も口にしてしまい、赤面してしまうわ。
でも、感涙しそうなほど満たされている。
「あんたら、何イチャイチャ告白ごっこしてるんだよ、聞いてるこっちが恥ずかしいぜ」
クリフト様が突っ込んで来るタイミングはいつも絶妙だ。
「婚約者の私を忘れてもらっては困りますね」
ミハエル様にはディーン様がいますよね。
「私だってお兄様だ」
「私もだ」
私のお兄様達が全員集合した。
これは王族の宴ならではよね。
残念ながら他国にいるお姉様達は、出産を間近に控えていたり、出産したばかりでここにはいらっしゃらないけれど。
また新たな血縁が増えて行くのね。
子ども達はとっても可愛い。
いとこ達の伴侶とその家族も加えると大勢になって来て戸惑ってしまう。
いきなり大家族になったようなものなんだもの。
でもそれは嫌ではない。
そんな宴もたけなわの最中に、突如破壊音が響いた。
皆が音のした方向に一斉に顔を向ける。
ヴゥゥーン······
魔法による召還の音が鳴り、巨大な角を持つ赤茶色のバッファローに似た魔獣が現れた。
続いて武装した男女が乱入した。
魔獣はその角で周囲をなぎ倒し、阿鼻叫喚を生み出している。
男女は若き王に剣を突きつけた。
会場は騒然となった。
「······テレサ」
父が立ち上がって忌まわしい名を口にした。
テレサとは私の生母の名だ。
なぜここに、私の生母がいるのだろう······。
呆然として言葉が出ない。
テレサと呼ばれた女は、王らに向かって魔法を放とうとしている。
母はエニシャの系統なのに魔法を使えるのはノーマとエニシャの混血なのだろうか?
母の隣にいる男は伯父なのか?
クリフト様が瞬時に防御の魔方陣を張った。
レノ様も加勢した。
近衛騎士のディーン様が盾になるべく私の前に背を向けて立った。
私は咄嗟にその盾を避けて、母であろう人に忘却魔法をかけた。
ここに来た理由や目的をまず消した。ルファーブルに関する記憶もすべて抹消した。
テレサは動きを止め、頭を自分の両手で覆いながら呻いた。
「うう·····」
パチンと指を鳴らすと、テレサはその場に崩れ落ちた。
会場はどよめいた。
男はレノ様とクリフト様が既に制圧していた。
魔獣は騎士達に囲まれ逃げ場を失って激昂している。
咆哮をあげながら前方へ突進しそうになった。
私は魔獣に向けて、魔獣である記憶を抜く魔法をかけた。
すると魔獣は即座に消え去った。
「君、結構やるね」
ミハエル様に褒められてしまった。
「······お褒めに預かり光栄です」
「ん?!君、どうしたんだ、その髪は」
「ノーマ様、髪が!」
ディーン様にまで驚きの声をあげさせてしまっていたので、纏め髪をサッとほどいてみた。
以前忘却魔法を使った時には、手に黒い染みができていたけれど、今は髪が黒く染まっていた。
昔話の後半の魔女ノーマの黒髪は、ノーマが忘却魔法を使ったせいで黒く染まったのかもしれないとこの時気がついた。
魔女ノーマのように、私の金色の髪はこの日から黒髪になった。
レノ様や他の魔導師様達の回復魔法でも元に戻せなかったからだ。
捕まった母テレサは、目を覚ましても錯乱状態が収まらないらしい。
男はやはり伯父で、後がなくなったルファーブルとして最後に華々しく散るために、王を襲ったという。
ルファーブルの歪んだ欲望こそが、かつてのアマポラッサを自滅に導いたのだ。
身内の信じられない暴挙を、私はどう償えばいいかわからず、途方に暮れた。
「あなたの忘却魔法の使い方は独特ですね」
「魔獣に忘却魔法を使う奴をはじめて見たぜ」
「やっぱり毒気を抜かれるな」
「そのようだな」
せっかくこのお兄様達とも親しくなれそうだったのに······。
それも、もう終わりだ。
私は何も言えずにただ涙した。
こんな······母も、ルファーブルも滅びてしまえ!!
私はそう心の中で叫んでいた。
次回ラストです。




