12.従姉妹
従兄弟の顔と名前も段々一致するようになって来た。
私を受け入れてくれる人とそうでない人は半々ぐらい。
政治的な囮役と理解している冷静な方々は、私のことは黙認し、一定の距離を保っている。
今日招待された私的なお茶会の主催者はクリフト様の異母妹様達。
アリッサ様とメリッサ様は双子なので私にはまだ見分けがつかない時がある。
「ノーマ様、王宮には慣れましたか?」
「はい、お陰さまで」
私よりも四歳下の、既に嫁ぎ先が決まっている金髪碧眼の美姫様達。
一人は国の防衛の要の辺境伯へ、もう一人は国王の側近の侯爵家に。
もしも私が生まれた時からこの王族の中にいたら、私も政略結婚で他国等へ嫁がされていたかもしれないわ。
クリフト様の姉君と義母様は、私を嫌悪しているので目も合わせないし、口ももちろん聞いてはもらえない。
「なぜお二人はこのように私と親しくして下さるのですか?」
「だって面白そうだから」
二人は同時に答えた。
「そんなに私は面白いでしょうか?」
「だって物凄く抜けている人だから」
「うん、馬鹿よね」
「私達、自分よりも馬鹿な人が必要なの」
彼女達には悪びれるところがない。
彼女らの侍女達も見ないふり聞こえないふりを通している。
表向きは仲良くしているように見せて、実際は私を言葉で汚すのが、二人とのお茶会の定番になっている。
貴族学園でもこのようなことをする方々はいたようだけれど、私は侯爵家だったのでその被害にはほぼあわなかった。
低位貴族の令嬢がそんな扱いを受けているという噂は知っていたけれど、その現場に居合わせたことがなかった。
今思えば、それは兄に守られていたせいもある。
世の汚いもの醜いものは私の目には触れさせない、遠ざけようとする過保護。
兄が学園を卒業するまでは、行きも帰りもべったり私から離れなかったし、私が何か危害を加えられそうになると侯爵家の威光で解決してくれていたのよね。
そのお陰でかなりの世間知らずになってしまったわ。
双子達のことを、クリフト様やレノ様には言つもりは無い。
彼女達が嫁ぐまで辛抱していればそれで済む。後数ヶ月だけ、やり過ごせばいいだけだ。
今は余計な波風を立てるのは避けたかった。
「あなた、魔法が使えるの?」
「少しだけなら」
「じゃあ見せてみて」
しおれた花を蘇らせ、壊れたものを元に戻すのを見せると、わざと壊したものを直させたりを何度もさせて来た。
それにはすぐに飽きたらしく、魔法を見せろとは最近はすっかり言わなくなった。
彼女達は退屈をもて余し、刺激を求めているようだ。
私が忘却魔法を使えると知れば、悪戯に利用されてしまうと思ったので、そのことは内緒にした。
第三王子の婚約者でも、私の事情を知っている人からすれば、序列は自分達よりも下だとわかっているからこそ、このような態度と接し方になるのだろう。
序列で対抗できない時は、こんな方法もある。
「アリッサ様の婚約者のボーエン侯爵令息様とその妹のアイリーン様のことは、良く存じ上げております。学園時代は生徒会で仲良くしていただきましたので」
「!?」
嘘はついていない。
アイリーン様は彼女の結婚後も手紙のやり取りをしていたのは事実だ。
私が最近色々あって音信不通になってしまっているけれど。
アリッサ様や姫君は学園には基本的には通わないから、知らなかったのだろう。
このくらいの牽制ならば私でもできる。
アリッサ様はしばらくワナワナと震えていたけれど、何も言わずにプイッとそっぽを向いた。
これで少しは収まると良いのだけど。
私が二人のことをクリフト様に言いつけないという自信はどこから来るのだろう?
まだクリフト様から何も言われないから今後もずっと平気だと思っているとしたら、見込みが甘すぎるわ。
末っ子で周囲に甘やかされたせいなのか、まだまだ脇が甘いと思ってしまう。
侯爵家でもそのままが通ると思っているのだろうか。
自分の身分を鼻にかけるならば、それ相応の品性と責任を負わないとならないのよね。
特にボーエン兄妹は、そういうところが結構厳しい人達なのよ。
私はちょっとした老婆心から付け加えた。
「ボーエン兄妹は、とても正義感の強い方達です。虐めや差別をするような方には厳しいようですので、どうぞお気をつけ下さいませ」
その後二人のお茶会には招かれることはなくなった。
もう一人私に敵意をむき出しにしてくる王族がいた。
それはミハエル様の妹君、ナターシャ様だ。
婚約を聞いた途端、嫁ぎ先から王宮にちょくちょく来るようになったみたい。
仮の婚約者だろうと、私など絶対に認めないという態度に徹している。
それは彼女の立場ならば仕方がないと思うので、彼女と彼女の取り巻きから無視されてもなんとも思わなかった。
私が囮としての役目が終わり次第、婚約解消をして市井に戻るまで、このような扱いが続くのは覚悟しているの。
王族の方々に嫌な思いをさせてしまっているのは事実だから。




