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朧月夜に逢ひにゆく(改稿版)  作者: 斎藤三七子
最終章 朧月夜の夜に
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第九十八話

「この先、私は政界から遠ざかる事になる」

「え?」

「ただ、まだ今なら力が残っている。迷惑をかけたお詫びに、そなたの望みを何か叶えてあげたいと思うが」

「政界から遠ざかれるって、何かあったのですか?」

「それはそのうち知る事になると思う。で、そなたの望みは何だ? 顕成との縁談か?」

「ええっ? いえ、そ、そ、それは……」

 縁談という言葉に思わずどもってしまう。

「私だってそなたに宮様への想いを打ち明けたのだから、恥ずかしがることはない」

「いや、恥ずかしいとかそういう事ではなくて、縁談だなんてびっくりしてしまって」

「あいつから何かあったか? 恋文でも届いたか?」

「……何もないです」

「やはりな。ああいう男は周りから固めないと何も進まないぞ」

「でもっ。無理矢理そういう状況に持っていって結ばれても嬉しくないですっ。ちゃんと気持ちがあっての事じゃないと嫌なんです」

「前にも話したが、あいつはそなたが……」

「顕成が私を大切に思ってくれているのは理解しています。でもそれだけじゃ分かりません。用がなければ会いに来ないし、挨拶の文一つくれません。彼はいつも近付いたと思ったら、遠去かる、そんな人なんです」

 口にしながら目頭の奥が熱くなってきた。

「近江らしくないな。会いたいのなら、そなたから文でも出せばよいだろうに」

「まあ、そうなんですが……」

 道雅様はしばらく考えてから小さく頷いた。

「まあ、近江の気持ちは良く分かった。では違う形で何か用意するとしよう」

「違う形とは一体何ですか?」

「それはお楽しみに」

 道雅様は切れ長の瞳を細め、いたずらっぽく笑われた。


 卯月――

 私は兄上の邸を出て両親のいる五条の本宅へ戻っていた。宮家に勤めても全く落ち着かなかった私を見て、父上が二度目の縁談を持ってきたので大げんかになった。

 今回は母上が私の味方をしてくれ、更に道雅様の紹介でまた宮仕えの話が入るようだと分かり、その話はなくなった。


 一方、政界では大きな動きがあった。

 既に摂政職を嫡男の頼通様に譲られていた道長様が、今度は左大臣を辞されたのだった。

 後任には右大臣だった顕光様がなられ、頼通様は内大臣に――と、順に昇格があった。

 父上も大学頭に就くことになり、散位の立場から解放された。本当は伊勢でやっていたような、十歳前後の子供達を集めた学び場を作りたかったようだけど、それはまたいつかという事で。


 当子様は――いまだ小一条第に閉じ込められている。

 それどころか、何と、今頃になって道雅様と当子様が密通したという噂が公になったのだ。

 私はそれを聞いて居ても立っても居られなくなり、また小一条第の門を叩いた。

 しかし、また門前払いをされてしまう。

 諦めて帰りかけたところ、前と同じように東宮の敦明様がちょうど現れた。そして、今度は彼の御所まで招かれたのだ。

「こちらは東宮御所でもあったのですね」

 連れて来られたのは堀河殿だった。

 惟能の事を探るためにここに乗り込もうとしたことを思い出す。

 一度は僧衣で、二度目は道雅様の女房の振りをして――

「ここに来たことがあるのか?」

「いえ門前までです。こちらの家司の方を訪ねたことがありました」

「なるほどな。右大臣……いや今は左大臣の顕光は私の舅でね。内裏は再建中だから、こちらで世話になっているのだよ」

 舅と聞き、あっと声が出そうになった。

 敦明様のお后様は左大臣顕光様のご息女、堀河女御様だった。

「そうでした。存じ上げていたはずが頭から抜けておりました」

 敦明様はたいして気にもしていない風に微笑まれた。

「そんな事は別にいいのだよ。さてと、当子の話で来てもらったのだったな」

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