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11.コネリー伯爵

王弟殿下から第三王子ミハエル様と婚約するように命じられてしまった。


先日王太子殿下と奥方様達にご挨拶した際に


「王家のためになりますならば、どうぞ良きように私をお使い下さい」


そう私は言った。


確かに言ったけど!


でもまさかこんなことになるなんて。



「仮でいいので、よろしくお願いしますね、ノーマ」


今日もわざわざ花束を持ってミハエル様が私の部屋に訪ねて来られた。


「なぜ私なのでしょうか?」

「主に王宮内でのあなたの身の安全のためと、毒気を抜くのを間近で見たいからですかね」

「······毒気?」


レノ様の方を向くと、聖人君子のような清い笑顔で微笑まれてしまった。


レノ様······!


「兄妹でなければ、私が結婚してもかまわなかったのですが」


レノ様はさらりとそう言って、私の手の甲にキスをするふりをした。


「うわぁ、ここにもヤバい兄がいるぜ」


クリフト様がすかさず茶化した。


「まあ、婚約だけなら俺でも良かったんだけど、それだとノーマが嫌だろ? ハハッ」


そう言いながら、クリフト様もレノ様と反対の手の甲にキスをした。


な、なんなんだこれは?!



私に爵位が与えられ、ノーマ·コネリー伯爵になった。

下手にどこぞの貴族に養女に出すと後々面倒だから、遠縁の忘れ形見という扱いに無理矢理したのだ。


王太子殿下と第二王子殿下は既婚で、三人の姫様方もそれぞれに嫁ぎ、王宮にはいらっしゃらない。

現在国王陛下が病気療養中とのことで、王弟殿下と王太子殿下が協力して代わりを勤めている。


場合によっては陛下の退位もあり得ることから、宮廷内の派閥勢力が大きく動くであろうこの時を狙って、膿を出して浄化しようと王家が今一丸となっている。


ルファーブルの残党も一掃したいところなのでしょうね。


そこに一役買えるのであれば、私も微力ながら力になりたい。



私の部屋にアレクシス様と、ジュリアン様も時々様子を見に来て下さるようになって、嬉しい反面、余計に落ち着かない。


王太子妃様達には私的なお茶会に招かれるなど少しずつ交流が広がっている。

従姉妹には私を嫌悪する人もいるけれど、それは想定内。

何のわだかまりも無く私を受け入れる方が稀なのはわかっているわ。


囮としても気をつけないとならない。


侍女や護衛騎士を装おって私に近づいてくる人達もいる。


顔も知らない貴族令息から、付け文などを届けられて困ってしまう。

第三王子が婚約者なのにこんなことをしてくる人の気がしれないし、怖い。


手紙はレノ様に全部渡している。


「この手合いはルファーブル派です」

「ルファ-ブルは押しが強いんですね···」

「必ず護衛と行動し、一人にならないようにして下さい。隙をついて取り入ろうとする者もいますし、既成事実を作ろうとする輩もいますから」


それは、まさに私の生母がやらかしてしまったことだけれど······。


宮廷内の勢力を見た目ではまだよくわからないので、気が抜けない。


夜会にはまだ出ていないけれど、いずれ御披露目ということで衆目に晒される日も来る筈だ。


仮初めでも王子妃としての教育も受けないとならないので、なかなか忙しくなっている。


侯爵家で淑女教育は既に受けていた分、助かっていた。


平民として暮らすにも王族になるにしても、どちらに転んでも、教育で身につけたものは我が身を助けてくれるものなのだと身に沁みた。


けれど、毒を盛られることは、子どもの頃から少しずつ慣らされる真の王族達とは違って、私には毒の耐性はまだない。



「グホッ、ウェェ···」


自室に運ばれたお茶に毒が盛られていたのに気がつかずに飲んでしまい、私は吐いて倒れた。


激しく不味かったので即吐いたけれど、これが無味無臭なもの、味が変わらないものならば、多量に飲んで死んでいたかもしれない。


すぐに気がつくようなものは、暗殺というよりも脅し、警告、嫌がらせの可能性が高いのだとか。


不味い味の記憶が、もう口の中には全くなくなっても、その味を何度も再生してしまう。


「落ち着きましたか?」

「は···い、ご心配かけてすみません」


寝台に横になっていた私をミハエル様が見舞いに来て下さった。


「また来ます」


ミハエル様が部屋を出て行くと、入れ替わりにジュリアン様とアレクシス様がいらした。


その後にはクリフト様も王太子夫妻様まで。


見舞いに来てくださる方々が多くておちおちと眠る暇がない。

そのお陰で、自分が殺されるかもしれない恐怖を感じずに済んだけれど。


毒を盛ることができるのは、王城内にいる人。すぐそばに敵が潜んでいるのが王宮というところ。

王族とは、こんなことにも耐えないとならないのね。

望んで王族になったのではなくても、避けては通れないのでしょうね。



「お加減はいかがですか?」

「だいぶ楽になりました」

「このような目にあわせてしまい申し訳ありません」

「レノ様のせいではありません。私が新米王族過ぎるのです。嫌がらせぐらいならまだ平気です」

「······あなたは、存外お強いのですね」


レノ様は、済まなさと驚きが入り交じったような顔をした。


「では、報告してもよろしいでしょうか?」

「かまいません」


母方のルファーブル家はほぼ壊滅状態で、今はルファーブルの配下にいた貴族らが勝手に動いていること、カールソン家はルファーブルとは手を切って中立派と手を組んだと知らせてくれた。


「あなたの兄君の婚約者の家がその中立派の筆頭ですから、中立であることを証明するためにあなたを手放したのかもしれませんね」

「調べてくださってありがとうございます。それと、母の嫁いだ子爵家はどうなっているのですか?」

「子爵家は元々王家の忠実な配下で、見張るために嫁がせたのです。母君にも特に怪しい動きは今のところありません」

「母と子爵の間に子どもはいるのですか?」

「いませんよ。いるのは子爵の前妻との子どもだけです」

「······良かった」


私は気になっていたことの回答が聞けて、安心から脱力した。


「ゆっくり休んで下さい」


レノ様はズレた掛け布団をかけ直し整えてくれた。

侍女のようなことまでしてもらって、何から何まで申し訳ない。

やっぱりレノ様が一番安心できる。


「······ありがとうございます、お兄様」


レノ様は一瞬驚いて、ほんの少しだけ恥ずかしげな表情を浮かべた。


「私だけをそう呼んで下さると嬉しいのですが」

「なるべくそういたします」

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