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14.刺客

リンジー様がブレイク侯爵家を突然出て行ったとクリフト様から聞かされた。

置き手紙などもなく、行き先は不明。


レイリー様は大丈夫だろうか。


ブレイク侯爵家にも監視用の人員を置いていたのだと思うけれど、このような費用も馬鹿にならない。

国や王家を脅かす組織や勢力があるということは、そのような費用が膨れ上がることになってしまうのね。


自分がその監視及び保護対象と自覚してから、実感している。


先日の私のお茶に毒を盛った犯人もまだ捕まっていない。

私の警護も増えてしまって申し訳なくなる。

余計な仕事を増やさないように気をつけているのだけれど。


仮の婚約者から解放されたら、王宮からは可能であれば出たい。


私が王家の遠縁という形で伯爵位を得たけれど、王弟殿下の娘、レノ様の妹、クリフト様の従姉とは表向きには名乗れない。


クリフト様に私の命を狙っているのは反ルファーブル派と、ルファーブルの中の権力争いで対抗している一派だと言われた。


カールソン侯爵家は脱ルファーブルで中立派ということは、私を殺しはしないけれど助けもしないというスタンスということだ。


味方ではないけれど敵ではないならば、味方のふりをした敵よりはそれでもまだましかもしれない。

かつて家族だった人達に命を狙われるのはこたえるから。




本日の王子妃教育を終えて、自室へ戻るために回廊を護衛と共に歩いていた。

その途中、中庭の方から足早に歩いて来た侍女に、すれ違い様に腕を掴まれた。


二の腕に爪が食い込むほどの力だった。


「痛い、離して!」


必死で抵抗しても、侍女は腕を離そうとはしなかった。


細いのに、物凄い力だ。


既に爪が食い込んだところがズキズキと痛くなっている。

猛禽のような鉤爪に掴まれているかのようだ。

うっすらと血が滲んで来た。


「貴様、離れろ!!」


屈強な護衛が二人がかりで引き離して拘束した。

侍女が被る白いボンネットを力ずくで外すと、水色の髪が現れた。


私は息を飲んだ。


「······リンジー様?」


彼女は顔を歪ませて私に言い放った。


「なんであんたが王子妃なのよ!そんなのおかしい!!」


普段の妖精のような可憐さはそこにはなかった。


「レイリー様はどうしたの?」

「あんなボンクラはいらない。私は侯爵夫人なんかじゃ満足できないのよ!」

「あなたもルファーブルだったのね」

「ルファーブルなんかどうでもいい!私は高位の男と結婚したいだけ。だからあんたは邪魔よ!」


「黙れ!」


リンジー様は駆けつけた護衛に拘束具を付けられ、猿ぐつわをはめられて引き連れられて行った。


尖った付け爪のようなものがいくつか床に落ちていた。


リンジー様を見送る暇も無く、私は腕の強烈な痛みと身体の痺れで立っていることができなくなった。


「ノーマ様!」


その爪に何か仕込まれていたのか、爪を立てられた部分が焼けるように痛い。


私の異変に気がついたのか、足を止めて振り返ったリンジー様の水色の瞳は、異様に赤く充血していた。


その瞳が倒れた私を捉えると、猿ぐつわのまま嗤って醜悪な相貌を見せた。

けれどリンジー様は痙攣を起こしてその場に倒れた。


私も意識を失った。




目を開くと自室の寝台だった。たった今安堵したばかりのレノ様が視界に入った。


「レノ······様?」


侍女が弾かれたように部屋の外に誰かを呼びに行った。


私は五日ほど意識を失っていたようだ。

それでもまだ身体が重くて動かせない。


「リンジー様は······どうなりましたか?」

「腹黒女は死んだ。葬儀も終わっている」


クリフト様が部屋に入って来るなり答えた。


付け爪の先端がいくつかは割けていて、そこからリンジー様本人も仕込んだ毒を浴びてしまったらしい。


暗器の使用に慣れていない者がやりがちな事故死だとクリフト様は言った。


クリフト様は魔導師だけど影や暗部の仕事も受け持っているようだ。



「······レイリー様は?」


「男爵家が引き取りに来なかったから、レイリーが遺体を引き取って葬儀を出した」


私はたまらずに涙が込み上げた。


リンジー様への憐れみではなくて、レイリー様があまりにも不憫だったからだ。



過激なルファーブル派はやはり殲滅しないと危険だと、これではそう判断されてしまうだろう。


リンジー様を養女にしていたスタール男爵は逮捕された。多分爵位は剥奪される筈だ。


レイリー様にはリンジー様の罪状及びルファーブルとの関係は伏せられた。

リンジー様は実家の没落に耐えられず自死したということにされたようだ。


私への攻撃が自殺行為だったのは事実だ。


エニシャ姫の系統は政敵によく毒を用いていたのだそうだ。



レイリー様にはロンダ名義でお悔やみのカードと花を送った。

しばらくは外出できないから。


リンジー様も、愛とか恋とかはきっとわかっていなかったと思う。


こんな私に言われたくはないでしょうけれど。



リンジー様の交際相手の複数の貴族令息達もルファーブルとの繋がりが発覚し検挙された。




それから間も無く、病床に臥していた国王陛下がご逝去された。

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