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朧月夜に逢ひにゆく(改稿予定)  作者: 斎藤三七子
最終章 朧月夜の夜に
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第九十七話

「それで女房を送り込まれたのですか? 道長様からの紹介だと偽って」

「状況を把握しておきたくてな。しかし大殿の紹介にした覚えはない。叔父の紹介という事にしたはずだが」

「宮家では確かに道長様からだなんて話になっていましたよ。どういう事でしょう?」

「ははん、小伊勢だろうな。大殿が宮様を狙っていると誤解していたそなたの目が真実に向かないよう、そういう話にしたのだろう」

「確かに道長様から紹介された女房ということで、私は警戒していました。あの女房に私の食膳に薬を混ぜさせたのも、後に内部の人ではなく道長様を疑わせるためだったのですね、きっと」

「そうだな。実は私側の女房だったとは誤算だったようだが。そなた本人に見つかったこともね」

「中将内侍さんって……本当に策士ですよね」

 私はため息をついた。

「しかし彼女には大きな弱点がある」

「弱点?」

「乳母子に弱い」

「ああ、当子様に対する忠誠心の強さは嫌というほど分かりましたよ」

 私は納得した気がして頷いた。

「ふっ。まあ、その通りだが、そっちじゃないな」

「え?」

「とどめを刺したのは、そなたと一緒にいた謎の大きな美女だと聞いたよ」

 道雅様は片目をパチンとはじいて見せた。

「ああ! 顕成?」

「謎の……というくだりは道満法師の請け売りだけどね。小伊勢は呪物を置きに行った時、近江に付き添う顕成の姿を見かけて躊躇してしまったらしい」

 え? 呪物を置きに行った時?

「確か私達が彼女を見かけて後を追いかけたはずですが――あの時既に彼女の方から私達を見つけていたという事ですか?」

 しかも、一目で顕成だと見破っていたと?

「あいつがそなたに協力している事は知らなかったようだよ。小伊勢にとって顕成は実の子と同じような存在だそうでね。その顕成にまで危険な事をさせている事態に愕然としたみたいだ」

 危険な事をさせている――

「それって、私が、という事ですよね?」

「いや、そうではないよ。自分の行動が結局は、宮様も顕成も危ない方へ向かわせているという意味合いだ。それでもうめようとやっと決心したらしい。宮様も彼女が協力しなければ諦めざるを得ないからね。彼女が都を出る話は聞いたか? 去る前に私のところへ挨拶に来たのだよ」

「という事は、もう京を出られたのですか?」

「ああ、もう伊勢国に着いた頃じゃないかな」

「伊勢国に? でも、もう伊勢のお邸にご両親はいらっしゃらないのでは……」

「両親は亡くなられたそうだが、弟君の家族がいるらしいよ。田舎に飽きたらまた戻って、今度はうちに勤めればよいからとは言ってあるがね」

 そうか――

 斎宮の近くの、顕成も住んでいたあの家に戻られたのか――

「彼女も宮様とは会えずに去ったようだ」

「そう……でしたか」

「なあ近江。話を戻すが、時間が経って宮様にお会いする機会ができたら、私の文と一緒に、小伊勢の事も伝えてやってくれないか。宮様は彼女が裏切ったと誤解しているかも知れないから」

「でもどうして私なのです? 当子様には他にも古くから仕えた女房がいるじゃないですか」

「宮様の女房で親しいのは近江だけだから頼んでいるのだ」

「道雅様から正式に届けられた方がよいと思います。道雅様は何と言っても三位中将様ですし、私よりも早く許されるかも――」

「近江」

 道雅様は深妙な顔で私の言葉を遮った。


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